欲望に苦しむ男はおそらく不幸である。だが欲望に苦しむ芸術家は幸せ者だ。
私はごく稀に私の前に現れ、たちどころに消え去ったある女を描きたい。彼女の姿は夜の中へと連れ去られたさすらい人の、美しく、名残惜しい置き土産のようだ。彼女がいなくなってからもう何年が経つだろう。
彼女は美しい。いや美しい以上だ。彼女は驚異的なのだ。彼女の内部には黒色があふれいている。そうして彼女がインスパイアするすべては夜に似て、意味深長だ。彼女の目は謎が微光を放つ二つの洞窟であり、彼女の視線は稲妻のごとく閃く。それは闇の中の一つの爆発だ。
もし人がこの世に光と幸せとをもたらす黒い天体といったものを考えることができるなら、私は彼女を黒い太陽に喩えたい。だが彼女がもっと容易に連想させるものは月で、月は疑いもなく、彼女に恐るべき影響を与えた。それは冷たい花嫁にも似た、牧歌的な白い月ではない。嵐の夜の奥にかかって、流れる雲に突き動かされている酔い痴れた、不吉な月である。それは純き人々の眠りを訪れる平和な、大人しい月ではない。テッサリアの魔女たちによって、夜空から引きずり下ろされ、震える草の上で乱舞することを心ならずも強いられている、敗残の、不平満々たる月である。
彼女の小さな額には不屈の意志と貪欲な愛が住んでいる。とはいえ、二つの鼻の穴が未知と不可能とを呼吸してうごめいている、表情が読めないこの顔面の下部においては、言うに言われぬ上品さとともに、紅い唇と白い歯との、艶やかにして巨大なる口のげらげら笑いが噴出しており、それは火山地帯に咲き乱れる妖花の奇跡を、人に夢想させる。
世には征服したい、楽しみたいという欲望を掻き立てる女たちがいる。だが彼女は、この女に看取られながら静かに息を引き取りたいという欲望を、人に与える。