魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

再読・伊東眞夏『ざわめく竹の森』其の十六

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関ヶ原古戦場。ウィキメディア・コモンズより。

㉓六月三日:坂本城

翌朝、目覚めた光秀は、ここは何処だろうと思った。更に、自分はどうしてここにいるのだろう、戦に行かなければならないのに、と嫌な胸騒ぎがした。寝起きの良い光秀にしては珍しい現象だ。光秀は混乱しながらも、自分は信長を倒して、天下人になったのだとの記憶にたどり着いた。奥方の熙子ひろこは女人たちを指揮して青梅干しをしていた。
光秀は熙子に話しかけた。
「おい、京で何があったかわかっているのか?」
「はい、信長さまが亡くなられ、あなた様が天下様におなりだそうで」
「うむ」
「あなたが天下様になられたとは言っても、わたくしが庭で梅を干してはいけないということはないでしょう」
光秀は苦笑して、地図を見るために書院に入るると、長男・十五郎を呼んだ(天下の仕置きに地図は不可欠)。地図は2種類用意した。京を中心に日本海側・若狭から、丹波・丹後を経て山城から大和に到達する縦の地図。もう一つは、安土を中心とした湖南の東西にのびる一帯の地図だった。光秀は一心に地図を眺めると、自然に作戦や戦術が浮かんでくるのだった。
「父上、十五郎で ございます」
襖の向こうで声がした。光秀は腰に差している扇子を出して、地図の一点一点を指し示しながら話を進めた。
坂本城を中心に、丹波・丹後は我が領地。その北、若狭は細川藤孝殿、難波津は高山右近殿・中川清秀殿、大和は筒井順慶殿。いずれもよしみを通じている。何かあれば合力下さる」
「では、ここら一帯は安全ということですね」
「うむ。問題はこちらだ」
光秀は湖南を中心とした安土の地図を示した。
「ここは信長公の領地だった。今は誰のものでもない。わしが入ればわしの物になる 」
十五郎は言った。
「では、安土と丹波が父上の領地となるのですね」
「一応な。しかし湖南には手強い城がある。潰さなければならない」
佐和山城丹羽長秀さまと長浜城羽柴秀吉さまですね。今はどちらも城を空けておられます」
「よく知っているな。では、これらの城を落としたとして、その後の処置はどうする」
「・・・」
「それも地図を見ていれば見えてくる。地図が語りかけてくる」
十五郎にはとんと見当がつかないようであった。光秀は言った。
「まず城内の兵を追い払う。兵は何処へ逃げると思う」
「さあ・・・」
「兵の大半は、尾張・美濃の出身だ。皆故郷を目指して逃げる。最後に尾張・美濃に兵が集まる。わしはそれと戦うことになる。天下を分けるような大きな戦が起こる。問題はそれがどこで起こるかだ」
光秀はゆっくりと湖南の東の境を扇の先で指し示した。その場所はまさしく、岐阜県不破郡関ヶ原町。東海道新幹線の車窓から臨めます。
「今からでも遅くはない。陣構えをはじめ、万全の対策をとらねばならない」
「はい、私も参戦します」
「いや、お前は留守番だ」
光秀は一方的に言い放ち、不服そうな十五郎を下がらせた。

一人になった光秀は、地図をにらんだ。今、十五郎に話した通りに事が進むと仮定して、一万五千の明智勢をどう動かすか。周囲の城を一つ一つ落としていき、東に睨みを効かせるにはどれくらいの兵員が必要か。わざと守りを薄くし、付け込む隙を見せて敵をおびきだし、迎え撃つ作戦でゆく。兵員は五千残す。そして湖南が落ち着いたら、京に上る。細川・高山・筒井に招集を掛ければ、兵員の数は三万程に増員される見込みだ。
随時、美濃・尾張の動静に注意しながら、湖南が落ち着くようであれば、北陸・中国方面軍の追い落としを図ってゆく。最優先する当面の敵は、羽柴秀吉。毛利と呼応して挟撃すればよい。毛利は大国だから二万ぐらいの兵員は出せるだろう。自軍を合わせると約四万の兵員になる。さしもの秀吉も始末できるだろう。柴田勝家は、上杉と呼応して挟撃すれば造作もない。光秀は改めて地図に目を通して、吟味した。見落としはない筈だ。一人満足した笑みを浮かべた。余談ですが、光秀が関ヶ原を天下分け目の戦場になると読んだのはさすがですね。家康は大垣城にいた石田三成をおびき寄せるため、石田三成は地の利と人の和があると見て、関ヶ原を戦場としました。(続く)

ざわめく竹の森 ―明智光秀の最期―

ざわめく竹の森 ―明智光秀の最期―

 

