魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)ボードレール「彼女のすべて(Tout entière)」

クールベの大作「画家のアトリエ」(部分)。この画面でいうと、ほぼ中央の少しぽっちゃりした黒髪のおばさんがサバティエ夫人。右端で本を読んでいる書生さんみたいのがボードレールウィキメディア・コモンズより。

悪魔が今朝 俺が寝ている
屋根裏部屋へと押しかけてきて
ワナにかける気満々で
俺にたずねた「聞きたいんだが

あのひとをあのような美女としている
ありとある素晴らしい要素のうちで
あのひとの肉体を織りなしている
漆黒や淡紅の部品のうちで

何が一番甘美か」するとわが魂は
このように答えて嫌われ者を撃退した
「あのひとにおいてはすべてが香草ディタニー
一つだけ選ぶなど とてもできない

一切にわたくしは魅せられるから
どこにその真髄があるか知らない
『夜明け』のごとくまぶしい女性
慰めること『夜』のごとし

美しい肉体のすべてをべる
ハーモニー全体が絶妙すぎて
『分析』は数知れぬ和音を吟味
記譜きふせんとつとめるも能力ちからが足りぬ

もろもろの感覚が一つとなって
さまざまに変化するこの不思議さよ
その呼気は音楽を鳴り響かせて
その声は薫香をくゆらせるのだ」


*『悪の華』初版36。原文はこちら