魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)ボードレール「悲しきマドリガル(Madrigal triste)」

オーギュスト・トゥールムーシュ「慰め」。ウィキメディア・コモンズより。

あなたの賢愚に興味はないわ
綺麗でいなさい そして泣いていなさい
川の流れが景色をうるおすように
涙は顔立ちに華を添えるの
花々は大雨で若返るのよ

私は好きよ あなたのうつむいた顔から
よろこびの影が消えてゆくとき
あなたの心が恐怖にまれるとき
あなたの現在いまがあなたの過去の
暗雲に覆われるとき

あなたのぱっちりした目から
血のように熱いものが流れ出るとき
私の腕が優しくあやしているにもかかわらず
あなたの重すぎる苦しみが いまわのきわの
喘ぎのように あなたのくちいて出るとき

聖なる快楽よ 深遠にして
甘美なる讃美歌の歌声のごとき
あなたの嗚咽を私は吸い込む
そうしてあなたの目がころがす真珠のたま
純情の輝きを知る

私は知っている あなたの心が
今は滅びた昔の恋を吐き出しながら
まだ赤々と燃えていることを
あなたが地獄落ちを宣告された人間の
プライドを いささか胸に秘めていることを

とはいえ恋人よ あなたの夢に
地獄の景色が反映されない限り
あなたが絶え間ない悪夢の中で
毒薬や剣に恋して
爆弾や鉄器に焦がれない限り

誰に対しても恐怖を感じながらドアをひらき
至るところに不吉なきざしを読み取り
時計が時を打つたびに痙攣を起こしながら
あらがいがたいあの嫌われ者
抱擁を感じない限り

「怖い」と「好き」とが不可分のあなた
わが女奴隷よ わが王妃よ
病的な夜の恐怖の中で 悲鳴でいっぱいの胸の中で
このように言い放つことはできないのです
よ 二人はこれで対等」と

*『悪の華』第三版90。原文はこちら