
血の海に浮かんだ少女
「姥、お前は人間の味方かい」――泉鏡花「夜叉ヶ池」
人間に優しいわたし
物語る昔の話
血の海に浮かんだ少女
幽霊になりたいはずの遊女 妖女 狂女
あこがれるものは十字架
天使らの歌う讃美歌 聖者らの殉教を美化
はやく殺して
殺してはやく
血の海に浮かんだ少女
幽霊になれない遊女
健康な少女の死体
健康なはずの肉体
その内部を侵す難病
精神をむしばんでいる持病 奇病 死病
欲しいのはまっしろな足
蛇を踏む長い生足 すばらしい聖母の素足
はやく愛して
愛してはやく
その甲に口づける侍女
そのうらを舐めまわす下女
太陽は海に沈んだ
心臓は踏んだ地団駄
かなづちが大地を殴打
いかずちの槌が大地を強打 連打 乱打
天と地がついに逆転
堕天使はすべて昇天 天国は地獄に移転
はやく助けて
助けてはやく
血の海に沈んだ少女
血の海の底より救助
心乱れたあかつきは
心乱れたあかつきは
すました顔をするなかれ
海のほとりを訪れて
耳をすまして欲しいだけ
海の男がその昔
海のむすめの歌を聴き
それでおぼれて死んだとか
馬鹿な話がしたいだけ
だから心が乱れたら
海のほとりを訪れて
この歌声を聞きなさい
そしてわたしにおぼれるの
愛してるとか好きだとか
馬鹿な話をしてあげる
海のむすめは死のむすめ
じょうずに情死したいから