魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)ボードレール「香水瓶(Le Flacon)」

ルドルフ・エルンスト「香水職人」ウィキメディア・コモンズより。

強烈な匂いがあって 多孔質ではない素材でも
透過して拡散される ガラスでも透過するのだ
たとえば人が 東洋の宝石箱をあらためようと
金切り声で泣き叫ぶ鍵を 無理やりこじ開けたなら

または誰かが 何年も経った空き家の ぷんぷん匂う
真っ黒で ほこりだらけの衣裳箪笥をひらいたならば
時として 古い香水瓶を見る するとふたたび
息づいたその魂が 解き放たれることがある

数知れぬ想いを秘めた それは悲しいさなぎたち
それまではかげに隠れて 身をふるわせていたものたちが
水色を帯び ピンクに染まり 金色のラメをちりばめ
華やかな羽根をひろげて 蝶とはばたき 舞い上がる

華やいだ空気の中にひるがえる 心とろかす
思い出がある 目は閉ざされる 膝を屈した魂は
めまいによって捕縛され 背中を双の手で押され
瘴気しょうきで 内部なかがわからない ある深淵へ追いやられ

打ちのめされて覗き込む 千年を経たその深淵に
目覚めて動くものの影 死に装束を引き裂いて
立ち上がるラザロのごとき 在りし日の恋の亡霊
すさまじい異臭を放つ 麗しの腐乱死体だ

そのように 僕もすっかり世間から忘れ去られて
気味悪い衣裳箪笥の片隅で朽ち果てるとき
汚くて 塵にまみれて べとべとで ひびが入った
空っぽの 古い香水瓶として 捨てられるとき

愛すべき感染症よ 君の棺桶に僕はなろう
証人となるのだ 君の効力と猛毒性の
天使らの調合に成るわが最愛の劇薬よ
僕をむしばむ霊水リキュールよ 僕のいのちよ 死神よ


*『悪の華』第二版48。原文はこちら