魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

ケイト・ブッシュ(Kate Bush)『魔物語』(Never for Ever)の歌詞和訳

バブーシュカ(Babooshka)

彼女は夫を試してみたかった
やり方はわかっているつもりだった
偽名を使って 別の女になりすますのだ
それは最悪の選択だった
香り付きの手紙を受け取った夫は
不思議な胸のときめきを感じた
昔の妻にそっくりだと彼は思った
涙を流す前の彼女に
時が流れる前の彼女に
まだ美しかったころの彼女にそっくりだと彼は思ったのだ
手紙の末尾には「あなたのバブーシュカより」と記されていた

夫をもっと試したくなった彼女は
密会の場をセッティングした
彼は私に隠れて
私の分身を抱くだろうか
そして彼女をひと目見た時
彼は強い既視感に襲われた
彼女は結婚前の彼の妻に
不気味なほど重なって見えた
彼の欲望をすべて受け入れてくれたころの彼女に
まだ優しかったころの彼女に
まだ美しかったころの彼女にそっくりだと彼は思ったのだ
バブーシュカ 僕はあなたのものです」と彼は叫んだ

イギリスのシンガー・ソングライター(の卵)で、人呼んで「ティーズサイドのウクレレのプリンセス」アメリア・コバーン(Amelia Coburn)さんによるカバー。"Uncanny how she"のあと、一瞬だけ歌詞が出てこなかったようですね。でもいい声です。2015年10月公開。

Amelia Coburn - Babooshka (Cover)

死者たち(Blow Away)

バンドのうちの一人が
ゆうべ私に言った
音楽は彼の人生のすべてだと
もし彼が死んだら
彼の魂は音楽と別れて
彼ならではのフレーズやR&Bも 風とともにすべて消えてなくなるのかしら

死んだビルは
違う考えだった
九死に一生を得た人たちから聞いた話だとして
私たちの魂は
何を恐れることもなく肉体を離れて
訪問客でいっぱいの部屋へ入っていくのだと

(コーラス1)
ハロー!
ミニー・リパートン
キース・ムーン
シド・ヴィシャス
バディ・ホリー
サンディ・デニー

(コーラス2)
押さないで
突き飛ばさないで
私を中に入れてちょうだい
押さないで
突き飛ばさないで
私も仲間に入れてちょうだい

だから灯りを消して
命を絶つの
夜空のヴァイヴはあなたへの招待状よ
塵は塵に
風は風に還る
今夜のショーの一番手はムーニーとマーク・ボラン

(コーラス1 くりかえし)
(コーラス2 くりかえし)

わずかな真実(All We Ever Look For)

あなたの父親をごらんなさい
あなたは何と彼に似ていることか
私もまた 私の兄弟と同様
私の母親の遺伝子を受け継いでいる

彼らがあなたにして欲しかったこと それは彼らができなかったこと
彼らが欲しかったもの それはほんの少しの手がかり
彼らが欲しかったもの それは真理
彼らが欲しかったもの それはあなたのほんの一部分
それは決して手に入らないもの

私たちが気まぐれに泣いて欲しがったもの
それは親たちを屈服させたもの
乳離れをして 巣立ちをして
しかも私たちは巣を離れたことを後で悔やむ

私たちのあこがれ それは開かれた別のドア
私たちのあこがれ それは別の子宮
私たちのあこがれ それは自分自身の墓
私たちのあこがれ それは月の光
私たちのあこがれ それは誰かの一部分
それは決して手に入らないもの

私たちのあこがれ それは一人の「神」
私たちのあこがれ それはドラッグ
私たちのあこがれ それは大きなハグ
私たちのあこがれ それは誰かの一部分
私たちのあこがれ それは誰かのほんの一部分だけ
それは決して手に入らないもの

エジプト(Egypt )

さかのぼるナイル
川の深さは底が知れない
ピラミッドは今宵寂しげに響きわたる
真っ赤な砂が流れる
ここはファラオたちの国
彼らのシンメトリーはまっすぐに私をつらぬく
彼らの霊を慰めるべく 立ち止まっている暇はない
私の守護霊を探すのに忙しいから
私はエジプトの恋人

彼女は私のプッシークイーン
私の体の秘密を知り尽くしている
私はもう二度とうぶな娘のように 恋に落ちたりはしない
私は砂丘とともにただよい
「死にましょう」などとささやき
エジプト風の快楽におぼれる
彼女は猫のふりをして私を手に入れた
彼女はそのまぶたの下の砂漠に私を閉じ込めた
私はエジプトの恋人

