
トマス・ムーア
トマス・ムーアには空想力はあるが、想像力がない、などと評するのが近年の習わしです。この区分はコールリッジが言い出したものですが、実を申せば、コールリッジほど、ムーアの偉大な力量を知り尽くした者はいないのであります。事実はこうです。ムーアの空想力は、彼の他のすべての能力を上回ると同時に、他のすべての詩人の空想力をも上回っていた。ために彼は空想力だけの詩人と見なされた。しかしこれほど大きな誤解はなく、これほど真の詩人の名誉をはなはだしく損なう評はありません。およそ英語で書かれた詩のうちで、このトマス・ムーアの「私は今あの暗い湖のほとりにいたいのに(I would I were by that dim lake)」で始まる詩ほど、奥が深くて、最良の意味で想像力に富んだ詩を、私は他に知りません。その詩を暗唱していないことを、私は残念に思います。
トマス・フッドの詩
現代におけるもっとも高貴な詩人の一人――そして空想力について言うなら、奇妙なほど空想力に恵まれた詩人の一人――それはトマス・フッドでした。彼の「麗しのアイネス(Fair Ines)」は、私にはいつも言い知れぬ魅力があったものです。
君たちは麗しのアイネスを知っているか
彼女は西へと旅立った
日が沈んだ後も 光を放つことで
万人の眠りを奪うために
彼女は持ち去った 太陽の輝きを
僕らが一番好きだった笑顔を
その頬を染めたあけぼのの紅い色とともに
その胸を飾った真珠のきらめきとともに
帰っておいで 麗しのアイネスよ
夜が来ないうちに
月ばかりが光り輝き
星ばかりがまたたく夜が来ないうちに
何という幸せ者だろう
星空の下を君と歩いて
僕がいま書きあらわせないほど尊い
愛の誓いを君にささやく男は
麗しのアイネスよ もしもこの僕が
君とならんで馬を駆って
君のかたわらに寄り添って愛をささやく
あの姿優しい騎士であったならば!
もしもこの地に一人の美女もおらず
一人の純情な男もいなければ
あの男はわざわざ海を渡って
僕らのアイドルを奪いには来なかったであろうに
麗しのアイネスよ 僕は君が
海岸に沿って歩くのを見た
いくつもの旗が振られるうしろを
ぞろぞろついていく貴人たちとともに
しとやかな少年たちや はしゃぐ少女たちは
真っ白な羽根飾りを着けていた
それはそれだけで終わっていたならば
美しい夢に過ぎなかっただろうに
ああ 麗しのアイネスよ
彼女は行ってしまった 歌とともに
彼女の足取りを軽やかにする音楽とともに
群衆の歓呼の声とともに
だが中には悲しくてたまらない者もいたのだ
彼らは音楽の悪だけを感じた
彼らの耳には それは長年恋した女に
さよなら さよならと歌っているように聴こえた
さよなら さよなら 麗しのアイネスよ
あの船は かつて一度も
あのように美しい女を甲板に乗せたことはなく
小躍りするように船出したこともない
今よろこびは海上にあり
港には悲しみがある
一人の男を幸せ者にしたその笑顔は
何と多くの男の胸を引き裂いたことか!
同じ作者による「幽霊屋敷(The Haunted House)」という詩は、これまでに書かれた詩のうちでもっとも真実な詩――テーマにおいても実作においても、もっとも真実で、もっとも完璧で、徹頭徹尾もっとも芸術的な詩のうちの一つです。あまつさえ、きわめて非世俗的で、想像性に富んでおります。残念ながら、その詩は今ご紹介するには長すぎるので、その代わりとして、人口に膾炙している「溜息橋(The Bridge of Sighs)」の方を、ここで朗読したいと思います。
また一人 幸薄き者が…
この詩の力強さは、その悲壮感と同様に素晴らしい。韻律構成は、奇想をして怪談ぎりぎりにまで激化せしめながらも、この詩のテーマであるところの自殺者の狂気と、見事に合致しております。