(抄訳)テニスン(Alfred, Lord Tennyson)「ランスロットとエレイン(Lancelot and Elaine)」

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シドニー・パジェット「ランスロットとエレイン」。馬上槍試合の優勝者への賞品として、アーサー王が与えたダイヤモンドを、ランスロットがエレインの手から受け取るシーン。ウィキメディア・コモンズより。

エレインの求愛とランスロットの拒絶(第899行~第962行)

とは言えランスロットの深い痛手が完治したのち、ランスロット、ラヴェイン、エレインの三人はアストラットへと騎馬で帰還した。それ以後、エレイン姫は毎朝出来る限り着飾ってランスロットの前に現れ、心の中で「もしも私が愛されたなら、これは婚礼衣装。さもなければ、これは神への供物の役目を負わされた者の最後の晴れ姿となるだろう」と考えていた。一方、ランスロットはエレイン姫に、彼女自身、あるいは彼女の周囲の人たちに対してそれなりのお礼がしたいから、欲しいものを何でも言ってほしい旨、繰り返し訴えた。「それゆえ決して遠慮なさらず、あなたが本心から欲しいものをおっしゃって下さい。あなたは私の命の恩人なのですから、私はあなたのためなら何でもします。私は故国に帰れば王子であり、君主です。何でも我が意のままです」すると彼女は幽霊のように青ざめた顔を上げたが、口を利く力がない幽霊のように口をつぐんでいた。ランスロットは彼女が願い事を決めかねていると見て、なおしばらく彼らのもとにとどまり、彼女の返事を待っていた。しかしある朝、庭のイチイの木立の中に彼女をたまたま見つけて、彼は言った。「もう待てません。願い事をおっしゃって下さい。私は今日にでも出発します」そこで姫は口をひらいた。「出発?それではもう二度と会えませんね。それでは私はあなたからの大胆な言葉を待ち焦がれたまま逝くのですね」彼は言った。「言うのはあなた、聞くのは私です」すると突拍子もなく、彼女は訴えた。「私は気が狂ってしまいました。あなたが好きです。殺して下さい」「姫よ、何事ですか」とランスロットが問うと、彼女は白い両手を子どものように差し伸べながら答えた。「あなたの妻になりたい」

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エリナー・フォーテスキュー=ブリックデイル「ランスロットとエレイン」。zendonaldson.comより。

「エレイン」とランスロットは答えた。「もし私に結婚する気があったなら、もっと若い時分に結婚していたことでしょう。私は妻を持たないと決めたのです」「妻になれなくてもいい」と姫は叫んだ。「ただずっとあなたのそばにいて、あなたの顔を見て、あなたに仕え、この世のどこまでもあなたについていきたいのです」「この世」とランスロットは答えた。「この世とは、物事を目と耳だけで判断する愚かな心の持ち主どものあらゆる目と耳であり、またそのような判断を喧伝する愚かな舌であります。もしそのようなことにでもなれば、私はあなたのお父様やお兄様からの御恩をあだで返すこととなりましょう」「もしもあなたのそばにいられず、顔も見られないなら、私の人生は終わりです」「姫よ、それは間違いです」と彼は答えた。「私自身も経験がありますが、それは愛ではなく、誰もが罹る初恋という名の病気に過ぎません。将来、こんな年寄りではなく、もっとあなたの年齢にふさわしい人物にその青春の花を捧げる日が来れば、あなたは今日のこの日の出来事を微笑ましく振り返られることでしょう。そのあかつきには、あなたは女性として信じられないほど私に尽くして下さったゆえ、特にあなたの夫となられる騎士が貧しい場合には、あなたに広大な領土を、海の向こうの我が領土の半分なりとも、あなたにお譲りすることで、あなたを祝福いたしましょう。のみならず、私は一生、あたかもあなたの血縁者であるかの如く、あらゆる諍いごとにおいて、あなたの味方となって戦うことでしょう。親愛なる貴婦人よ、私に出来るのはこれだけで、それ以上はお許し下さい」
姫はよろこびに赤面することも、感激に身を震わせることもなく、ただ真っ青な顔をして、そばに在るものを手でつかみながらかろうじて身を支えていたが、彼が話し終わるや「そんなものは要らない」とつぶやいて倒れ、皆は失神した彼女を塔の中へと連れ帰った。

アストラットを去る(第963行~第996行)

その時、イチイの木の暗がりを透して一部始終を見ていた彼女の父親が言った。「ああ、娘の命の花を散らしかねない恋わずらいよ。ランスロット殿、あなたは優しすぎる。娘がきっぱりとあきらめられるよう、もっと冷たくあしらってやって下され」「不本意ですが、出来る限りのことはしましょう」とランスロットは答えた。

