魔性の血

拙訳『吸血鬼カーミラ』は公開を終了しました。

(日本語訳)エドガー・アラン・ポー「湖(The Lake)」他四篇

ポーが「湖」の着想を得たとされるドラモンド湖(ヴァージニア州)。ウィキメディア・コモンズより。

アクロスティック(An Acrostic)

エリザベス 君が「恋をするな」と
言っても無駄さ その声が甘すぎるから
それは君やエルイーエル.が言っても無駄だ
それを言い切るには鬼嫁クサンチッペの才を要する
もし本気で僕を振る気なら
もっと冷たく言って すぐさま目を覆うことだ
月姫ルナエンディミオンの恋を癒やそうとした
すると彼はプライドも恋も狂気も
何もかも癒やされた――死んだからだ

湖――ある女性に(The Lake — To —)

少年時代 私はこの広い世界の
とある一角と縁があって
その風景をこよなく愛したものだ
それは人里離れた場所にひろがる
美しい湖で 黒いいわお
松林とがあたりを取り巻いていた

だがやがて夕闇が 他のすべての
地と同様 その地にも降り
怪しい夜風が妖しい歌を
歌いながら通り過ぎると
私はようやくこの湖の
本当の怖さに目ざめた

だがその怖さは恐怖ではなく
ふるえるようなよろこびだった
それは宝の山といえども これを定義するよう
導くことも 惑わすこともできぬ感情
たとえ愛でも それがあなたの愛だとしても

毒ある波にひそむのは死で
その深淵に隠れているは墓なのだった
それはこの湖を見れば見るほど
魅せられる人間にぴったりな墓
この寂しい湖は この淋しい心に
あこがれの彼岸エデンと映るのだった

フランシスへ(To F—)

19世紀アメリカの女流詩人、フランシス・サージェント・オズグッド。1850年に死後出版された彼女の詩集の扉絵で、肖像画家だった彼女の夫の作品に基づくもの。ウィキメディア・コモンズより。

恋人よ この何もいいことがない
 憂き世の小径をさまよいながら
(それはただ一輪の薔薇の花さえ
咲いてくれない寂しい小径)――
 わが魂はせめてあなたを想う
ひと時にのみ慰藉いしゃを得て ただそこでのみ
天国エデンの安らぎを知る

さればあなたの記憶は私にとって
 どこかの荒天に見舞われた海に浮かぶ
不思議な孤島のようだ
どこかの海 そこは嵐による大波で
 荒れに荒れている その一方で
その明るい島の上だけはいつもいつも
 雲ひとつない青空がひろがっている

神聖なる王権(The Divine Right of Kings)

神授した王権による唯一の王
それはエレン・キング もし彼女が俺のキングならば
俺は自由を求めて戦う代わりに
つながれた鎖をひしと抱きしめたろう

彼女の胸は真っ白な玉座
「美徳」という名の暴君が専制
この法外な権力を抑止しようと
あらがう卑劣な臣下など誰もいない

ああ もし彼女が俺の運命のぬしとなるなら
俺は王と王制とを固く支持して
この金科玉条を終生奉じるだろう
「王は 俺のキングは 常に正しい」と

スタンザ――F.S.O.へ(Stanzas [To F. S. O.])

フランシス・サージェント・オズグッドの墓碑銘。三人の娘とともに眠っている。ウィキメディア・コモンズより。

姫様 願はくはこのうたの全句が
姫様の来たるべき日々の歓喜
健康と平和とを告げる響きを
惜しげなく 存分にき散らすよう

姫様の毎日はハッピーな日々
よろこびは長く 憂いは短い
妬む心に絶賛を呼びさます徳
宿敵に愛され 後継ぎに惜しまれる

奔放な精神はこの狭い下界の
限界を踏み越えて旅を続ける
寄る波は「時間」の岸壁を打ち
決して水泡に帰すことはない

お祈りの句のごとく純粋無垢な
まごころだけが持つ真の明るさ
他人ひとのよろこびを我がことのように喜び
幸せは他人ひとからも祝福される

詩人や哲人に親しむことで
炯々けいけいと研ぎ澄まされた判断力は
若くして明るく 老いてなお鋭く
謬説びゅうせつ」の輝きに惑わされない

まっすぐな魂は荘厳華麗そうごんかれい
知恵に富み 徳を積み 感性も豊かに
「思想」の永遠の青空のもと
従容しょうようと ひとすじに歩み続ける

このような徳性に守られた道
このような旅路こそあなたの人生いのち
人の世が贈り得るさちというさちに恵まれ
天のみが授け得るあらゆる希望ゆめに輝いて