魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)ボードレール「貧者の玩具(Le Joujou du pauvre)」

ユージェニオ・ラトゥール「ポルチネッロと少女たち」。「ポリシネル」とはもとイタリア発祥の「コメディア・デラルテ」という喜劇の一形式の登場人物で、16世紀から18世紀にかけてヨーロッパ中に普及し、人形劇や子供向け玩具などを派生しつつ、今なお庶民の間で親しまれているということです。ウィキメディア・コモンズより。

無邪気な気晴らしを一つ、ご提案させていただきたい。罪のない楽しみは実に数が少ない。
朝、君が街をぶらつこうという確固たる意志とともに出かけるなら、一ソルで買える小さな発明品でポケットを満たしておけ。たとえば一本の糸で動く板切れの道化人形ポリシネルとか、金床かなとこをたたく鍛冶屋とか、尻尾が笛になっている馬と、これにまたがっている騎手だとか。そうして立ちならぶ居酒屋キャバレーの前、立ちならぶ木々のもとで、見知らぬ貧しい子どもたちに、施しをしてやれ。君は彼らの目が膨大に拡張するところを見るだろう。初めのうちは受け取ろうとしない。自分の幸運が信じられないから。それから、その手はプレゼントをひったくる。そして彼らは走り去る。それは人を疑う癖のついた猫が、人にもらったひと切れのエサを、人から遠く離れたところで食おうとする有様に似ている。
一人の少年が、鉄柵のついた門の内側の道に立っていた。そのあたりには庭がひろがり、道の果てには日ざしを浴びた美しいお城の白い色が見えた。少年はみずみずしく美しく、愛嬌コケットリーに満ちあふれた田園風の衣装を着ていた。
贅沢と、自由と、金のかかった見世物を見慣れていることが、これらの子どもたちをかくも美しくするので、それは中流階級下流階級に属する子どもたちとは別の練り粉でね上げられたかと思われるほどである。
彼のかたわらの草むらには素晴らしい人形がころがっていて、これまた持ち主同様みずみずしく、ワニスを塗られ、金箔を貼られ、紫のローブをまとって、羽根飾りとガラス玉とに覆われていた。だが少年は、お気に入りのおもちゃを放置して顧みなかった。そしてその視線の先には。
門の反対側、アザミやイラクサ狭間はざまの道の上に、もう一人、別の少年がいて、これは不潔で、煤だらけで、栄養失調気味の、およそ世間から見離されたあの悪ガキどものうちの一人であった。だがもしも公正な目を光らせることで、あたかも目利きコノシュアの目が馬車製造業者のワニスの下に隠れた名画を見いだすごとく、彼の貧困による不快な変色を洗い落とすことができたならば、実はこれまた美しい少年であることがわかったろう。
公道とお城という、異質の二空間を分断しているこの象徴的サンボリックな鉄柵を通して、貧家ひんかの少年は富家ふうかの少年に自分のおもちゃを見せびらかしていて、富家ふうかの少年はこれをあたかも稀少な未知の物体のごとく、熱心に吟味していた。ところがこの貧家ひんかの少年が鉄格子を張りめぐらした箱の中に監禁してゆさぶったり、なぶったり、いたぶったりしていたおもちゃとは、何と一匹の生きたドブネズミであった。両親は、疑いもなく倹約エコノミーのために、この玩具を生活そのものの中から引っ張り出してきたのである。
そうして二人の少年は、平等な白さの歯を見せ合って、兄弟のようにわらっていた。

*『小散文詩集(パリの憂鬱)』19。原文はこちら