The Warningの「CHOKE」の歌詞
メキシコの三人組ガールズバンド、The Warningのワールドツアーの日程が発表されました。今月(2023年4月)の末から来月にかけてアメリカを回り、6月にはヨーロッパを回るらしい。この北米ツアーの日程がBAND-MAIDの今年の第一次USツアーの日程と部分的に重なっていて、彼女たちはまたどこかで顔を合わせるかも知れません。
The Warningはヘビメタバンドで、音的には、日本でいうと、NEMOPHILAなどに近い。一方BAND-MAIDは、確かギタリストが「自分たちはヘビメタバンドではない」という意味のことを、どこかで明言していたように記憶します。このようにこの二つのバンドはまったく志向性の異なるバンドでありながら、その魅力に何か一脈通じるところがあることは、私にも理解できますが、その何かとは何であるかは、まだよくわかりません。
こちらの記事でご紹介したThe Warningの「CHOKE」という曲の歌詞は、日本語に訳すと、こんな感じです。
さよならは言わない
もうどうだってかまわない
私にはわかっていた
生き残れないと
目に涙を浮かべなさい
悪徳は高くついたが
魔法は解けた
それは私とともに死んだの
泣かないで
私を溺死させて
入水させて
深く沈めて
頭を押さえつけて
窒息させて
溺死するまで…
この「私を溺死、溺死、溺死(Let me DROWN, DROWN, DROWN)」と叫ぶギターの女の子の声があまりに物凄く、私など震え上がってしまいますが、向こうでは、こういう歌詞は、こういうヘビメタ調の曲では、珍しくないらしい。私はもともとヘビーメタルという奴には興味がないのでよくは知らんのですが、こういう強烈極まる歌声が、ファンの耳においては即快感に変換され、かえって明日への活力を供給してくれるものであるらしい。
結局のところ、ハードロックを聴くことが精神衛生上好ましいのは、痛烈なビートによる刺激が、「ほのぼの」とか「しみじみ」とかいったあいまいな感傷――小鳩ミクの言葉を借りるならば「嘘ばかりで、ピント合わないまやかし」*1――の手から、われわれを解放してくれるからです。
とはいえ、上に「The Warningは音的にはNEMOPHILAに近い」と書きましたが、はたしてNEMOPHILAにこんなネガティブな歌詞の曲があったかしらん?というのが今回の記事のテーマです。
BAND-MAIDの歌詞の「毒」
Redditという英語圏の掲示板サイトのBAND-MAIDの板に「日本のロックソングは何でこんなにポジティブな歌詞の曲ばかりなのか?」というスレッドが立っているのを見て、考え込んでしまいました。私自身、BAND-MAIDの「Manners」という曲の歌詞に触れて、同様の疑問をこちらの記事に書いたことがあるからです。
このスレッドを見て驚くのは、英語圏のBAND-MAIDファンたちが彼女たちの作品を本当によく研究していることです。彼らはBAND-MAIDの曲の歌詞を、わざわざ英訳を探して読み込み、そこにBAND-MAIDの新たな魅力を見出している。歌詞なんか適当に聞き流している日本のBAND-MAIDファンたちよりも、彼らの方がより深くBAND-MAIDを愛するようになるのは当然です。
ただ英訳による理解には、所詮限界がある。そもそも詩が翻訳できると思っている人は、詩について何も知らない人です。これは一度でも詩の翻訳を試みれば、誰にでもわかることです。
まず、確かに日本のロックソングにポジティブな歌詞の曲が多いことは事実ですが、この問題を単なる「文化の違い」で一蹴されては困るのです。別にNEMOPHILAでなくても、TRiDENTでも、SCANDALでも何でもよろしいが、これらのわが国の非常に優れたガールズロックバンドが、皆が皆「がんばるぞー!」「負けないぞー!」みたいな歌を元気よく歌い、その動画のコメント欄に「勇気が出た!」「元気をくれた!」「背中を押してもらった!」みたいなコメントがずらりと並ぶ。これはごく平凡な一日本人の目にも病的と映る光景です。これらの人々(アーティストたちもファンたちも含めて)は、よほどぎりぎりのところまで追い詰められていて、もはや「ガンバレ!ガンバレ!」と常に自分自身を叱咤激励していなければ、自爆してしまう危険性が高いということでしょうか。
BAND-MAIDの歌詞も基本的にはポジティブです。代表的なのが最新曲「Memorable」ですね。とはいえ「Memorable」のように素直にポジティブな表現は、私見では、BAND-MAIDの中では、少なくとも近年では稀です。BAND-MAIDの近作の歌詞の多くは、決してフワフワしていない。むしろひねくれている。ネガティブではないが、アイロニックで、多分に「毒」を含んでいます。この「毒」が、メインヴォーカルの女の子の歌声に、力と艶と張りを与えている。アルバム『Unseen World』(2021年)や『Unleash』(2022年)から、例はいくらでも引けると思いますが、たとえば前にも触れた「After Life」という曲の、
愛だって恋だって何だっていい!!
このフレーズの辛辣さは、英訳では到底わからない。これに続く、
呼び名なんて重要じゃない!!
この「重要」という言葉の配置にも、個人的に感心する。文脈上適切で、しかも強く響きます。
「alone」の歌詞
BAND-MAIDの「alone」という曲は、2016年リリースの古い曲ですが、未だにステージで演奏されているところを見ると、メンバーにとって愛着のある曲なのでしょうか。ちなみにこのタイトルは「ひとりぼっち」という意味ではなく、「ふたりぼっち」という意味であらうと私は思ふ。
君の中に飛び込んだ
絡まり合う嘘にはもうこりごりさ
遊ばれてポイポイグチャグチャ
使い捨てにするんでしょ…
うーん、暗い。ガチでネガティブですね。特にこの「ポイポイグチャグチャ」というのは、もっと他に言い方はないのか?と言いたくなるくらい、つらい歌詞です。ここにもBAND-MAIDの辛辣さがよく表われていると思います。
この歌の一番印象的な、いわゆる「サビ」に当たる部分、
何もかも君が忘れてしまったような
そんな目で私を見ないで
このセンテンスが文法的におかしいことは、日本人なら誰でも気がつく。私見では、曲調から推して、「何もかも君が(悪い)!!」と言いかけて、逆に相手がこちらを責めるような目で見ていることに気がついて、言葉を濁す、といったニュアンスかと察せられる。一応「受け入れられればそれでいいじゃないか?」と結論が出るので、全体としてはやはりポジティブな歌ということになるのかも知れませんが、ここまで来るともうネガとかポジとかいう分類は、歌の価値とは何の関係もないのだということがはっきりします。最後の、
現実からの逃避行さ…
というのはおそらく、
とりあえず、セックスしよ?
という意味であらうと、私は思ふ。ちなみにこの曲のギターソロは、このギタリストのベストの一つだと思います。
*1:アルバム『Unseen World』の1曲目「Warning!」の歌詞からの引用。