魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)マラルメ「未来の現象(Le Phénomène futur)」

ムンク「絶望」ウィキメディア・コモンズより。

青ざめた空は雲とともに、枯死せんとする世界の上で、おそらく旅立とうとしている。夕陽の色あせた紫のぼろ切れは、光と水に埋ずもれた地平線にまどろむひと筋の川の流れに消える。木々はうんざりしており、(道路の埃と言うよりは時間の埃で)白くなった木の葉のかげには、前世の遺物を見せる見世物師のテント張りの小屋がある。多くの街灯が黄昏を待っていて、不幸な群衆の面々に生気がよみがえる。その群衆は永遠の病いと、幾世紀にもわたる罪とに打ちのめされている。夫たちはその不憫ふびんな子どもをはらんだ妻たちのそばにいて、その子どもたちとともに地球は終わる。絶望の叫びとともに水面下へと沈んでゆく太陽を惜しむあらゆる目の不安な沈黙のうちに、こんな陳腐な客寄せ口上が流れる。「看板など出すだけ無駄、実物を見ていただくしかありません。なぜならこのような見世物について、その片鱗へんりんなりとも描き出せる画家というものが、今は存在しないからであります。今夜、わたくしが見せびらかしたいのは(至高の科学技術により、時を超えて)生きたまま保存された、在りし日の一人のでございます。髪と名付けられた創世記的無垢の狂気、黄金の恍惚エクスタシーが、織物の美しさで女の顔に巻きついており、その顔はくちびるの真っ赤な赤裸で照らされている。空しい衣裳の代わりに、女には肉体がある。その双眼は貴石きせきに似たりといえども、よろこびの素肌から放たれる眼光ほどの価値はない。立派な胸は永遠の母乳にはち切れんばかり、乳首のさきは天を仰ぐ。すべすべした両足は原始時代の海水の塩分をとどめている」夫たちはその禿げ頭の、醜怪な妻たちをかえりみて、先を急ぐ。妻たちもまた好奇心に駆られて、悲しい気持ちで見ようとする。
すべての者が、このすでに呪われていた一時代の形見であるところの気高い生き物クレアチュールを目にした時、理解する力のない者たちは無関心だろう。だが中には胸をえぐられ、目にあきらめの涙を浮かべながら、互いに顔を見合わせる者たちもいるだろう。そうしてこの時代の詩人たちは、死んだ目がふたたび輝くのを感じながら、その灯火ともしびのもとへと向かうであろう。混乱した栄光の一瞬間に酔い痴れた脳髄は、リズムに取り憑かれ、自分が美に先立たれた一時代に生存していることを忘れている。


*『韻文と散文』(第二版、1893年)より。原文はこちら