その日の夕方、盾を取りに人が遣られた。乙女は神妙に立ち上がり、カバーを外した盾を渡した。窓下に蹄の音を聞いた彼女は、窓を開け放ち、ランスロットの兜を見たが、そこに彼女の紅いスリーヴの切れ端はなかった。その時、ランスロットは窓が開く音を確かに耳にしており、また恋する者の本能で、ランスロットの一挙手一投足に誰よりも敏感であったエレイン姫は、彼が彼女の視線に気づいていることをしかと感じていたにもかかわらず、彼は上の方をちらりとも見ず、手を振ることもせず、一言の別れも告げぬまま、馬を駆って行ってしまった。これが彼に出来る限りの「冷たいあしらい」だった。

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ヘンリー・ピーチ・ロビンソン「ランスロットの盾を見つめるエレイン」。ウィキメディア・コモンズより。

こうして彼女は塔の中で一人になった。ランスロットの盾はもう無く、彼女の手作りのカバーだけが、彼女の空しい努力のあととして、そこに残った。とは言え彼女の耳に、彼の声は今なお響き、タペストリーで飾られた壁と彼女自身との間に、彼の姿は今なお在って、いやましに生気を帯びるのだった。やがて父が来て、低い声で言った。「娘や、安心おし」彼女は無言で応じた。やがて兄が来て言った。「妹よ、もう大丈夫だからね」彼女はやはり無言だった。しかしふたたび一人になると、彼女は死の呼び声を聴き、それは遠い荒野から暗闇の中を近づいてくる友の声のごとく、彼女の耳に響いた。ふくろうのわびしい鳴き声は彼女の胸をかきむしり、寸断された夕雲の空や風の嘆きは、彼女の心をむしばんだ。

「恋と死の歌」(第997行-第1019行)

この頃、彼女はみずから短い歌を作り、これを「恋と死の歌」と名付けた。それは美しい歌で、彼女はこれをいとも美しい声で歌った。

まことの恋は たとえ片思いでも とても楽しい
苦しみを終わらせてくれる死はこころよ
恋と死と どちらがより楽しいか 私にはわからない

恋の方が楽しいなら 死の方が苦しいに違いない
けれども私にとっては恋がつらく 死がこころよ
恋よりも死の方がこころよいなら 私は死にたい

楽しい恋 それは永遠に色あせることがない
楽しい死 それは私たちを愛なき土くれに変える
恋と死と どちらがより楽しいか 私にはわからない

もし恋が楽しいなら 私はよろこんで恋について行く
けれども今は死が私を呼んでいるから 死について行く
私は私を呼ぶ者について行く 私は死にたい

この最後の一行とともに、彼女は声を張り上げ、それは折しも彼女が暮らしているこの塔をも揺るがす風吹きすさぶ、燃ゆるがごとき明け方のことであった。彼女の兄たちはその声を聴き、戦慄しながら考えた。「あれはこの家に取り憑いた悪魔ファントムのいまわのきわの叫び声だ」そして父を呼び、男三人で塔を駆け上がってみれば、何と、その顔一面に血潮のごとき光を浴びたエレイン姫が、金切り声で「死にたい」と歌っているではないか。

王宮への道(第1020行~第1093行)

われわれがある言葉について繰り返し考える時、何故かは知らず、熟知しているはずのその言葉がいつしか一つの謎と化するように、彼女の父は彼女の顔をしげしげと覗き込みながらひとりごちた。「これがエレインか?」少女はやがて仰向けに倒れ、その両腕をそれぞれ二人の兄に預けながら病床に就いたが、その瞳にはまだ「おはよう」の明るい光が輝いていた。遂に彼女は言った。「優しいお兄様たち、私はゆうべ、ふたたび好奇心の強い幼時の私に還りました。そのような幼い時分、私たちはともに森で遊び、またあなた方は船頭さんの舟を借りて、私を川のぼりに連れて下さったものです。ただし、あなた方はあのポプラの樹が立っている突端ケープを越えることなく、そこをリミットと定め、そこから流れに沿って引き返すのが常でした。けれど私は泣いた。なぜなら私はそこで引き返さず、輝く波をさかのぼって、遂には王様の宮殿のあるところまで行ってみたかったから。しかし私の願いは叶わなかった。ところがゆうべ、私は夢の中で、たった一人で川に浮かんでいたので、『今度こそ願いが叶う』と思いました。ところが目をさますと、私の願いはまだ叶っていませんでした。それゆえ私をしてあのポプラの樹を越え、波をさかのぼって、彼方なる王宮へと旅立たせて下さい。そこで私は大勢の人々に出会うでしょうが、私に敢えて嘲笑を浴びせる者は誰もいないでしょう。ガウェイン卿は私を見て驚き、ランスロット卿は私を見て物思いにふけられることでしょう。私に千の惜別の辞を下さったガウェイン卿と、私を素っ気なく無言で置き去りにされたランスロット卿とは。そうして国王陛下も私と私の恋をご存じになり、王妃様ご自身も私を憐れまれることでしょう。こうして私は宮廷のすべての人たちに受け入れられ、長い長い旅路の果てに、安息を得ることでしょう」

