魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

ルネ・ヴィヴィアン作『一人の女が私の前に現れた』第17章

ダグマーは、すべての花のうちでも、物思うことなく再生するリラの花を特に好んだ。ヴァリーが愛したのはくちなしの花で、それも繊細に加工され、ほんのかすかに風が触れただけでも色あせてしまうようなものが好きだった。
「ダグマー、あなたはこれまでになく美しい」と私はささやいた。「今のあなたほどみずみずしいものを私は何も知らない」
そのとき突然私の頭に浮かんだ考えは、この少女のかたわらにいて、みずからのいつ果てるとも知れぬ贖罪の苦しみを忘れることは、何と思いがけなく、また甘美なことであろうか、というものだった。それは暗黒世界をひさしくさまよってきた私がとうとうめぐり会った春であり、さまざまな花の香りのする笑い声だった。それは彼女にとっては一時の退屈しのぎに過ぎなくとも、私にとっては望外の幸せとなるだろう。それは私の胸から心臓を奪ってくれるだろう。私はもうあの狂おしい胸の高鳴りに悩まされずに済むのだ。
しかし、と私は考えた。私はこの何も知らない子どもの手に、私の心臓というあまりにも重たいお荷物をゆだねる勇気があるだろうか…
ダグマーのひとみは青い日ざしを浴びた泉水のように輝いていた。
「何を考えているの」と彼女は私に訊いた。「考えごとをしている時のあなたを見ていると、いつも心配になる。あなたはとても暗い目をして、とても固く唇を結んでいるのだもの。人はそれを年老いた世捨て人の目と唇だと言うことでしょう、暗闇を見つめ過ぎた目と、沈黙の皺が刻み込まれた唇だと」
「私はヴィリエ・ド・リラダン描くところのシスター・アロイーズのことを考えていたのよ。それは恋する乙女の空前絶後の理想的な肖像画なの。ダグマー、あなたは彼女に似ているわ。とは言え彼女より幸福で、少し冷めているけれどね」
私は彼女を見つめた。その青いひとみの底には春のすべてがみずからを映しているように見えた。
「ねえダグマー、もしあなたがその白い手をこころよく私の手の中に預けてくれたなら、私はあなたのそばで『朝』の匂いが嗅げるのだけれど」
私の恐怖と欲情とに濁った目の下で、彼女の澄んだ瞳は少しも臆する色を見せなかった。そうして彼女はそのよこしまな素直さのうちに、その何も知らない、それでいてすべてを心得たくちびるを、私に向かって差し出した。
「ダグマー、あなたは怖くないの」
私の声は、沈黙が二人のまわりに広げた軽いヴェールを引き裂いた。
「何が」
「私の愛が」
「愛って怖いものなの」そう彼女は問うた。その問い方があまりにも無邪気だったので、私は重ねようとしていた唇をふたたび離した…私はあるなかば狂気に侵された人物が、正気ではないひとときに立てた殺人計画の前から後ずさりするように、後ずさりした。
私は彼女の華奢な両手を取った。
「ダグマー、あなたは私の手が怖くはないのかしら。この手があなたの手を取って、握りしめて、わがものとしようとするありさまをごらんなさい」
彼女は傷ついた雲雀のような弱々しい叫びを上げた。
「離して…指が折れるわ…」
「そう、この手はあなたにいつ怪我をさせるかわからない手よ。なぜならこの手は暴漢の手、人殺しになりそこなった者の手だから。私はあなたのその首のようにかぼそい首にこの手をかけて、相手を絞め殺していたかも知れなかった…ヴァリーはかつて私に言った、お前は悪人で、愛よりも怒りや憎しみの方を愛しているのだと。とは言えこんな私の心の中にも、人を頼り切った弱さを前にして優しくなれる部分があるのよ。私に心置きなく甘えてちょうだい、ダグマー…」(第17章終わり)