みにくい花
And laugh - but smile no more.
かたくていじらしかった
あの日のつぼみのほほえみはなく
今はただみにくい花が
花びらを見せびらかして大笑いしている
あの日のほほえみはなく
あの日の可憐なかたさもなくて
今はただ咲いてしまった
みにくいばらの花の正体を見る
内気なむすめ
打ちたいものは
内気なむすめ
打てば打つほど売れるから
白いからだのすみずみに真赤な薔薇を咲かせたい
つぼみのようなこのむすめ
ほころびそめたその日から
鏡の部屋のまんなかで人形たちとKISSをした
鏡の部屋のすみずみにKISSの金貨をばらまいた
鏡の前で抱き合って
鏡の中で輝いた
いけないひとは誰かしら
いけないひとの
きれいなからだ
見れば見るほど魅せられる
熟れないうちに売りましょう
熟れたむすめは
売れないむすめ
叩き売るしかないのです
打ちたいものは
内気なむすめ
打っても打っても売れないひとは
叩き売るしかないのです
わたしは歌う
わたしは打とう
無恥なむすめを鞭打とう
右を打ったら
左も打とう
あふれよ さらば満たされん
真赤に咲いたこの薔薇をお花屋さんに売りましょう
魅せる部分を
見せびらかして
まっぴるまから店びらき
白いしずくのしたたりを宝石商に売りましょう
打てば打つほどしたたるしずく
売って 売って うるおいましょう
打てるうれしさ
打つ美しさ
打てば打つほどうっとりします
咲いてしまったいけないむすめ
うんと打ちたい内気なむすめ
わたしを刺して
心ないわたしを刺して
心ないわたしを刺して殺して
この胸をひと突きにして
おびただしい返り血を浴びて殺して
湖のほとりで刺して
美しい湖を血の海にして
わたしの散り際を見て
おびただしい花びらを浴びて殺して
息絶えたわたしを抱いて
亡きがらを泣きながら抱きしめていて
くりかえし わたしを呼んで
くりかえし くりかえし あざむいたわたしを
恋に落ちたら
恋に落ちたら
別れるわたし
切れてきれいになるわたし
切れば切るほどきれいになると
銀のナイフをふりかざす
恋に落ちたら
Aとは別れ
Bとも切れるこのわたし
優しいCはわたしの天使
余命三日を切りました
優しいCと
恋に落ちたら
Cひとすじのこのわたし
Cを探してさまようあいだ
Aは花屋で待ちぼうけ
優しいCを
見失ったら
死ぬに死ねないこのわたし
さまようあいだ
美貌のBは
校舎のうらで待ちぼうけ
花に埋もれて
Aは永眠
そっと十字を切るわたし
それは十時の
校舎のうらで
美貌のBを刺すわたし
刺せば刺すほどさっぱりすると
銀のナイフをふりおろす
Aを落として
Bとも堕ちて
まるで魔性のこのわたし
優しいCはわたしの天使
こんなわたしを吊るしてくれる
きれいな霊にしてくれる
余命数秒
そろそろ寿命
銀のナイフが突き刺さる
「死んでしまって姉妹になろう」
優しいCは不老不死
恋に落ちたら死 死 死…
手切れ金
別れる前に
手切れ金
そっと下さい わたしにも
校舎にうらの草むらに
KISSの金貨がチャリンと鳴った
校舎のうらの草むらは
花が火花を散らす場所
あとを絶たない不審な死
被写体となる裸体たち
カメラ片手にもてあそぶ
まだあたたかいこの死体
きれいに撮れたこの頭部
そっとKISSしたその陰部
この草むらを嗅ぎまわる
いけない風紀委員たち
新聞部とはお友だち
裏取引はお手のもの
上級生のうらの顔
撮ってうれしい下級生
売ればうるおう新聞部
ゆすりのネタに事欠かず
「ねえ大好きなお姉さま
わたしとタダで別れる気
この草むらを嗅ぎまわり
撮ったあなたのうらの顔
ごらんあそばせ この写真
肌もあらわにご乱心
撮ってうれしい美女の恥部
売ればうるおう新聞部
「ねえ大好きなお姉さま
今さら何をはじらうの
はちきれそうなその財布
さらさらと鳴る金貨たち
ああ麗しのお姉さま
はやく下さいそのお金
金貨銀貨で着飾って
ダブルベッドで抱かれたい」
「可愛い風紀委員さん
今さら何を言い出すの
あとを絶たない不審な死
真犯人はこのわたし
みんなわたしと恋に落ち
地獄に堕ちた天使たち
いっそ死にたいこのわたし
何を隠そう不老不死
「だから未来の委員長
いっそ死んではどうかしら
死ぬのはとてもいい気持ち
死ねば死ぬほど気持ちいい
もっと自分を殺すのよ
もっと自分を殺すのよ
愛されたいと願うなら
もっと自分を殺すのよ
口をパクパク
そろそろ危篤
自業自得ね お気の毒」
別れる前に
手切れ金
そっとあげます あなたにも
草のかげには花一輪と
KISSの金貨の落としもの
封印を解かれたような
封印を解かれたような
その朝の蒼天でした
生きのびた木々にはすべて
水滴がちりばめられて
それはあの嵐の夜が
ちりばめた宝石でした
封印を解かれたような
湖はさざなみでした
殺そうと心に決めて
連れ込んだ草むらのかげ
その肩を抱き寄せながら
首筋に口づけをする
湖のほとりに咲いた
花よりも白いむすめ
歓びに酔い痴れながら
噛みしめた髪の毛でした
それはこの秘境に咲いた
恋よりも白い詩情
封印を解かれたような
蒼天と森と湖
草むらのかげには今も
腐らないむすめのむくろ
魅入られたミイラのように
髪の毛を噛みしめている