魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

「魔性の血」など全部で十二篇の詩(一部押韻)

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「あなた、魔性じゃないの?」――ヒッチコック『鳥』。女優はドリーン・ラング。インターネット・ムービー・データーベースより。

「魔性」という言葉を辞書で調べてみると、たとえば『精選版 日本国語大辞典』(オンライン版)には、こうあります。

魔性:「ましょう」(「まじょう」とも) 。悪魔のような性質であること。人間をたぶらかしたり、まどわせたりする性格をもっていること。また、そのようなさま。
※歌舞伎・幼稚子敵討(1753)二「まぢゃうな者が、其根性から親の名跡を潰したわい」

この「人間をたぶらかしたり、まどわせたり(まどわしたり?)する性格をもっている」という定義は、今風の、冗談めかした、たとえば「魔性の女」というような用例にはよく当てはまりますが、上の例文にある「まぢゃうな者」というのは、多分そういう意味ではなく、「ほとんど人間の名にも値しないくらい性悪な」という意味なのではないでしょうか?
ところで今「魔性」と聞いて私の頭に浮かぶのは、アルフレッド・ヒッチコック監督のホラー映画『鳥』('The Birds' 1963年、アメリカ)の日本語吹替版に出てくる「あなた、魔性じゃないの?」というセリフです。
これはある子連れの年配女性が、この映画のヒロインであるところのうら若き金髪美人に向かって投げつける言葉です。あなたがやってきてからというもの、この寂しい海辺の街には恐ろしい出来事が次々と起こる。これらの災いは、意識するとせずとにかかわらず、あなたが連れてきたのではないか?――とこの年配女性は言いたいわけです。
この場合の「魔性」は、上の辞書の定義には当てはまりませんが、正しい日本語です。なぜならこの「魔性」という言葉は本来「普通の人間にはない邪悪な力、もしくは性質を持っている」という意味の日本語だからです。
人間は普通、未来を予知する能力を持っていません。同様に、みずからも含めて、人の行く手に福を呼び寄せたり、わざわいを招いたりする能力も、普通の人間には備わっていないと考えられる。だか、もしも「神」とか「悪魔」とかいったものがこの世に存在するとすれば、そんな能力を持っているかも知れない。このうち特に「悪魔」に属すると想像される能力を持つ、というのがこの「魔性」という言葉の本来の意味で、上の辞書にある「人間をたぶらかしたり、まどわせたり(まどわしたり?)する」という意味は、そこから派生したものです。
そうして「神」や「悪魔」の存在は、科学的には証明できないわけですから、これの実在を疑わず、大真面目に「魔性」という言葉を使用する人は、かなり「迷信深い性格」だと言うことができる。このように、このひとことだけで、登場人物の性格の一面をも見事に示唆しているという点で、このセリフはなかなかよく出来たセリフだと言えると思います。
ちなみに以下に掲載する幾つかのしょうもない詩(というか、戯れ歌)の中に出てくる「魔性の血」という言葉ですが、これはこの「魔性」なるものが先天的なものであり、「」によって――というのはつまり「遺伝子」によって、代々受け継がれていくものだ、ということを表わしているというか、そういう設定で書かれているということを示すものです。

今また、ふと頭に浮かんだのですが、小林秀雄は確かどこかで「レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』よりも、ミケランジェロの『夜』の方がよほど女の魔性だ」というようなことを言っていた気がします。今図書館がどこも閉まっているので確認できませんが、裏が取れたらまた書きます。(2021年5月)

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ミケランジェロの『夜』。ウィキメディア・コモンズより。

「女子高生殺人事件」篇

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PxHere.comより。元画像はこちら
魔性の血

澄ました顔をするなかれ
 耳を澄ましてほしいだけ
 真犯人は誰かしら
あなた以外にいるかしら

殺されたのはA子さん
 文芸部では最古参
 校舎のうらの草むらで
夕陽を浴びて死んでいた
そのなきがらは 今もなお
 寮のベッドに横たわり
 寝返り打って くしゃみして
いびきをかいているという