「お黙り」と彼女の父は答えた。「娘よ、何をたわけたことを言っているのだ。病気のお前がそのような長旅に堪えられるわけもなく、またわれわれすべてを見くだしているあの思い上がった騎士が、ことさらお前に面会してくれるわけもない」
この時、血気盛んな騎士トーリは息が荒くなり、じっとしていられなくなって、激しくむせび泣きながら言った。「俺はランスロットが憎い。もしもどこかで彼に出くわしたなら、彼がどんなに偉大な騎士だろうと、彼に殴りかかり、彼を殴り倒し、出来ることなら彼を殴り殺したい。彼は家族をそれほど苦しめたからだ」

これに対して優しい妹は答えた。「お兄様、お怒り遊ばすな。私を愛して下さらなかったのはあの方の落ち度ではなく、むしろあの方に恋してしまった私の方に落ち度があるのです。あの方は私にとって最も気高い男性と思われました」

「気高い?」娘の恋を冷まそうと考えた父親は、その言葉尻をとらえて言った。「いやいや、娘よ、お前の言う『気高い』の意味が、わしにはわからぬ。わしにわかるのは、世のすべての人々と同様、これだけだ。あの男は王妃に思いを寄せている、それは公然たる恥辱だ。そうして王妃もまた彼の思いに報いている、これまた公然たる恥辱だ。これをもって『気高い』とするなら、何をもって『卑しい』とすればよいのか」

そこでアストラットの百合乙女は答えた。「優しいお父様、私は怒りで胸がむかつき、気が遠くなりそうです。おっしゃることは誹謗中傷の類いです。およそ高貴な人間はさような噂に惑わされないものです。人間には味方もいれば、敵もいるのが当たり前だからです。とは言え、私が今誇りに思うのは、自分が一点非の打ち所のないお方に恋をしたことです。それゆえ、あなたの目にどのように映ろうとも、お父様、私は決して可哀想な娘としてではなく、たとえ片恋でも、この世で最高の恋をした娘として死にとうございます。あなたが私の寿命を延ばそうとして下さっているのは理解できますが、あなたの努力は逆効果です。なぜならあなたのお話を信じることは、私の死期を早めることになるからです。それゆえ、お父様、もう何もおっしゃらず、ただ神父様をお呼びになって、私に最後の秘跡を受けさせて下さい」

エレインの死(第1094行~第1129行)

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ヘンリー・ピーチ・ロビンソン「フェイディング・アウェイ」。ウィキメディア・コモンズより。

神父が来て帰ると、罪が許されたせいか、姫はとても明るい顔で、騎士ラヴェインを呼んで、一通の手紙を口述し、一句たがわず、これを筆記してもらった。騎士ラヴェインは尋ねた。「この手紙はわが親愛なるランスロット卿に宛てたものかい?なら僕がよろこんで届けよう」彼女は答えた。「ランスロット様と、王妃様と、全世界とに宛てたものです。しかしこれは私自身で届けなければなりません」やがて手紙が書き上げられ、折りたたまれると、姫は言った。「おお、優しくて誠意あるお父様、聞いて下さい。あなたはこれまで私のどんなわがままでも聞いて下さいました。だから私のこの最後のわがままをも、たとえ如何に奇妙なものであろうと、聞き届けて下さるものと信じます。私の臨終の時が来たら、私にこの手紙を持たせ、指を折りたたんで下さい。私は死んでもこの手紙を守り抜きます。そうして私のからだが完全に冷たくなったら、恋わずらいで死んだこの私の小さなベッドを、王妃のベッドのごとく飾り立て、また私自身も王妃のごとく着飾らせて、そこに寝かせて下さい。そうして一台の霊柩馬車チャリオット・ビアを手配して私を川へと運び、川には黒い布飾りで覆われた一艘の小舟を待たせておいて下さい。私は堂々と宮廷に出向いて、王妃様にお目通りします。そこで私はお父様やお兄様たちよりもきっと上手に、自分自身の身の上を物語ります。それゆえ、私にはただあの口のきけない老僕一人だけをつけて下さい。彼は舵と櫂とをじゅうぶんに操って、私を王宮とその数々のとびらへと導いてくれるでしょう」

姫は語り終わると、もう何も言わなかった。父は約束した。それ以来、彼女はとても朗らかに見えたので、彼女の病いは気の病いに過ぎず、一命を取り止めるのではないかとも噂された。しかしそれから十日の時が経ち、十一日目の朝、父は娘の手に遺書を持たせ、その指を折りたたんだ。その日、アストラットは深い悲しみに包まれた。

