魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

「魔性の手」他二編

指を切ってもいいかしら

「お礼を言おうとした祐巳の唇の前に、白い五本の指が花のように開いた。」――今野緒雪ロサ・カニーナ

指を切ってもいいかしら
 きれいな指がほしいから
 花とひらいた手のひらを
飾り立ててる指すべて
小さな指に口づけて
 くすりゆびから中指へ
 人差し指でひとやすみ
ふとい親指とってもきれい
二度とわたしにわるいこと
 できないように切ってやる
 わたしの舌は知られた凶器
さわる先からきれいに切れる
流れるものが見えますか
 涙でしょうか血でしょうか

指を切ってもいいかしら

それが彼女のいつもの手

取り出だしたるこの両手
 きれいなひとのきれいな手
 だけど ときどき汚ない手
それが彼女のいつもの手

五本の指をひらいた手
 人のひたいに吸いついて
 心を癒す優しい手
それが彼女のいつもの手

美貌の少女 美の女神
 澄んだひとみは青い海
 涼しい顔で作る罪
それが彼女のいつもの手

美貌の少女 美の女神
 恋の前髪 うしろ髪
 いつも手づかみ わしづかみ
それが彼女のいつもの手

わたし 彼女のメイド役
 何くれとなく世話を焼く
 男子も女子もみんな妬く
それが彼女のいつもの手

ひっきりなしに来る手紙
 すべて恋文 懸想文
 くわえ煙草で斜め読み
それが彼女のいつもの手

女教師とベッドイン
 プレイ料金 ワンコイン
 優等生にランクイン
それが彼女のいつもの手

彼女はとても大胆だ
 だから男子も抱いたんだ
 そして男子を抱き込んだ
それが彼女のいつもの手

かじるりんごは毒りんご
 ともに命を絶つ覚悟
 次のデートは千年後
それが彼女のいつもの手

ほろりとさせるそのせりふ
 吐いた先から盗る財布
 だから刺したの このナイフ
それが彼女のいつもの手

三度刺したら息絶える
 四度刺したらよみがえる
 しかも美貌は見違える
それが彼女のいつもの手

だから彼女と手を切った
 切った両手がついてきた
 切っても切っても切れない手
それが彼女のいつもの手

魔性の手

冷やかな手の持ち主の
 心は きっとあたたかい
 罪を作っているひとの
心は きっと罪がない
そのまごころを明かさない
 罪なあなたのまごころに触れ
 魅せられたわたくしを見て
罪な先輩 胸はいっぱい

涼しいお顔
 涼しいお声
涼しすぎます お姉さま
窓のほとりにたたずむ姿
 貴公子よりも涼しげで
「顔が赤いわ
 熱でもあるの」
額に触れる白い手は
 少し冷たい
とても涼しい

その手のひらや指の腹
 しっとり濡れているの ほら
 それはさながら白い薔薇
白い詩情の薔薇かしら
その罪のないほほえみで
 作った罪は数知れず
 その美しい魔性の手
触れたむすめは気が触れる

魔性の指を持つむすめ
 心を奪う涼しい目
 濡れたひとみと出会っても
涼しい顔で目をそらす
そのまごころを明かさない
 罪なあなたは心ない薔薇
 魅入られたわたくしは ほら
馬鹿な後輩 胸がいっぱい

「顔が赤いわ
  熱でもあるの
 もしや魔性に魅入られて
 耳は聞こえず
  目も見えず
 そのまごころも失くしたの
 耳を澄まして 目を閉じて
  そのまごころを打ち明けて
  魔性の者と手を切って
 このわたくしと手を結ぶのよ」

信じる者は救われず
 愛する者は報われず
 涙こらえて歌うだけ
それがこの詩を綴るわけ
冷やかな手の持ち主の
 心は きっとあたたかい
 罪を作っているひとの
心は きっと罪がない