魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)ボードレール「どっちがほんとの彼女なんだ?(Laquelle est la vraie ?)」

ティツィアーノ「聖愛と俗愛」。ウィキメディア・コモンズより。

俺はベネディクタという名の少女を知っていた。彼女は大気を非現実リデアルで満たし、そのまなざしは美と荘厳と栄光と、不滅なるものを信ぜしめる一切とへの切望をまきちらした。
だがこの奇跡の美少女は必然的に短命だった。それで彼女は俺と出会って数日で世を去った。そうして墓地でさえ春の香炉がゆれていたある日、彼女を葬ったのはこの俺だった。インドの宝箱のごとく、不朽の香木でできた棺の中に、彼女をしっかりと閉じ込めて埋めたのはこの俺だった。
そうしてわが財宝を埋葬した場所の上に、俺がなおも目を釘づけにしていると、突如として故人と気味が悪いほど瓜二つの小さな人影が立ち現われ、そいつは真新しい墓土の上をヒステリックに踏み荒らして、げらげら笑いを爆発させながらこう言った。「私よ、本当のベネディクタよ!私よ、噂の悪女よ!そうしてあなたは人を見る目がなかった罰として、ありのままのこの私に恋をするのよ!」
俺はといえば、激怒して答えた。「嫌だノン嫌だノン嫌だノン!」そうして断固たる拒絶を強調しようとして、地べたを力いっぱい踏んづけたところ、真新しい墓土に足が膝までめり込んで、俺はあたかも罠にかかった狼のごとく、おそらくは永久に、非現実リデアルを埋めた穴から脱却できなくなった。


*『小散文詩集(パリの憂鬱)』38。原文はこちら