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ランスロット・スピード「舟の上のエレイン」。ウィキメディア・コモンズより。

 

再読・伊東眞夏『ざわめく竹の森』其の十五

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歌川国芳「赤松(高松)之城水責之図」。ウィキメディア・コモンズより。

㉒六月三日

主人信長の命令で、中国戦線に投入された秀吉は、六月二日の時点で、何処で何をしていたのだろうか。
天然の要害、高松城を攻めあぐんでいた。小高い山脈を背にして、城の前には扇状の平地がある。城を中心に盆地を形成している。そこに足守川が流れている。守りやすく、攻めにくい城だ。定番の城攻めでは落ちない。その上、城主・清水宗治は、猛将として名を馳せている。更に間の悪いことに、これ以上愚図々々していれば、毛利家の宗家・輝元および毛利の両川(吉川元春小早川隆景)の軍によって前後から挟み撃ちされる危険さえ出てきたのだった。そこで秀吉の知恵袋、軍師・黒田官兵衛義孝は、従来の城攻めに無い方法、土木工事を用いる案を秀吉に上申した。一時的に足守川を堰き止めるのだ。
西北の方向から東南の方向に、約4キロにわたって土嚢を積み、簡単な堤防を築いた。この工事により、高松城は巨大な人造湖の中に浮かんでいる格好となった。援軍に駆けつけた毛利輝元も、この状況では、陣を引き払わず、秀吉軍と睨み合いを続けることしかできなかった。この睨み合いの最中、高松城内では兵糧が尽きかけていた。
一方、堤防工事の現場監督となった蜂須賀小六は、苛立っていた。ここ二、三日の雨で水嵩が増し、いつ堤が破れても不思議ではない。本陣に増員要請をしているのに返事はない。焦れた蜂須賀小六は、泥まみれの姿のまま、本陣に乗り込んだ。
「お前ら、何をしているんだ。人を送れとあれほど言っただろうが」
本陣にいる重臣たちは誰も答えず、難しい顔をしていた。ジッと腕組みをしていた羽柴秀長が言った。
「信長公が亡くなられた。明智光秀の謀反じゃ」
「本当か」
「本当だ。光秀の密使が毛利の陣と間違えて我らの陣に飛び込んできた。これがその密書だ」
秀長は書付を小六に手渡した。
「花押も筆跡も光秀のものだ」
小六は言った。
「それでお館は」
「一人で部屋に閉じ籠っている」
暫くすると秀長が言った。
「どれ、お館も次の手が浮かぶ頃だろう。伺いに行ってくる」
秀長が立ち去ると、小六は一同を睨みつけて吠えた。
「俺たちはどうなる?信長公は亡くなった。俺たちは帰る港が無くなったんだ!」
一同は俯くしかなかった。その時、
「まあまあ、そう悪くばかり考えずとも」
黒田官兵衛がことさら明るい声で言った。
「我らがどうなるかは拙者にも解らぬ。ただ禍福はあざなえる縄の如しともいう。案外、これはめでたいと思っていいことかも知れませぬ」
官兵衛は腹の底から呵々と笑った。小六以下一同は、不思議な生き物を見るような視線を官兵衛に送った。

