魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)エドガー・アラン・ポー「讃美歌(Hymn)」他一篇

ジョージ・W・ジョイ「眠るジャンヌ・ダルク」。ウィキメディア・コモンズより。

讃美歌(Hymn)*1

夜明けにも 真昼にも 夕暮れにも
わが歌声に耳を傾けて下さったマリア様
よろこびの時も悲しみの時も 幸せな日々も不幸せな日々も
神様のお母様 わがかたわらを離れ給うな
青春の日々が輝かしく流れ
青空に雲ひとつ無かった時代
あなたの御恵みめぐみは わが魂を絶えず励まし
あなたへ またあなたの御国みくにへと導いて下さいました
今「運命」の嵐が雨雲を伴って
わが過去とわが現在とを暗く覆う時
せめてあなたとあなたの御国みくにへの希望で
わが未来を明るくお照らし下さい

無題(Stanzas)*2

「われわれはいかにしばしば時を忘れて
 人里離れた自然の広大な王国を愛したことか
 大森林 大荒野 大山脈 ことごとくわれわれ人間の
 知的営みに返事を返す大自然の高らかな声」――バイロン「島」

私が子どもの頃知っていたある男は 生まれた時から
太陽光が好きで 自然の美を愛でいつくしみ
大地もまた彼に対してひそかに好意を寄せていた
彼の命の炎は天翔あまがける天体によって点火され
そこから彼は 彼の魂にふさわしい
強烈な光芒を導き出していた
ところが彼の魂は みずからが炎々と燃えているさなかにも
それが何の影響によるものなのかを知らないのだった

空にかかる月の光が
私に束の間の幻を見させるのか
確かに月光は古代の賢者たちが
伝えるよりももっと強い支配力に満ちていると
私はなかば信ずる――あるいはそれは
夏草に置く夜露のごとく
覚醒の呪文とともに われわれの上を通り過ぎる
いまだ形を成さない思想の実質エッセンスに過ぎないのだろうか

それがわれわれの上を通り過ぎる時 目は対象に気がつき
今の今まで無関心アパシーのうちに眠っていた感涙が
まぶたへと込み上げるのだろうか
とはいえその対象は
神秘である必要はない むしろありふれたもの
いつもわれわれが目にしているもの ただその時にだけ
切れた弦のひびきのごとき異音によって
われわれを覚醒させる――それは象徴 そして暗号

それは『他界』にこそ存在するであろうものの
象徴そして暗号 『神』が美を通して罰当たりどもだけに
たまわるものなのだ それがなければ
彼らは生きていられず 地獄に堕ちるしかなかっただろう
その源は彼らの心臓の躍動であり
刻苦精励する魂の高揚感ハイ・トーンだ とはいえ
それは「信仰」を通じてではない 彼らは蛮勇ばんゆうをふるって
「信仰」をその玉座より追い落すのだ
内奥ないおうの感情を王冠としていただきながら

*1:『故エドガー・アラン・ポー作品集』(1850年)より。原文はこちら

*2:『タマレーンおよびその他の詩集』(1827年)より。原文はこちら