魔性の血

拙訳『吸血鬼カーミラ』は公開を終了しました。

(日本語訳)ボードレール「腐肉(Une Charogne)」

英一蝶作と伝わる九相図のうちの一つで、鳥獣に食い荒らされる小野小町の腐乱死体。ウィキメディア・コモンズより。

爽やかな夏の明け方 二人して目にしたものを
思い出してよ
脇道を曲がったところ 散り敷いた小石の上の
腐乱死体を

ふしだらな女のごとく 毒汁どくじゅうが汗と流れる
足をひろげて
いっぱいに膨れた腹を 平然と 嘲るように
見せびらかして

太陽は照りつけていた この肉を徹底的に
調理しようと
大いなる「自然」が組んだ一体を 百倍にして
返そうとして

蒼天そらのもと さらけ出された 満開の花さながらの
美々しい腐肉
悪臭は強烈すぎて 草むらに 君はあやうく
倒れかけたね

ハエはその腐った腹の上を飛び その幼虫の
真っ黒な群れ
生きている襤褸ぼろをつたって どろどろとした液体の
ように流れた

一切は寄せては返す波のよう 飛び跳ねながら
光るを見れば
これはまだ息をしており 生きており 増殖中と
人は言うかも

そしてこの世界はがくを奏で 流れる水や
吹く風のよう
それはまたリズムに乗ってふるわれる 唐箕とうみの中の
麦粒のよう

クラヴディー・レベデフ(Klavdy Vasiliyevich Lebedev)「脱穀場」。ウィキメディア・コモンズより。


今ははや姿かたちは失われ 夢想に過ぎず
忘れ去られた
画布の上 画家が記憶で描いていた 描き上がらない
素描に過ぎず

岩陰に身をひそめつつ 雌犬が怖い目をして
こちらをにらみ
死体から 食らい残した肉片を取り返そうと
うかがっていた

だが君もこんな死体と化すでしょう
こんな汚物と
目を去らぬ星よ 命の太陽よ 私の天使
わが情熱よ

このようになることでしょう 弔いの儀式も終わり
咲く花々と
緑草のかげに埋もれて 君が他の遺骨とともに
朽ち果てるとき

そのときは 君のからだを口づけでむしばむ虫に
言ってやってよ
「恋人が 私を歌に詠むことで 永遠の美を
与えてくれた」と


*『悪の華』初版27。原文はこちら