「兄上」
秀長は声をかけた。
「秀長か。入れ」
秀吉は顔を伏せたまま、一心不乱に何かを考えているようだった。秀長がそっと下から、兄・秀吉の顔を覗こうとした。その瞬間、
「やられたな」
と秀吉が腹の底から絞り出すような声で言った。
「今度ばかりはやられたな」
「で、兄上、これからどうなさる」
「どうもこうもない。あの光秀は阿呆ではない。少なくとも荒木村重松永久秀よりは出来る奴だ」
秀吉の頭の中には、その一点がずっと渦を巻いていた。信長に反抗し、敗れた二人だった。もし俺だったらあんなにバカな方法は執らない。秀吉が、光秀謀反の一報を聞いた瞬間に思ったことは“先を越された”であった。
「秀長、今回ばかりはわしの負けかもしれない」
秀長に返す言葉は無かった。元来、秀吉の戦法は相手の意表を衝き、敵より速く正確な読みで勝ってきた。しかし、今回ばかりは光秀に先手を取られてしまった。今頃、慌てふためいて対応策を考えている。どうやっても自分に勝ち目はなさそうだ。
「しかし、わしはやらねばならない。やる以上は勝つ算段をつけねばならない」
秀吉は嗄れた重い声で言った。
「兄上、その通りです」
「わしも焼きが廻ったのか、とんと好いアイデアが浮かばぬ。そこでわしが光秀だったら、どう考えるかだ」
最初に天皇を味方につける。白を黒と言いくるめる。信長公暗殺は謀反ではなく、正義の行いであると強弁できる。
その次には畿内をもれなく纏める。畿内は金と兵糧の要だ。今のわしは、その逆だ。補給線を断たれ、軍資金も兵糧も底が見えている。
「どうだ秀長、これでも勝ち目はあるのか」
「ありませんな」
秀吉は大きくため息をついた。
「そういうことだ。そうなってしまっては打つ手がない。やるならそうなる前にやるしかない」
「しかし、やる前に高松城の決着をつけないことには」
「すぐに講和を取り付ける」
「取り付けられますかな?」
「出来なければわしは終わりだ!」
「・・・」
「何としても講和を結ばねば。何でも向こうの言う通りにする」
「いきなり物わかりが良くなっては、相手にこちらの肚を探られます」
「それはそうだな。では毛利にこう言ったらどうだろう。一両日中にも信長公が大軍を率いて岡山に着陣なさる。そうなると先発隊のわしは手柄も無く、毛利家も滅亡を避けられない。今なら和睦をもって信長公にとりなし、毛利家は領地安堵、わしは高松城主、清水宗治殿の首級を頂いて、面目を施す。いずれにしても、今日明日中にも講和を成立させなければならない。これならどうだ」
「上出来です。で、講和を結ぶなら、仲介を立てなければなりませんが」
「安国寺はどうだろう」
安国寺恵瓊ですね。すぐに手配しましょう」
秀長は一礼をして素早く部屋を出て行った。
再び一人になった秀吉は独り言を言った。
「光秀よ、今のところ、お前はよくやった。しかし、まだ決着がついたわけではないぞ」
次第に秀吉の中で今度の戦いの要諦が見えてきた。
今大事なのは、光秀に時間を与えないこと。つまり、光秀に持ち時間を浪費させれば、わしに勝機が訪れる。秀吉は右手に握りこぶしを作った。
「光秀よ・・・光秀よ・・・」

ざわめく竹の森 ―明智光秀の最期―

ざわめく竹の森 ―明智光秀の最期―

 

「化粧の厚い女の子」他三篇

悲恋

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恋をするなら お姉さま
きれいな恋をしませんか
咲いてしまったわたしたち
二人の恋は悲恋です

咲いてしまったわたしたち
今が盛りの花と花
風のまにまに乱れ散る
何ときれいな恋でしょう

恋をしましょう お姉さま
風のまにまに散りましょう
咲いてしまった姉妹なら
情死するのは常識よ

星占い師と吸血鬼

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「このわたし
  占い師
 人が迷路で出会う女子
 人がわたしと出会うとき
  それは未来と出会うとき
 星に明るいこのわたし
  明るい星をしるべとし
  男子の星と女子の星
 星と星とを橋渡し
 時にあなたは お客さま
  見目うるわしいお嬢さま
  およそ数奇な星のもと
 大恋愛ができるひと
 短命 それは美女の常
  罪とあやまち 積み重ね
  行方も知らぬ恋の道
 あるいは落とすその命
 落としても
  いいですか
  あなたは星になるのです
 その輝きも永遠に」

「このわたし
  吸血鬼
 人が最期に出会う女子
 人がわたしと出会うとき
  それはさだめと出会うとき
 年を取らないこのわたし
  姿かたちはまだ十四
  その正体は魔性の子
 この首筋にその証拠
 短命 それは美女の常
  十四十五は伸び盛り
  十七八は花盛り
 二十過ぎればお年寄り
 だけどわたしは若いから
  大恋愛がしたいから
  数かぎりない星よりも
 一人の女子が欲しいから
 だからあなたに会いに来た
  未来を見るというあなた
  噂にまして美しい
 星占い師 心の師
 うらないは
  いらないわ
  欲しいのは
 あなただけ
 占いなんて不確実
  意地でも落とすこの果実
  落ちるりんごの物理学
 それが恋愛心理学
 落としても
  いいかしら
  あなたは不死になるのです
 その輝きも永遠に」

今日もご機嫌

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今日もご機嫌うるわしい
 見目うるわしいお姉さま
 そのほほえみは謎のまま
天使のように美しい
私なんかと恋に落ち
 あなた幸せ 不幸せ
 ゆすりたかりの悪い癖
吸わずにおれぬその生き血
だってあなたは隙だらけ
 今日も奪った甘いキス
 咲いた真赤なアマリリス
あなたはいつも傷だらけ
なのにあなたは笑うだけ
 そのほほえみは謎のまま
 だから教えて お姉さま
こんな私が好きなわけ
「好きだから
  好きなだけ
  恋に落ちたら命がけ
 それがほんとの恋だから」

