魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

ルネ・ヴィヴィアン作『一人の女が私の前に現れた』主な登場人物とあらすじ

ルネ・ヴィヴィアン(Renée Vivien/Pauline Mary Tarn, 1877-1909)のファンタジー小説『一人の女が私の前に現れた』('Une femme m'apparut', published by Alphonse Lemerre, 1904)を訳出する前に、この作品の英訳本('A Woman Appeared to me', published by the Naiad Press, 1976)の冒頭にゲイル・ルービン(Gayle S. Rubin, 1949-)という人が書いた長い解説がついておりまして、今はこれを参照しながら、この自伝的小説の主な登場人物とあらすじをご紹介いたします。

主な登場人物は以下の通り。
「私」:作者ルネ・ヴィヴィアン。二十代の女性同性愛者。
ヴァリー:ナタリー・バーネイ。「私」の想い人。大富豪の令嬢で、目の覚めるような美人で、遊び好きの浮気者
サン・ジョヴァンニ:これも同年代の女性同性愛者で、詩人。該当する実在人物はいない。ルネの分身とも考えられる。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたサン・ジョヴァンニ(=バプテスマのヨハネ)に似ているという。ヴァリーの友人。
エヴァ:これも同年代の女性同性愛者で、該当する実在人物はいない。ナタリーの少女時代からの情人エヴァ・パーマーと、ルネの愛人エレーヌ・ド・ザイレン男爵夫人のイメージを重ね合わせたような人物。
イオーネ:ヴァイオレット・シリトー。「私」の幼なじみの女性。
ペトルス:マルドリュス博士。「千一夜物語」の仏訳で有名な翻訳家。
ペトルスの妻:マルドリュス夫人、リュシー・ドラリュ=マルドリュス。詩人。
ダグマー:イギリスの女詩人オリーブ・カスタンス。ここでは天真爛漫な少女詩人として描かれている。

この小説のあらすじは以下の通り。
「私」はヴァリーとの最初の出会いからその美貌に眩惑される。「私」は幸か不幸かヴァリーに愛されるが、ヴァリーの女癖の悪さに悩まされる。しかしそれよりも「私」を苦しめるのは、ヴァリーに求婚している男性(「売春夫」と呼ばれております)の存在である。事実、この頃のナタリー・バーネイは数人の男性から求婚されていて、ナタリーは彼らをきっぱりとはねつけることをせず、返事を先延ばししながら、のらりくらりと弄んでいたということです。
「私」にはイオーネという固い絆で結ばれた友人がいるが、ヴァリーと出会ってからは、イオーネとの間は次第に疎遠となる。
ヴァリーは「私」とサン・ジョヴァンニを連れてアメリカへ旅立ち、そこで三人はブリンマー大学を訪れる。「私」たちがパリに戻ってきてしばらくしてイオーネが死ぬ。イオーネを失った悲しみと、ヴァリーの浮気癖から来る苦しみに耐えられなくなった「私」は、遂にヴァリーと破局を迎える。ここまでが大体1899年から1901年ごろまでの出来事なのだそうです。
さて、傷心の「私」はトレドに旅立ちますが、帰ってくると「復縁」を求めるヴァリーの手紙が届いている。ヴァリーとやり直す気のしない「私」は、年若いダグマーとの関係に慰めと見出そうとしますが、やがてダグマーは男と結婚してしまう。これはオリーブ・カスタンスがアルフレッド・ダグラス卿(オスカー・ワイルドの元恋人)と結婚したことを指しているので、『レスボスの女王』(ジャン・シャロン著、小早川捷子訳、国書刊行会、1996年)によりますと、ナタリー・バーネイはこの頃お父さんから「お前もオリーブを見習え」とお説教を食らったということです。
ふたたび一人ぼっちになった「私」ですが、ここでエヴァが救いの神のように現れて、幸福な愛の暮らしが一年間続きます。一年後、またしてもヴァリーが現れて「復縁」を迫る。ヴァリーとエヴァという「私」の運命を握っている二人の「大天使」の間に挟まれて、決断を下せないまま、物語は終わります。

他に原書の特徴として、各章の冒頭にBGM用(?)の音楽作品の楽譜の一部が印刷されているそうです。ショパンシューマン、ベートーベン、ワーグナーなどが選ばれております。
また口絵としてレオナルド・ダ・ヴィンチの「バプテスマのヨハネ像」がついていて、サン・ジョヴァンニと呼ばれる謎の登場人物が、この不思議な小説を読み解く鍵を握る人物であることを示唆しております。