魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

「ひたむきな真昼時」ほか六篇(詩集『魔性の血』ソネット篇)

ソネットの規則について

日本語版ウィキペディアによりますと、ソネットの形式には大きく分けてイタリア風、イギリス風、スペンサー風の3種類があるということですが、私はもっと単純に、ペトラルカ風とシェイクスピア風の二つに分けて考えております。
ペトラルカ風は4行+4行+3行+3行(=8行+6行)。
シェイクスピア風は4行+4行+4行+2行という構成です。
近代になると、フランスあたりでは、
3行+3行+4行+4行
みたいな変則形も現れます。わが国では中原中也なんかがこの変則形を模して、佳い詩を遺しています。
ペトラルカ風(イタリア風)ソネットの脚韻の踏み方は、日本語版ウィキペディアによりますと、

ジャコモ・ダ・レンティーニのソネットでは、八行連の押韻構成は「a-b-a-b, a-b-a-b」だったが、後には「a-b-b-a, a-b-b-a」となり、それがイタリア風ソネットの標準となった。六行連には、「c-d-e-c-d-e」か「c-d-c-c-d-c」の二つがあって、やがて、「c-d-c-d-c-d」という変化形も採用された。

これに対してシェイクスピアソネットは「一般的な押韻構成は『a-b-a-b, c-d-c-d, e-f-e-f, g-g』」であったということです。
シェイクスピアソネットでは、ジョン・キーツに水際立って美しいのがあります。ご存じの方も多いでしょうが、
When I have fears that I may ceased to be...
で始まるソネット、あれの最後の二行は何度思い返しても戦慄を禁じ得ません。
なお日本語で脚韻を踏んだ詩を書く意味、日本語でソネットを作る意味については、拙文「訳詩における脚韻」「四拍子対三拍子」等をご参照ください。

ひたむきな真昼時

お姉さま あなた落第 息の根を止めないまでも
 昼間から人の生き血を吸うひとは ちょっと問題
 ほどほどで我慢できないお年ごろ それが十代
ひたむきな恋をしましょう 心中と言わないまでも
恋をして 命のかぎり恋をして 命尽きても
 天国で恋がしたいの だからほら 死んでちょうだい
 永遠の愛にすべてを捧げれば 見事及第
わたしたち 晴れて一心同体よ いついつまでも

草むらのかげに隠れて咲いている 美々しい性器
 ふしだらなひとの生き血を吸うことに 問題はない
息の根を止めたところで また息を吹き返すだけ
永遠の愛を求めて旅立って はや幾世紀
 十代のままの心とからだとに ほどほどはない
真昼時 胸もどきどき ひたむきに愛し合うだけ

*ペトラルカ風を模したもので、押韻構成は、怪しいところもありますが、だいたい「a-b-b-a-a-b-b-a,c-d-e-c-d-e」になっているつもりです。

みにくい部分

昼休み 校舎のうらで 二人して楽しみましょう
あなたには隠したくない みずからのみにくい部分
わたくしの恥部にまつわるこの話 聞けば爆笑
心あるあなたにならば 何もかも話せる気分

心ない一年生に愛を説き 霊を救済
いいものを見せてあげると連れ込んだ 草むらのかげ
魅せられた少女ののどを掻き切って 叫ぶ快哉
酔い痴れた魔性のうたげ 今はただなつかしいだけ

わたくしを泳がせている委員長 生徒会長
それとなく その周辺を嗅ぎまわる 新聞部員
校庭を 風紀委員が走るたび 走る緊張
さわやかに季節はめぐり 今もなお解けぬ封印

草むらのかげに隠れて咲いている わたくしの恥部
今日からは日ざしの中で求めたい あなたの愛撫

シェイクスピア風を模したもので、押韻構成は「a-b-a-b, c-d-c-d, e-f-e-f, g-g」となっております。

以下はすべてペトラルカ風を模したものです。シェイクスピアソネットも、他に幾つか試作はしてみましたが、うまくいきませんでした。

十月の恋

十月の朝の教室 教室にならんだ机
 そのうちのひとつの机 その椅子に触れる幸せ
 その椅子の上に画鋲をまきちらす それは腹いせ
それはただ あなたがいかに憎いかを伝えたいゆえ
そして今 あなたがいかに愛しいか 伝えたいゆえ
 わたくしは あなたが罠に気がついて 傷ついて見せ
 ぬれぎぬを 無知で無口な級友に 着せるにまかせ
みずからは 窓にもたれて追っている 季節の行方

