ダグマーは結婚した。彼女は向こう見ずにも、櫂もなければ舵もない儚い小舟にみずからを託して、夜の大海へと船出したのだ。
彼女は財産を持たない青年のもとへ身ひとつで嫁いだのだった。にもかかわらず、この夫婦はそろって闘争心がなく、貧困生活よりもなお恐るべき中流生活に対して、身を守るためにどうしても必要な事物に関する正確かつ現実的なヴィジョンを何ら持ち合わせていなかった。二人とも高価な工芸品に対する素朴なあこがれを持ち、宝石類の固定された笑いや、はるかなひろがりを感じさせてくれる風景画や、見る角度によって快感を無限に更新してくれる彫刻作品のたぐいに目がなかった。
ダグマーはもっとも恐れなければならない『未知なるもの』をすんなりと受け入れてしまったのだった。彼女は『来たるべき人々』の謎を前にして少しもひるまなかった…彼女自身に対してと同様、彼らについても無頓着で、彼女はすべての未来を信の置けない『偶然』に託してしまった。
そうして彼女の若い夫も彼女に負けず劣らず浅はかで、同じ無知と無気力とから、心ない『運命』にみずからをゆだねて恥じなかった。確かに彼らは幻に目がくらみ、暗い森の中へと迷い込んだ二人の無邪気な子どもたちであった。
彼女の婚礼の日、私は蛮行の餌食とされるあの美と純潔とを思って胸を痛めた。性別のないあの美しい肉体が、おぞましい妊婦姿へと変貌を遂げるのか。野いばらの花びらを集めて作ったようなあの白い肌が、獣的な夫婦生活によって染みだらけの皮膚と化するのか…
ひとつの夢の終焉を前にして、私は長く嘆かずにはいられなかった…(第19章終わり)