魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

ルネ・ヴィヴィアン作『一人の女が私の前に現れた』第12章

夕暮れは『ホサナ』の声のごとく輝く
かつて それは私を理解し なぐさめた

迷妄のうちにある凡人の上に
広がるオークルの空を見て 私は涙する

『友』の熱い思い出が空に満ちみちている
海上に『死』の虹が立つ

そうして巫女であるあなたと その信者である私の前に
現われる『夜』は一にして多である

わが運命は 不完全なプリズムのごとく
緑から紫へと 暗さを増してゆく

私はあらがうことなく 敵でも味方でもない夕暮れを待つ
歩みがビロード状になり フェルト状になる灰色の砂を待つ

カナの婚礼の葡萄酒よりも赤く
かつて私をなぐさめてくれた夕暮れが来た

迷妄のうちにある凡人の上に
硫黄とオークルの光を注ぎかけてくれた そんな夕暮れが来た


ヴァリーはその優れて人工的な声で、サン・ジョヴァンニがかつて彼女に捧げたこの哀歌を朗読しているところだった。
私は中へ入った。喪服姿の私の入室で、若い男女の色とりどりに咲き乱れた室内に、ひとつの暗い不協和音が生じた。
熱心な聴衆は私のロアリーを崇拝者の目で見つめ、盛んに喝采していた。中でも目立ったのは『売春夫』殿の並外れた熱狂ぶりであった。
涜聖のチャペルの背徳のマドンナは、はるかなる『神』のよろこびとともに、俗世の信者たちが捧げる香のかおりを楽しんでいた。
私は売文業者が大嫌いである。また現代の恥とも言うべきこの出版物の氾濫について、直接、または間接的に関与しているすべての人間に憎悪を抱いている。それゆえヴァリーの文学つながりの友人たちは、私が入ってくるや、そそくさと暇乞いをした。私が彼らを追い出したようなものだった。
ただひとり、『売春夫』だけが「敵」にうしろを見せず、その「敵」の代表が私なのだった。彼はヴァリーの軽いおしゃべりを熱心に聴いていた。
「それで思い出しますのは」と彼女は言った。「わたくしの従弟のことで、幼い頃、わたくしはその子をまるで人間ではないかのように、さんざんひっぱたいては楽しんだものでございます。涙をぽろぽろ流しながらも、その子はぶたれるのを喜んでおりました。気の弱い、優しい子でございましたね。その子がお人形にきらびやかなお洋服を着せてあげると、わたくしは次にその首を斬り落として、悦に入っていたものでございます」
「マドモアゼル、僕もその場に居合わせたかったなあ」『売春夫』は馬鹿みたいに溜息をついた。「あなたは本当にすばらしいお子さんだったのですね」
「あの男は不倫のように月並みね」彼がヴァリーのサロンを辞した時、私は言った。
ヴァリーは氷のように冷たい目を私に向けたが、直接反論はしなかった。
私は続けた。
「サン・ジョヴァンニが昨日言ったの。『もし不幸にして結婚してしまったら、あるいはもしうっかり結婚してしまうくらい間抜けだったとしたら、不倫小説を何百万冊も読まされてすっかり好奇心を失った私は、もはや貞淑な妻になるしかないと観念することでしょうね。おお不倫小説、道ならぬ恋に苦しんでいる山の手の奥様方や下町のお上さんたち専用の書物よ』」
その時、サン・ジョヴァンニの蛇の皮のようなドレスが、その鱗をさらさらと鳴らしながら絨毯の上を滑った。
「一分早いわ、サン・ジョヴァンニ」と私は言った。「それとも一分遅刻かしら。あなたの詩に聴き入っていた熱狂的な聴衆は今またたく間に消え失せてしまったばかり、そうして私は今あなたが来たら飛び切りのほめ言葉を献上しようと用意していたところなの。あなたが急に現われたものだから、私の讃辞の泉は涸れてしまった。もう何も言わない。静聴するわ」
「私は今しがた、あるたいそう古い教会で、神秘的なひとときを過ごしてきたところなの」とサン・ジョヴァンニは物語った。「私は外陣の灰色の人影の中に久しくとどまっていた。そうして香煙は私の頭脳を尊くも重く鈍らせていた。そうして静かに瞑想にふけっている男女を前にして、私はチュニスで耳にしたある目の見えない物乞いの深遠な言葉を、ふと思い出した。『光を買うために、ほんの少しのお金をお恵み下さい』と。私たちはみんな『光』がお金で買えないことを忘れている。目が見えていないのは私たちの方よ」と彼女は小声で付け加えた。「そうして私たちはまぶたを閉じて自分自身を見つめるかわりに、物を見ようとする空しい努力にみずからの意欲を蕩尽する。『光』は私たちのうちにある、私たちの外にはない。見ることをあきらめた時、はじめて物は見えるのだわ」
「ああ、目の見えぬ者どもの釘付けにされたまなこを眩ませているものを見るがよい」と私は口をさしはさんだ。「耳の聴こえぬ者どもがうっとりと耳を傾けているあの物悲しい音楽を聴くがよい。わけても狂人たちが夢みている途方もなく不可思議な夢を夢みるがよい。彼らは悲しみにめげるということがない。幻の玉座の栄光のうちに生きている彼らの中には、自分を神だと思っている者もおり、事実彼らは自分が思っている通りの存在なのだ。彼らは謎であり、超人なのだ」
「口を慎みなさい、毎度のことだけれど」とヴァリーは私をたしなめた。「まったく、その的外れの『狂人論』を人に押し付ける前に、心を虚しくしてサン・ジョヴァンニの言葉に耳を傾けられないかしら。あなたこそ『狂人』そっくりだわ」
「お説教ならたくさんよ、ヴァリー…」

…ドアカーテンが持ち上がった。そよぐ木の葉の音とともに、一人の女が私の前に現われた。そのメリザンドのごとき髪に、殉教の夢の赤毛に、私の目は惹き付けられた。彼女は『北』の乙女の遠い目をしていた。彼女を見ていると、彫像、すなわち大理石の輝きのほとばしりや、ノスタルジックな絵や、無限の音楽などが呼びさます神聖にして恐ろしい身ぶるいを覚えるのだった。胸の高鳴りとともに 私は彼女が名乗るのを聴いた、エヴァと。
それは『夢』に過ぎなかった。彼女はほとんどすぐに私たちのもとを去った。とは言えその低い声の宗教的な魅力は私の心中にとどまっていた。
彼女が去ったあと、私たちはしばらく口を利かなかった。彼女の残した影はいよいよ神秘的なものとなった。大気はこの言語を絶する存在の香りに染め上げられた。エヴァの内部と周囲には、ある荘厳な甘美さがあった。
ヴァリーと女詩人とはふたたびおしゃべりを始めたが、その声は前よりもひそやかだった。私は直ちにその場を辞し、雑踏の中に出た。私の心は『雑音』と『騒音』に押しつぶされた。都会の醜さで断腸の思いだった。私は郊外の森とせせらぎに囲まれた新鮮な緑色の静寂を、しきりに思った。
突然、この無秩序の上に燦然として、時計塔がその鐘の音を一つまた一つと打点し始めた。それらはことごとくある『聖女』、ある『殉教者』への讃歌だった。それらはこぞってその聖なる名をほめたたえ、エヴァエヴァエヴァと連呼しているように思われた。(第12章終わり)