今日もあなたは上機嫌
 何千年も昔から
 地下に埋もれていた宝
それがすべての美の起源
美しいのはあなただけ
 その表情は美の宝庫
 わが正体は魔性の子
美しいのは見かけだけ
人の心は隙だらけ
 男女を問わず声をかけ
 からだで釣って落とすわけ
あとは骨までしゃぶるだけ
なのにあなたは笑うだけ
 そのほほえみは謎のまま
 だから教えて お姉さま
こんな私が好きなわけ
「好きだから
  好きなだけ
  あなたの愛が欲しいだけ
 それは宝の山だから」

化粧の厚い女の子

ひそかに慕うお姉さま
まこと まごころ 告げぬまま

紅い薔薇より白い百合
見つめられても知らぬふり

わたしは闇に咲くむすめ
いつも衣裳は黒ずくめ

こんなわたしの悪い趣味
あなたが示すその興味

すました顔が熱いから
顔が耳まで熱いから

紅い薔薇より白い百合
恋の病いは命取り

あなたを慕うこのわたし
実は畜生 ひとでなし

流れるものは魔性の血
流したいのはあなたの血

わたしは闇に咲くむすめ
いつも衣裳は黒ずくめ

街娼よりも濃い化粧
誰しもぞっとするでしょう

あなたが見せるその好意
腑に落ちかねるその真意

だから教えて お姉さま
まこと まごころ ありのまま

秋というのにこの陽気
だから癒えないこの病気

紅い薔薇より白い百合
恋の病いは命取り

黒い上着を脱ぎたいと
 言わせるものはこの陽気
 白い下着も脱ぎたいと
言わせるものはこの病気
わたしが口にする言葉
 それはほんとのわたしではなく
 病気が口にする言葉
病気が人のからだを借りて
 わたしではなくみずからの
飢えや渇きを癒そうとする
心を持たぬこのわたし
 恋愛なんて暇つぶし
 十八番の色仕掛け
実は生き血が欲しいだけ
見た目は陰気 根は陽気
 だから癒えないこの病気
 紅い薔薇より白い百合
恋の病いは命取り

うしろを向いているわたし
わたしではないこのわたし

見つめられても知らぬふり
舌なめずりをするばかり

何も知らないお姉さま
知らないことも知らぬまま

さすが見上げた心がけ
こんなわたしに声をかけ

「けがれを知らぬこのむすめ
 いつも衣裳は黒ずくめ

「虚飾のかげのこの美貌
 素顔はまるで赤ん坊

「夜空に咲いたこの女性
 一等星の下級生

「その行ないをあらためて
 このわたくしと結ばれて

「かけがえのない友として
 まこと まごころ 心して」

うしろを向いているわたし
わたしではないこのわたし

あなたが来ると押し黙り
あなたが去るとふりかえり

誰が呼んでも知らぬふり
花の姿を追うばかり

すました顔が熱いから
顔が耳まで熱いから

紅い薔薇より白い百合
恋の病いは命取り

再読・伊東眞夏『ざわめく竹の森』其の十四

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広重が描いた瀬田大橋。ウィキメディア・コモンズより。

⑳六月二日:瀬田橋炎上

ここで著者の伊藤眞夏は、史書の「風の吹くように」という文言に注目している。“烽火のろし”を使用したのではないかと推測を試みる。問題は、本能寺の変が起きたという報せが、安土にいつ、何度にわたって届けられたかである。
史書によると、第一報が「風の吹くように」午前十時頃、安土にもたらされたとある。本能寺は午前八時から九時の間に炎上している。これは驚異的なスピードである。第二報は、午後に伝えられている。第三報も、光秀が安土へ向かったことを告げている。果たしてどの様な方法を用いたのだろうか?当時の京都~安土間は、人間の足なら丸一日、早馬を駆っても半日はかかる距離だった。

安土城を目指す明智軍は、中洲をはさんで大小二つの橋を持つ瀬田橋を前に、信じられない光景を見ていた(瀬田橋の全長は約二百二十五メートル)。
何としたことか、瀬田橋が燃えているのだ。光秀謀反の報せを受け、瀬田橋を守る瀬田城城主、山岡景隆かげたか景佐かげすけ兄弟は、開城の申し出に応じたはずなのに。
いざ明智軍が瀬田橋に到着してみると、城主兄弟は橋に火を放ち、城を引き払って逃亡した。一万五千の明智軍の軍勢と荷駄を渡すには、橋は必要不可欠なのに。
「火は消せるか」
光秀は、側に控えている斉藤内蔵助に尋ねた。
「はい、消せます。但しこの火の廻りから、消火後直ぐに渡れるものでもなかろうかと」
「ならば、渡れるようになるまで、どれくらいの時間がかかる」
「橋の床と桁がかなり燃えているので、修理して一万の軍が渡せるまでには、どう見ても二日はかかります」
「うむ」
光秀は、無性に腹が立った。天下人明智光秀の名乗りを挙げるには、今が大事な時なのに、こんなところで足止めされるとは。 一瞬、京に戻ろうかとも思ったが、本能寺の殺戮の結果、死臭の充満した街を思うと、戻る気持ちにも到底なりえなかった。 だからと言って、瀬田橋の修理を待つ時間を無為に過ごしてはならない。そうだ、坂本に帰ろう。坂本城はわが城ではないか。何を遠慮することがあろう。
「内蔵助、わしは坂本に帰る。橋の修理が終わったら知らせてくれ」
「かしこまりした。修理は昼夜を分かつことなく行います」
「うむ」
光秀は騎乗の人となり、馬の口を返して、鞭をあてた。内蔵助の事だから、瀬田大橋は一両日中には通行可能となるであろう。