なかば嘘 なかば本気でささやいた あなたへの愛
 戯れに伸ばした指が血を流す 薔薇の潔癖
わたくしの涼しい顔に突き刺さる 冷たい画鋲
この窓は 波もとどろに打ち寄せる 言わば断崖
 目を閉じて 飛べば心が軽くなる それが絶壁
十月の恋は重病 わたくしは余命数秒

人妻殺しのうた

「糸屋の娘は目で殺す」 - 頼山陽

お姉さま 人妻ばかり殺さずに 処女も殺して
 この日ごろ 道で倒れているひとは 既婚者ばかり
 そのかげで 自慰にふけっている者は 淋しいかぎり
お姉さま はやく殺して 流し目で昇天させて
寮長が威信をかけた 女子寮の厳しい掟
『愛し合う女子と女子とを結ぶのは 夫婦の契り
 お互いに操を守り 励むべきものは子作り
健全な同性愛のイロハこそ 教課のすべて』

それが今 夫婦ともども 出産も育児も忘れ
 お姉さま あなたが眠るかたわらに眠るありさ
寮生の死屍が累々 寮長の首が飛びそう
されどまだ処女のわたくし 妻の座は日々のあこがれ
 磨き込む白い肉体 一切はみこころのまま
寮長を殺すついでに 校長も料理できそう

笑えるわ

笑えるわ いつも澄ましているひとが こんなありさ
 聖女とも呼ばれたむすめ そのうらでよい子をいじめ
 天使らの甘い生き血を吸っていた 実にふまじめ
このむすめ そんなあなたが昼間から ねえお姉さま
花びらを見せびらかしている姿 とってもぶざま
 人として耐えたい痛み 人としてつけたいけじめ
 鞭打たれ 引き回されている様子 とってもみじめ
それでいて常と変わらぬ澄まし顔 まるで神さま

教会の魅せる魔女狩り そのかげでむさぼる暴利
 十字架に少女をつけるこの趣向 実に風流
ともどもにその花びらを愛でるなら すなわち視姦
こもごもにその花びらを散らすなら それは輪姦
 焼くもよし 煮て食うもよし お好みのメニューで料理*1
あこがれの上級生と下級生 夢の交流

明るいニュース

昼下がり 教えの庭を駆けめぐる 明るいニュース
 新しい寮で人気の美少女が 遂に解禁
 あこがれの 同じクラブの先輩が 急に接近
二人して 校舎のうらで飲んでいた 缶入りジュース
そう言えば 誰が勝手に持ち出した 毒入りジュース
 毒を盛り 人を消したい人間は 払う料金
 毒を飲み 不死になりたい人間は 寮に監禁
火あぶりにされた少女がまた一人 悲しいニュース

今日もまた 校舎のうらの草むらで 花が満開
 頑なに 愛を拒んでいたひとも 遂に落城
心ある 温かい目を待っていた みにくい陰部
毒を飲み 死の接吻を交わしたら 次の段階
 美少女の けがれを知らぬ肉体も 遂に炎上
限りあるいのちの限り捧げたい 優しい愛撫

性根を叩き直すうた

お姉さま お茶の用意ができました もう冷めたかも
 あの子とも この子とも寝るお姉さま まっぴるまから
 寝台に縛りつけられ たっぷりと汗をかいたら
その舌に垂らしてあげる 涙より塩からいかも
顔で泣き 心で笑うお姉さま 死んでいいかも
 何度でも殺してあげる だからほら 縛を解いたら
 わたくしをぶって 冷たく背を向けて そのうしろから
わたくしはあなたを刺すの だけどまた生き返るかも

お姉さま その正体を知る者は わずかでしょうね
 けがれなき美少女たちを迷わせる 涼しい声音
天使らと清く交わるふりをして むしり取る羽根
あなたとは 同じ魔性の血を分けた 妹と姉
 異端なら 鞭打たれても焼かれても 吐かない弱音
存分に叩き直してあげましょう あなたの性根

*1:ここでの「メニュー」とは「レシピ」の意ではなく、「拷問のメニュー」の意。