世界(The World)
白昼 彼女は私に愛をささやく
けれども夜間 月さながらに彼女は変わる
その爛れた横顔は見るも無残で
その髪には毒蛇が潜んでいるのがわかる
白昼 彼女は私を外へ連れ出す
そこには花と熟れた果実と欲求の充足がある
だが夜間 彼女は獣となって私に笑いかける
愛も祈りも効かない正銘の化け物なのだ
白昼 彼女は嘘を示す 夜間 彼女は
恐ろしい現実を その赤裸々な相で示す
そこには怒りと憎しみと諍いの他に何物もない
これが本当に私のお友だちで それで私は
彼女にすべてを捧げ 果ては手に手をとって
ともに蹄のごとく裂けた足で 堕ちてゆくのでしょうか
ハートの女王(The Queen Of Hearts)
ねえフローラ どうして私たちが
カードで遊ぶ時はいつも
あなたの手札の中に
ハートの女王がいるのかしら
あなたの秘術を見破ろうと
目を皿にして見つめた
けれどいくら目を凝らしても
あなたの手口が見抜けないのよ
何度もシャッフルをして カットした
けれど何度シャッフルをして カットしても
信じても 念じても無駄
彼女はあなたの手に落ちている
彼女を外したこともある けれどカードを
配り終えないうちに あなたは異変に気づき
「一枚足りない」と言って
テーブルの下を探した
いかさまをしたこともある 彼女の背中に
秘密の目印を付けて 虎視眈々と窺っていた
ところが同じ後ろ姿に
私はあざむかれた
クラブの女王の背中に 何者かの手によって
そっくりな目印が付けられていて
このわからない罠にかかって
私は破滅した
フローラ 私は唖然呆然
それは技術?工作?それとも幸運?
それとも あなたと彼女とは生来
惹かれ合うものがあるのかしらね
エリナー(Eleanor)
さくらんぼのように紅い唇
朝の空のように青い瞳
貴婦人のように細い腰は
愛らしく丸みを帯びて
彼女が顔を輝かせると
誰もがうれしくなった
とはいえ笑顔よりも心地よかったのは
彼女の声のトーンでした
彼女が話す時も 歌う時も
その声は不思議な旋律を奏で
あたりの空気の中を
いつまでも漂うのでした
それはあたかも太陽に向かって
流れる風の音のように
ついには輝きと熱気と響きとが
ひとつに溶け合うまでに
気高い心を物語る
彼女の秀でた白い額の上には
金色の長い髪が
さらさらと流れていました
彼女の小さな手と足は
お友だちの訪れに
いつでも駆けつける用意が出来ていて
ドアから差し出すものは笑顔でした
とはいえ歌う時も 話す時も
その声は耳に快かった
それはあたかもはるかな岸辺へと
寄せては返す波の音のように
それはまた あたかも神に召された一人の天使が
この地上を離れ
天国へと旅する道すがら
謳うよろこびの歌のように