花嫁
あなた 抱きしめていて
あの男が連れて行こうとするのよ
私はこの吹き荒れる風にも この荒れ狂う波にも
持ちこたえられない
松林と丘の向こうに
怪しい光が見える
あれは私のための光よ
花婿
抱きしめているよ お前
恐れることは何もない
北極光が遠く輝いているだけだよ
亡霊
おいで 綺麗な裏切り者よ
俺たちの家に帰ろう
お前を呼んでいるのはこの俺だ
俺がお前にかつて
プロポーズした時
「愛の巣は用意したよ」と告げた時
お前は恐れなかったね
荒波を渡っておいで
花嫁
もう少し抱きしめていて
彼は私の過去を責めるの
彼の力はどんどん強くなる
もっと強く抱いて もっと強く抱いて
彼は私をあなたから引き離そうとしていて
私は抗えない
彼は私を連れて
冷たい世界に旅立とうとしている
おお 交わした誓いのつらさよ
花婿
僕にもたれて 目をお隠し
ここに在るのは天空と大地と
僕らだけだよ 気を確かに
亡霊
俺にもたれろ こっちへ来いよ
俺が導いて 守ってやるよ
おいで 時間がないんだ
おいで 愛の巣はできているんだ
善かれ悪しかれ 生きようが死のうが
愛の巣は愛の巣なのさ
息が切れるのは目的地が近いからだ
誓いを成就させよう
花嫁
もう少し もうひとことだけお願い
私の心臓が止まる前に
私が意識を失って
私の呼吸が止まる前に
あなた 私を見捨てないで
私が忘れたように 私を忘れないで
ただ私だけを愛して
他の女を愛さないで
おそらく冬の寂しい夜に
私は帰ってくるから
花婿
お黙り お黙り
たわごともいいかげんしないか
僕が言っているのは死でも心変わりでもない 安堵だ
亡霊
おお 美しくも壊れやすい罪びとよ
刈り取られたあわれな収穫物よ
いつか彼のもとへ帰ってきても
彼にはお前がわかるまい
お前は俺がかつて知った
地獄の苦しみを知るのだ
はるかに美しい女が
空いた椅子に座って
彼の心を占め 彼の子を産んでいるだろう
それにひきかえ 俺とお前は
地の果てで風に吹かれて
啾々と哭きながら 狂奔乱舞していることだろう