大地は『冬』の最初の接吻でよみがえった。彼は幸福な巨人のように笑いながら、雪や、氷や、霜や、心ある風を楽しんだ。その年初めての寒気による酔い痴れ心地が、活力と満足感とで空を満たした。愛の歓びのように鋭い冷気に身を震わせて、私は狂喜した。
私たちは十一月の末にパリへ戻った。私は懐かしのわが家から発せられるあの帰郷のよろこびを少しも感じることができなかった。ただヴァリーの家を訪れる時だけが私の幸せなひとときで、これといった用もない無口な客でありながら、私はそこに居たくてならず、また居ても構わないのだった。
パリよ。この愛され、恋い慕われた街の名前が蘇らせたものは、本当に醜い亡霊たちばかりだった。それはあるいは肥大した自己満足に酔い痴れている言語道断なペトルスの幽霊であり、あるいはヴァリーの無数の崇拝者たちや追従者たちの幻影であって、私はその誰もが大嫌いだった。
旅行中、イオーネには一度も手紙を書かなかった。私の恋路における挫折感はあまりに深かったので、この苦しい思いを言外に匂わせることなしに、たとえ一行でも書き綴ることは不可能だった。なぜならヴァリーは私に対して日増しに冷淡な態度を取るようになり、私はもう絶望しかけていたのである。私はダイヤモンドの心をとろかそうと空しく熱中していたのだった。
とは言え帰国するとすぐ、私はかつての私の白い妹に会いに行った。いつものように、彼女は恐ろしいほど考えごとにのめり込んでいた。その途方もなく広い額は、たそがれの部屋の中を、巨大な白い光で照らしているように見えた。
長い間、彼女は私を見つめていて、そのまなざしは忘れられないほど悲しげで優しかった。彼女はその謎めいた思いを、その瞳を通して打ち明けようとしているらしかった。私は彼女の言わんとするところを解読しようと努めたが、私の理解力は深淵のような彼女の瞳の中で道を失った。
「お願い」と彼女はささやいた。「私をわかって。私がまだ言えないでいることを察して。私の心を見抜いて、そうして私を理解して」
私はお手上げである由、まずは身振りで示してから言った。「イオーネ、わからないわ。見当もつかない。助けて」
無限に残念、と言った様子で、彼女はゆっくりと優しくかぶりを振った。彼女の心の秘密はどんな言葉にも翻訳できなかったろう。
「別の話をしましょう。あなたはもはやかつてのあなたではない。もはや気違いじみた夢想家でもなく、天外の奇想の恋人でもない。あなたはかつて自らの誇りであり喜びであったものをすべて捨ててしまった。今のあなたの目は二つの死んだ湖で、ヴァリーの目と出会った時だけ息を吹き返す。ヴァリーがそばにいる時、あなたは彼女の顔しか見ておらず、彼女の声しか聴いていない。そうして彼女から遠く離れていても、あなたはやはり彼女を見、彼女の声を心に聴いている。今のあなたはさまよえる影に過ぎない。ヴァリーの反映もしくは反響に過ぎない」
私はなかなか収まらない身震いに襲われた。私の苦しい恋について、彼女がこれほどストレートに語ったことはなかった。
「幸せが見つからないのね」
私は笑おうとした。
「その通り。とは言え私の不幸はとても神聖なものだから、私は世界中の誰にも私を慰めることを許さないの」
イオーネは長い溜息をついた。「にもかかわらず、あなたにお願いがあるのよ。私、ちょっと体の具合が悪くて、それに何よりもとても疲れているの」
「それはあなたが考えすぎるからよ、イオーネ」私は彼女をさえぎった。「お願い。恋をするのもいい、何をするのもいい、泣くのもいい、必死に生きるのもいい。ただもうこれ以上ぞっとするような頑固さで物を思い詰めないで」
彼女は語り続けた、私の言うことに耳を貸さず、ほとんど耳に入らない様子で。
「あの恵み豊かな『南』で、少し休もうと思うの。そこでは樅の木に白薔薇の花が咲いていて、藤の花房が地に届くまで垂れ下がっている。人はそこで夕波の色をしたオリーブの木々を眺め、オレンジの花の言わく言いがたい香りを嗅ぐ。山々の草むらは菫の花で青く、海草の巨大なベッドが海を真っ赤に染めている。日ざしはとても力があって、あらゆる病気を治してしまうほど。そこへ忘れに行きましょう…あなたを癒してあげる。昔のように、あなたの『慰めびと』になってあげるわ。行きましょうよ…」
私はすべての星の光が消えて、まっくらな夜に取り残されたような気がした。たとえ数週間でも、ヴァリーのそばを離れて暮らすなんて。そのような考えの馬鹿馬鹿しさに、私はもう少しで笑ってしまうところだった。
恋しい面影が夕闇の奥から立ち現われた。私は自分をこのように衰弱した無気力な人間に変えてしまった張本人の、心ない金髪と心ない碧眼とを、数々の思い出に飾られた姿でまざまざと見た。
友の願いを優しく退けたかったが、彼女の目の中の狂おしい哀願の色を見ると、きっぱりと断る勇気が湧いてこなかった
「あとで」私は言い逃れをした。「あとで行くわ、イオーネ。今は手の離せない用事があるの」
私は友の顔をまっすぐに見ることが出来なかった。永遠に続くかと思われるほど長い沈黙の時が流れた。
「約束してくれるかしら」蒼白のイオーネが遂に言った。「後から必ず来ると」
何の前触れもない身震いに襲われたのは、その声に苦悶の響きを聴いたからだった。嘘をつくしかなかった。
「約束するわ」
「その言葉を忘れないで。運命のいたずらで、守るつもりのなかった約束を果たさなければならなくなることもあるのよ」
軽い言葉が明るい闇の中へ予言のように落ちていった。
私はイオーネの冷たい手を取った。彼女の上にのしかかっている言語を絶する悲しみが、私にもまた重くのしかかった。私たちはいつまでも寄り添っていて、私たちを包んでいた物悲しい無力感で私たちのとりとめのない思いもまたぼやけていった。
私たちは黄昏時のように悲しく、また黄昏時のように夜の空しさを恐れていた…このように仲よくうなだれた時間ほど沈痛なひとときを、私はそれまで知らなかった。(第6章終わり)