引き続き訪れた時間の脈絡の無さに、私は驚き、ぞっとした。にわかに黒内障を発症した者のごとく、私は闇夜の中を長いあいだ手探りで歩いた。
寝室には猛毒のように甘美な香りが立ち込めていて、鼻と咽喉とが焼けつくように痛かった…私にはイオーネの途方も無く広い額しか見えなかった…目は病んで、まばたきをするたびにズキズキした…路上に横たわる酔漢のごとく、私は愚かしく、ぐったりと、緊張を解いていった…
と、目が覚めた。寝室は闇で青かった。頑固な精神昏迷で、私の乱れた思考は身動きが取れなくなっていた。
…イオーネは私の寝台の足もとに立って、例によって奇妙な風に自分の両手を見つめていた。私には目もくれず、彼女は部屋の片隅に引き下がり、そこで彼女は霧やまぼろしの白さ以上のものではなくなった。私は懸命に身を起こして、彼女のところへ行こうとした…けれども私は足をすべらせ、私の寝台の足もとをぐつぐつ煮え立ちながら流れていた熱い溶岩の川に転落した。「熱い!」と叫びたかったが、濛々と黒煙を上げる流れに押し流され、私は波打つ炎の中を浮かびただよう一本のわらしべに過ぎなかった。燃える流れの両側に、年老いた女たちがしゃがみ込んでいて、炎の川の上で卵や米を調理していた。月は真冬の太陽のようなあかがね色だった。灰が豪雨のように降った。
激しい渇きで、口の中がからからだった。
…大坩堝の息吹きの中に神殿を見た…ルビーの玉座が、沈みゆく天体のごとく闇を真っ赤に染めていた…その玉座の高みから、カーリーが宗教的な残忍さをもって私をじっと見つめていた。彼女が赤い歯を見せて笑うと、それまで雌犬のようにがりがりと噛み砕いていた頭蓋骨がぽとりと落ちた…
私はシロッコに吹き飛ばされて、それは焼けた砂と黄色い塵とのつむじ風だった。砂と塵とは私の傷んだ肺を心なく満たした。口をひらくと、窒息する者のあえぎで胸がふるえた…砂と塵とで私は息が詰まり、目が見えなくなり、埋没した。
私は星もない夜の中で叫んだ…
指を香油で濡らした巫女たちが秘教の舞いを舞っていた。その姿は夜の闇になかば隠されていた。巨大なエメラルドが彼女たちのおへそを目立たせていた。そうしてむき出しの性器からは金髪や赤毛の炎が上がっていた…私は彼女たちのうちの一人がその官能的なリズムに合わせて振っている一枚の孔雀の羽根であった。その儀礼的なダンスは私を容赦なくゆさぶった…
わらぶきの家の開け放たれた窓から、通りすがりの人々の声が入ってきた。その声と一緒に、あらゆる未知なるものの無限がその窓から入ってくるのだった。けれども私指を香油で濡らした巫女たちが秘教の舞いを舞っていた。その姿は夜の闇になかば隠されていた。巨大なエメラルドが彼女たちのおへそを目立たせていた。そうしてむき出しの性器からは金髪や赤毛の炎が上がっていた…私は彼女たちのうちの一人がその官能的なリズムに合わせて振っている一枚の孔雀の羽根であった。その儀礼的なダンスは私を容赦なくゆさぶった…
わらぶきの家の開け放たれた窓から、通りすがりの人々の声が入ってきた。その声と一緒に、あらゆる未知なるものの無限がその窓から入ってくるのだった。けれども私は何も聴かず、私の目はこの十字窓の天辺で揺れている白薔薇の花に釘付けになっていた。
これに続いたのはある子供っぽく不自然な風景で、ノルウェーやドイツのおとぎ話を集めたイギリスの本の挿絵を思い出させた。絵に過ぎない青葉でぴかぴか光っている樹木たちが散歩道の両側に整列し、その散歩道はつるつると滑りやすく、幼い女の子の髪の毛よりもさらさらとしていた。
滝のとどろき…木の葉のざわめきに入り混じった蛇のしゅうしゅうという声…そうしてまた滝の音…
そうして私はヴァリーの死体を前にしていた…彼女は澱んだ沼の上を漂っていた。その白い乳房は青ざめた睡蓮の花ふたつであった。彼女は引きつった目で私を見つめていた…私はかつてこの女をこの澱んだ沼で溺死させたのだ。彼女は水草やアイリスを髪に絡ませながら、背徳のオフィーリアのごとく漂っていた。私はかつて彼女を馬鹿げた動機から殺したのだ。そうしてもはや何も見えなくなった目で、彼女はいつまでも私を見つめていた…
地下室のひんやりとした空気を顔に感じた。私は四つの棺の中央に立っていた。一番大きな棺はある男性のもので、何かしらどっしりとした立派なものであった。私はそれが誰か著名な人物の、政治家か外交官の棺であることを知っていた…詩の無い花々がそこに大きな黒っぽい染みとなって広がっていた。それは重厚なパンジーのドライフラワーで、緋色のビロードのような花びらがついていた。
この巨大な棺のかたわらで小さくなっていたのはある胎児、ある幼虫の棺であって、四肢というよりも四肢の影が納められていた。色あせて、ほとんど香りも失った花輪が、そこでシンプルに朽ち果てていた。この子供の棺は存在し得たかも知れなかったあらゆるものと同様、悲劇的で、虚しかった。
悪趣味な葬儀用のアクセサリーが、とある萎びた棺を覆っていて、その木材には無数の皺が寄って、まるで蜘蛛の巣みたいだった。この黒や黄色のぶざまな真珠の飾り付けで、ある陰気な声をしたお婆さんのブルジョア人生が永遠化されるはずであった。
そうして信仰に燃える大蝋燭の不滅の愛の照らすところ、そのもっとも闇の深いあたりに、一人の処女の棺が白いすみれの香りを漂わせていた…私はイオーネの棺を見ているのだと悟った…
不思議な静けさで、私自身の心音まで消えてしまった…
ところが最後の審判の日のらっぱの音よりも恐ろしい音を立てて、大きな棺の板にひびが入った。それは腐敗による発酵のなせるわざに違いなかった…
あえぎ声、ふたたびあえぎ声、そうして最後のあえぎ声…私は死んだ。私は肉体をはぎ取られた一つの魂、際限もなければ脈絡もない一つの不定形の混乱したかたまりに過ぎず、素っ裸でふるえているほかに何の感覚もないまま浮かび漂っていた。
この魂の空しい自意識の中心に、一つの祈りが残っていた。『人格を、肉体を、名前を下さい。ああ、もう一度誰かになりたい。かつて私であったところの者になりたい。とは言え私は自分が誰だったのか、もはや思い出せないのだけれど』
暗黒…そして無…(第9章終わり)