ウェディング・リスト(The Wedding List)

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「ウェディング・リスト」の元ネタであるとケイト・ブッシュ自身が認めているところのフランス映画『黒衣の花嫁』の撮影風景。www.lexpress.frより。

決してあきらめないし
失敗もしない
覚悟はできているから
おそらく運命も私に味方する
あの日 私たちと同じ部屋にいた
貴様を追い詰めてやる

私から逃げおおせると思っているのかしら
あたたかい血溜まりの中に 彼は倒れていた
貴様の銃口には煙
私は泣き叫ぶことしかできなかった
私たちのハネムーンをお通夜に変えた
貴様を追い詰めてやる

(コーラス)
どの新聞の見出しにも「痴情のもつれ」
「新郎 式の最中に射殺さる」
「犯人は謎の男」「寡婦となった新婦
新郎のなきがらにすがりつき みずからも血まみれに」
・・・そして彼女は言った
ウェディング・リストの中にいる
ウェディング・リストの中から探し当てる
決して逃がさない

貴様を探しながらも
私の目にはルーディしか見えない
彼の死に様が頭から離れない
仇を討たなければ治らない
貴様の頭に銃弾を詰め込んでやる
貴様を追い詰めてやる

すべてが終わって 貴様が地面に転がったら
銃の台尻を 貴様のどてっ腹に突き立てて
ルーディの無念を晴らす
私の靴のかかとで やられたことをやりかえす
湿気た葉巻みたいに踏みつぶしてやる
貴様を追い詰めてやる

(コーラス くりかえし)

「犯人を射殺したあと 彼女は首を吊った」
ルーディ 今行きます
「検死の結果 彼女は妊娠していたことがわかった」
あなた 今行くわ
「新郎の子と見て間違いない」
遂にやったわ!
「気にするな 彼女は本懐を遂げたんだ」
あいつを撃ち殺したのよ ルーディ!
「目には目を」
「灰は灰に還る」
ルーディ!

ライブ・パフォーマンス。1979年。歌詞の内容に忠実なコントなので、ご参考までに紹介します。

Kate Bush - The Wedding List (1979 Xmas Special)

バイオリン(Violin)

ブリッジにかかった四本の弦
出発準備完了
八分音符を飛び越え 小節の区切りに酔い痴れ
オーケストラ国を脱走して
オーケストラ国を脱走して
私の全身をわななかせ
私の全身をわななきとおののきとで満たしながら
私の全身をわななかせながら

(コーラス)
弓を動かして
弓の絶叫が聴きたいから
バイオリン!

煙突の上のパガニーニさん
「ダンスの王」*1と皇帝ネロと魔王サタンよ
その悪霊を私のフィドルスティックに打ち込んでちょうだい
泣き女バンシーたちを私のバックヴォーカルに付けておくれ
泣き女バンシーたちを私のバックヴォーカルに付けておくれ
フィドルを弾いてジグを踊れば 恋のダンス
フィドルを弾いてジグを踊れば 狂喜乱舞
フィドルを弾いてジグを踊れば 欣喜雀躍

(コーラス くりかえし)

少年の口づけ(The Infant Kiss)

おやすみなさいと言って
私は彼をしっかりとふとんにくるんだ
けれど何かがおかしい
これは何かしら
私の体にうずきを起こさせる この幼い口づけは
こんな小さな子に
心を奪われたことなど一度もなかったのに
自制がきかない
ただの幼児
ただの学童
これでは淫乱女呼ばわりされてしまう
小さな手が私の心に触れる
私の急所に触れる
この子の体には
が宿っているのかしら
私の体を知っている

(コーラス)
私はもはや無防備
隠し切れない
始めましょう 始めましょう

取り返しのつかないことが起こるかも知れない
このままではいけない
私はこの子が怖い
この子の目の中には大人の男性が隠れている
この子の顔をのぞき込むと 私には彼が見える
何という恐ろしい男だろう
この二人のささやきは
軽薄な優男の誘惑
彼らが口にする甘い言葉は
私を本気で口説いている
チュッとキスがしたい
でも私は踏みとどまる
そっと指を触れたい
でも私は動かない
大事に至る前に ここを立ち去らなければ

(コーラス くりかえし)

夢みる兵士(Army Dreamers)

