魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

続・服部まゆみ『罪深き緑の夏』

f:id:eureka0313:20181007185007j:plain

表題の作品について、一天一笑さんよりあらためて紹介文をいただきましたので掲載します。一天一笑さん、いつもありがとうございます。

はじめに

この本(河出文庫版)は1991年刊の角川文庫版を底本とする『罪深き緑の夏』の復刻版です。
1987年『時のアラベスク』で横溝正史賞受賞後の初の作品です。
著者の服部まゆみさんは、美術学校を卒業後、銅版画家として活躍されました。その美意識や、絵画制作の専門知識や、絵画展を開催する際の段取り等が、作品中いかんなく発揮されている、熱海にある洋館を主な舞台とする極上のゴシック・ミステリーです。

全ては12年前の夏に始まった

この物語は、山碕淳が両親に連れられて、蔦屋敷を訪れた場面から始まります。この訪問の目的は、淳を異母兄・太郎に遭わせること、蔦屋敷の女主人鷹原絹代に面会させる事です。淳の父は再婚で母は初婚の、大人の事情がある結婚です。
実のところ、淳少年が一番印象深かったのは、蔦屋敷の探検中に出会った権高な美少女鷹原百合(後の“いばら姫”のモデル)です。淳の子供心には、百合の祖母が言い放った“醜い子”の言葉が突き刺さります。

新進画家山崎淳に降りかかる三つの事件

1)三谷画廊の全焼

大人になり、子供相手の絵画教室を開きながら、実質的に初めての個展の準備をする山崎淳(老舗の三谷画廊の目玉は異母兄・太郎の個展で、いわば抱き合わせ商法)は、異母兄・太郎の友人で翻訳家&芸術評論家の鷹原翔(仏文学者で翻訳家の澁澤龍彦がモデル)との出会いがあり、無名の画家ながら肖像画の注文をうけるのですが、しかし個展会場に搬入された73点の絵画が全て燃やされてしまいます。しかも絵画をかばって画廊の経営者は焼死します。明らかに放火です、犯人の目的は何でしょうか?警察の捜査は行き詰まります。

2)約2週間後、鷹原百合が同乗した車で、太郎が交通事故を起こす

三谷画廊が燃えた後、フランス帰りの注目の画家ということで、急遽Sデパートで個展を開く話が纏まる位強運に恵まれていた太郎が、不可解な交通事故を起こします(鷹原翔の娘柚里香が関係している?)。百合は下半身不随の車椅子の体になってしまいます。淳は急いで病院に行くのですが、駆け付けた異母兄の友人たちから、異母兄・太郎にフランスから約500万円支払え、でなければお前の秘密を公表するとの内容の脅迫状が来たこと、更に三度結婚している鷹原翔に青髭公の噂があったこと等を聞かされます。眉目秀麗で、華やかさと絵画の才能に恵まれた、欠点の無いように見える異母兄にも、人には言えないことがあるのだと淳は知りました。
淳は鷹原翔の娘の由里香と出会います。そして、太郎と百合の仲は、周囲が思うほど順調ではないようです(婚約者のはずですが)。
また退院直後に太郎のアトリエが荒らされ、作品は硝酸で滅茶苦茶にされてしまいます。
果たして犯人は誰でしょうか?(かなり身近にいますよ)
同時期に、絵画教室の生徒の洋ちゃんが行方不明になり、警察の捜索が始まります。
淳の母は、泣いてばかりいます。何か心当たりがあるのでしょうか?

3)太郎が蔦屋敷の塔から転落死する

淳は鷹原氏の依頼の“いばら姫”(百合の肖像画)の制作に寝食を忘れて励みます。
モデルの百合と話すうちに、12年前、蔦屋敷で起こった鷹原絹代殺人事件?の真相に至ります。そして由里香の母親は誰なのか?“青髭公”は、鷹原翔ではなく、太郎だった。
淳の奮闘努力の甲斐があって、フレスコ画は完成するのですが、お披露目の前に何かの目的を持ってフレスコ画のある塔に登った太郎は、転落死をしてしまいます。
この転落死には、警察の介入はほぼありません。鷹原翔が素早く行動します。
太郎の転落死は、本人の過失なのか、誰かに突き落とされたのか?

これらの大変な事が数カ月の間に起きます。目まぐるしい展開のゴシック・ミステリーです。
年月が経過し、百合も死亡し、淳はパリに絵画の勉強に行ったまま音信不通になりました。
老朽化の為に、取り壊される事になった蔦屋敷で長期海外旅行の準備をしている2人は誰でしょう?

随所に三島由紀夫の抜粋があります。中世フランスのシャルル7世の御代の青髭公ジル・ド・レの起源の話もあります。耽美な世界に興味のある方、美術や工芸に興味のある方にお薦めします。
天一

罪深き緑の夏 (河出文庫)

罪深き緑の夏 (河出文庫)