㉑六月二日夕刻:安土城

信長の留守を預かり、同時に信長の娘や愛妾を預かる役目を負った日野城城主、蒲生賢秀かたひで蒲生氏郷の実父、信長の二女冬姫の舅)は、困り果てていた。信長父子の横死が内密に届いた後、安土城の評定の間では、誰も彼もが俯き、沈黙に支配されていた。緊急事態で対策を練る必要があるのだが、発言どころか、咳払い一つ聞こえない。
物見が報告に来た。
「山崎片家様が自らの屋敷に火をかけ、出奔されたとのこと」
「山崎か。早まったことをしてくれた。町の様子はどうだ」
「噂では荷物を纏めて、町を出ようとしている者たちがあふれているとか」
そのうち、町は収集のつかない大混乱に陥るだろう。信長父子の自刃はもはや秘密でも何でもなくなっていた。恐るべし、噂の伝播力。これでは織田家臣が一丸となり、明智軍を迎え撃つのは到底無理だ。蒲生は決断した。
明智軍と戦うのは諦め、この安土城を明日三日に開城する。引き揚げじゃ」
蒲生は素早く奥向きに足を運び、信長父子の横死を正式に織田家の女人たちに報告した。そして家臣や女人たちには、日野城に向けて明日出発すること、安土城に蓄えられている金銀財宝は何一つ持っていかないこと、安土城に決して火をかけてはならないことを申し渡した。安土城は築城されてから日が浅く、家臣たちには美濃出身の者が多かったので、安土には余り愛着を持たなかったのだろう。信長によって、云わば強制移住させられた者が殆どだった。

ここで本能寺の変の報せが伝わった時、織田家臣たちは何をしていたのかに、伊東眞夏は注目している。堺には、四国征伐を計画中の三男織田信孝と、丹羽秀長と、信長の甥津田信澄(信長の実弟信行のぶゆきの息子)がいた。
堺では、信長父子の自刃が伝わると、織田家の家臣たちは蜘蛛の子を散らすように逃亡してしまった。信孝と丹羽秀長は突然、することが何もなくなってしまった。
織田家の血脈を誇る肥大化した自尊心以外に、これといった能力も人望も持たない信孝は、本能寺の変明智光秀津田信澄(光秀の娘婿でもある)の共謀によって引き起こされたとの噂を鵜呑にして、信澄の首級を挙げた。伯父信長と家督相続を争った実父信行の遺児として、複雑な環境の中で織田家連子衆として懸命に生きてきたにも関わらず、従兄弟信孝の「敵討ちらしいことをしないと格好がつかない」との思いのもと、謀反人の片割れの汚名を着せられ、殺され、晒し首にされてしまった津田信澄の人生とは何だったのだろうか。
信孝は信澄を討った後は、何もすることが無く、ズルズルと大阪に逗留し、“中国大返し“を成し遂げた秀吉と合流した。

その他の織田家重臣たちを見てみよう。北陸で魚津城(上杉景勝の属城)を攻め、落城させた柴田勝家は、 六月七日頃には、本能寺の変の報に接し、松倉城の包囲を解いて自分の城に戻り、守備を固めた。共に戦っていた佐久間盛重、佐々さっさ成政、前田利家も各々の城に戻り、守備を固めた。柴田勝家は兵員をかき集めていた途中で光秀敗死の報を受けとった。そして、信長から信濃に居城を拝領した森長可ながよし森蘭丸の兄)は、家臣と今後の事を相談して、信濃の城を捨て、美濃に戻ることを決心したが、秀吉が勝った合戦には到底間に合わなかった。又甲州征伐の滝川一益いちますも九日には本能寺の変の報せを受け取ったが、領地に釘付けとなり、身動きができなかった。これらはもはや織田軍が織田軍たりえないことを示していた。大事な京都・大和地方は、空白・無政府状態となり、その中心に一万五千の明智軍がいた。重臣たちはいずれも上洛など覚束ない遠隔の地に釘付けになっていた。この状況を冷静に分析し、戦略を立てていたのは羽柴秀吉只一人だった。(続く)

ざわめく竹の森 ―明智光秀の最期―

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