息子が帰国したのは
軍の郵便局を通してだった
私は「ママのヒーロー」を飾るために
紫色の花束をたずさえていた

飛行場での追悼式
天候は暖かいのに あの子は冷たい
軍服を着た四人の男たちが
私の可愛い兵隊さんを運んできた

(コーラス)
「ロック・スターになればよかったのに」
ギターを買うお金がなかった
「政治家になればよかったのに」
ろくな教育を受けていなかった
「結婚して家庭を築けばよかったのに」
まだ二十歳にもなっていなかった
ああ 夢多き兵士たちの命は
何と空しく失われることでしょう

ブリキ缶に涙を注ぐ
ああ神様 この子はキツネにだまされたヒヨコのように
エゴで戦争に勝つことはできないことを
知る由もなかったのです

この子にたくさん星が付いた肩章と
あらゆる袖章と綬章とを与えて下さい
穴の中でじっとしているこの子に
いいえ ボタンとリボンで結構です

(コーラス くりかえし)

イギリスのシンガーソングライター、メイ・カルサウサー(Mae Karthauser)さんによるカバー。ベルギーはブリュッセルでのライブで、フランス語で話をしています。2014年。

Mae Karthauser - Army Dreamers (Kate Bush cover)

フランスのハープ奏者アリシア・デュ・クステル(Alicia Du Coustel)さんによるカバー。2016年12月公開。

Army dreamers - (Kate Bush)

ギリシャのグラフィック・デザイナーであり、イラストレーターであり、ミュージシャンでもあるところのイリニ・トリアンタフィリディ(Irini Triantafyllidi)さんによるカバー。2019年1月公開。

Kate Bush - "Army Dreamers" cover by Irini Triantafyllidi

呼吸(Breathing)

外界が内部に浸透する
お母さんの肌を通して
私もかつては外にいたけれど
今はお母さんの中にいるからとても安心

ゆうべ 夜空が明るくなった
私のレーダーは危険信号を送り続けている
けれど私の本能が私に命じるのは

(コーラス)
呼吸すること
お母さんを吸い込むこと
愛するひとを吸い込むこと
お母さんが吸っている煙草のニコチンを吸い込むこと
人類の没落を吸い込むこと

吸って 吐いて
吸って 吐いて
吸って 吐いて

私たちは最後のチャンスを逃した
私たちは爆風の後に取り残された最初で最後の人類
プルトニウムのチップが
すべての人の肺の中で キラキラと光っている

私は世界中のお母さんたちを愛している
ただ愚かな人たちが何もかも台無しにしただけ
なぜなら私たちは知っていた 命とは

(コーラス くりかえし)

吸って 吐いて
吸って 吐いて
吸って 吐いて
吐いて 吐いて 吐いて…

「実のところ、小さな核爆発と大きな核爆発との『差異』を非常に簡単な方法で見分けることは可能である。核爆弾の特徴は目もくらむような閃光で、それは地上のどのような光よりもはるかにまぶしく、太陽光をも凌ぐ明るさを持ち、この閃光の持続時間によって、われわれはその核兵器の規模を特定することができる。閃光の後には一つの火の玉の発生を見ることができ、それはその爆発が起こった地域周辺の瓦礫や、塵や、生命体を吸い上げ、そして上昇すると、それはまもなくおなじみの『キノコ雲』として認識されるようになる。閃光の持続時間試験の実地演習として、われわれはまず非常に小さな爆弾を、次にもっと充実した中規模の爆弾を、そして最後にわれわれが保持している極めて強力かつ『高効率』な爆弾のうちの一つを爆発させて、そこから発せられる閃光が何秒間持続するかを計測しよう」

(何が失われようとしているのですか)
お願いです
(何が失われようとしているのですか)
息をさせて下さい
(何が失われようとしているのですか)
お願いです
(何が失われようとしているのですか)
呼吸をさせて下さい
(何が失われようとしているのですか)
呼吸できる何かを下さい
(何が失われようとしているのですか)
お願いだから 呼吸できる何かを残しておいて下さい
(それをしなくては生きていけないものとは)
なぜなら 命とは…


ライブ映像。ピアノの弾き語り。1986年4月。

Kate Bush - Breathing (Live At Comic Relief)

魔物語

魔物語

 

*1:「ダンスの王(Lord of the Dance)」とはシドニー・カーター(Sydney Bertram Carter , 1915 – 2004) というイギリスのフォークシンガーが1963年に書いた讃美歌のタイトルで、その歌詞の中での「ダンスの王」とはイエス・キリストその人を指し、イエス様が信徒たちに向かって「私と一緒にダンスしながら天国に入ろう」と呼びかける内容となっております。英語版ウィキペディアより。