魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

ふたたび BAND-MAIDの「from now on」

ジミー・ペイジBAND-MAIDのドラマー・廣瀬茜。廣瀬茜の公式ツイッターより。

「ハトの穴」の謎

BAND-MAIDにまつわる謎の一つは、国内のファンよりも海外のファンの方が熱心であるように見えることです。
BAND-MAIDの今年(2023年)三月の九州公演では、どの会場でも一割ほどの海外ファンの姿が認められたという。ちなみに最近の日本の俗語で「沼にはまる」というところ、英語では「ウサギの穴に落ちる(go down the rabbit hole)」というそうですが、いつぞやBAND-MAIDの動画のコメント欄を見ていて、確かフィンランドのファンの方のコメントで、ウサギの穴ならぬ「ハトの穴(a pegeon's hole)」に落っこちてしまって、今年1月の東京ガーデンシアター公演を観るために来日され、次は7月の新宿公演を観に来る予定を立てている、というものを読んだ記憶があります。
ようやるわ」と呆れる反面、やはり一日本人として、有難いですね。そういえばThe Warningの動画のコメント欄を見ていると、「彼女たちはメキシコの誇りだ!!」というものが散見するのですが、BAND-MAIDの動画のコメント欄を見ていても「彼女たちは日本の誇りだ!!」といったものはついぞ見かけませんね(私が見落としているだけかも知れませんが)。彼女たちは今や日の丸を背負って戦っていると思うのですが。個人的には「侍ジャパンを応援するヒマがあったら、BAND-MAIDを応援しろ!!」と言いたいところです。

「アキレス最後の戦い」と「from now on」

BAND-MAIDツェッペリンの影響を受けているとか、BAND-MAIDのギタリストがペイジの影響を受けているとか言うのではない。この二つは似ても似つかぬバンドです。ただ話の便宜上、引き合いに出すだけです。
BAND-MAIDの「from now on」というインスト曲について、すでに何度か書きましたが、どうもうまく書けていない気がするので、もう一度書きます。私はこの曲に何か全く新しいものを感じるので、しかもその新しさはこの曲の「女性性」、誤解を恐れずに言えば「女らしさ」にあるような気がします。
こちらの記事にも書きましたが、レッド・ツェッペリンの7枚目のアルバム『プレゼンス』の1曲目、「アキレス最後の戦い(Achilles Last Stand)」という10分以上ある曲の、3分42秒ごろから5分15秒ごろにかけての約1分30秒におよぶギターソロは、私にはギターソロというよりも、何かある致命的なダメージを受けた男性の肉体の克明な描写だという気が、いつもしたものです(「アキレス最後の戦い」の音源へのリンクは、ここには貼りませんので、知らない方はお手数ですが検索してお聴き願います)。これを聴いていると、斬られるか、刺されるか、撃たれるかして倒れた男性が、立ち上がろうとして立ち上がれず、七転八倒、地べたをのたうち回っている光景が、まざまざと目に浮かんでくるのですね。
同じような印象をBAND-MAIDの「from now on」からも受ける。ただしこちらは男性の肉体ではなく、女性の心理状態です。それも物理的なダメージというより、何か強烈なストレスに長時間さらされて、精神に異常を来し、発狂寸前まで追い詰められている女性の内面の描写、という気がします。
自律神経失調症」とは正式な病名ではなく、原因不明の様々な症状の総称だ、と聞いたことがあります。その症状の一つが頭痛ですね。この曲の前奏はその静かな前触れ、藪から棒にやってくるのは鈍器で頭部を殴られたかのような激痛です。以後、リードギターの絶叫は鋭い苦痛を、雷鳴のようなドラムは激しい動悸を、そうしてサウンド全体の強烈にうねるような感じは、めまいによる体のふらつきと心の乱れとをよく表している。ベースのソロパートは小康状態、束の間の安らぎを表現しますが、それは更なる激痛の前触れに過ぎない。我慢の限界が来るまで拷問は続き、最後にヒロインが失神して、惨劇は終わる。
以上がこの曲から聴き取れる、これまでの男性の、男性による、男性のためのロックとはまったく異質のストーリーです。要するにこのナンバーはカッコよさを追求したものなどでは断じてない。人間の極限状態を表現しようとしたものです。このように病的な楽想ながら、これを美しく楽曲化した手腕は巨匠レベルと言ってよく、ツェッペリンの名曲の横に並べても何ら遜色はありません。


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