魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)ボードレール「月の恩恵(Les Bienfaits de la lune)」

ゴッホ「星月夜」ウィキメディア・コモンズより。

気まぐれそのものであるお月様が、君がゆりかごで眠っているところを窓の外から覗き見て、「気に入ったわ」とつぶやいた。
そうして彼女は雲で出来た階段を下りてきて、窓ガラスを音もなく通り抜けた。それから彼女は母親の優しさをもって君の上に伸び広がり、彼女の色を君の面上に置いた。その時以来、君の瞳は緑で、いつも真っ青な顔をしているようになった。君の目が今のように異常に大きくなったのは、この訪問者を見つめた時だった。そうして彼女はとても優しく君の首を絞めたので、君はそれ以来、永久に涙を流したい欲望に駆られるようになった。
にもかかわらず、お月様はよろこびのあまり、気化した黄燐おうりんのごとく、発光する毒素のごとく、室内中に充満した。そうしてこの生ける輝きのすべては思惟しながら言った。「お前は永遠にわが接吻の影響下にあるだろう。お前はわが流儀にぴったりの美貌を持つだろう。お前は私が愛するものを愛し、私を愛するものを愛するだろう。水を、雲を、沈黙を、夜を愛するだろう。無限の、緑の海を愛するだろう。無形にして多形なる水を愛するだろう。自分が今いない土地を愛するだろう。会ったこともない恋人を愛するだろう。化け物じみた花々を愛するだろう。気が狂うような香りを愛するだろう。ピアノの上で、しわがれた甘い声で、女のように泣いて失神する猫たちを愛するだろう。
「そうしてお前はわが恋人たちに愛され、わが家臣たちにかしずかれるだろう。お前は私が同じく夜の情交のうちに首を絞めた男たち、緑の目の男たちの女王となるだろう。彼らもまた広大無辺なる、荒れ狂う、緑の海を愛するだろう。無形にして多形なる水を愛するだろう。自分が今いない土地を愛するだろう。会ったこともない女を愛するだろう。未知の宗教の香炉にも似た不吉な花々を愛するだろう。心をかき乱す香りを愛するだろう。彼らの狂気の象徴エンブレムであるところのあの粗野にして肉感的な動物たちを愛するだろう」
だからこそ、呪われた甘ったれのお嬢さん、私はこうして君の足もとに横たわり、君の全人格に探し求めるのだ、恐るべき「神性」の反映を、運命が決めた代母の影を、猛毒を注入されたあらゆる発狂者ルナティックたちの乳母の姿を。


*『小散文詩集(パリの憂鬱)』37。原文はこちら