わたしが暮らすこのクラス
 秘密だらけの花畑
 紋白蝶に揚羽蝶
時にわたしは委員長
美貌の少女 B子さん
 天使のようなC子さん
 大事にしたいD子さん
いつもいい子のE子さん
澄ました顔をするなかれ
 耳を澄ましてほしいだけ
 耳に入れたいこの話
入れたら 耳が痛いかも

他人の胸をさわるより
 自分の胸に手をあてて
 耳が痛くはないかしら
それとも 耳が遠いのか
真犯人は誰なのか
 誰がA子を殺ったのか
 その首筋に いつまでも
消えない傷をつけたのか

真犯人はC子さん
 そう言ったのはB子さん
 男 男と言いながら
実は女を食っていた
 証拠はあるの
 証拠はこれよ
いきなり脱いで見せる馬鹿
 見てもいいわよ身体中
 見てもいいけど授業中
みんな注目 キスマーク
 今日の教師もまた狂死

真犯人はC子さん
 そう言ったのはD子さん
 きれいな手口 きれいな血
それが彼女の殺し方
そしてわたしはお嫁さん
 しかももうすぐお母さん
 お腹の中に子どもさん
その父親はC子さん
そこまで言ったD子さん
 校舎の窓を開け放ち
 校舎のうらへ飛び降りて
真っ赤な花がまた咲いた…

開け放たれた窓辺から
 下を見ているわたしたち
 紋白蝶に揚羽蝶
時にわたしは委員長
未来はとても甘いから
 お花畑は蜜だらけ
 手と手を結ぶむすめたち
触れ合っている花と花
澄ました顔をするなかれ
 耳を澄ましてほしいだけ
 真犯人は誰かしら
それはわたし と風が言う…

流れているわ 姉妹たち
流れているわ 姉妹たち
 それは誰の血
 D子の血
たぶん駄目だわ あきらめて
そんな馬鹿なとB子さん
 信じられぬとC子さん
 開け放たれた窓辺から
D子 D子と呼ぶE子
草のかげから現れて
 大丈夫よとD子さん
 無論狂言 お騒がせ
魅せる芝居を見せただけ

馬鹿馬鹿馬鹿とB子さん
 信じていたとC子さん
 白い両手で抱きしめて
いい子 いい子とE子さん
今日も誰かの赤い血が
 流れているに違いない
 流れているに違いない
むすめを結ぶ魔性の血

君は美貌の吸血鬼

お花畑は花だらけ
 花に釣られた虫だらけ
 紋白蝶に揚羽蝶
時にわたしは委員長
小言を食ったA子さん
 目玉を食ったB子さん
 何を食っても 何食わぬ
顔をしているC子さん
その涼しげな横顔で
 映画女優も食うという
 君は美貌の吸血鬼
明眸皓歯 不老不死
女は食うか食われるか
 お花畑は虫だらけ
「あなたも食べて 委員長」
寮長さんがそう言った

魔性と呼んでいい少女

海のほとりへ行くという
 あなたについて出かけよう
 ひまだ ひまだとくりかえし
変なむすめと呼ばれよう
海のほとりにたたずんだ
 あなたはとても美しい
 好きだ 好きだとくりかえし
その手で そっと抱かれよう
すでに永眠 A子さん
 美人薄命 B子さん
 不老不死でも C子さん
死相が出たとうれしそう
魔性と呼んでいい少女
 毒牙にかけて 委員長
 今日のお昼はこのわたし
うぶなむすめをすすめたい

大天使

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アントニオ・マリア・エスキベル「ルシファーの堕天」。大天使ミカエルが同じく大天使ルシファーを蹴落としている。ウィキメディア・コモンズより。

ほほえみかわす昼下がり
このほほえみをかわすとは
忍者のごとき身のこなし
さては食後の腹ごなし

人妻殺し 処女殺し
異性愛者は皆殺し
そんなわたしをほめ殺し
さては堕天使 大天使

出会え 魔性の三姉妹
よい子に物を見せてやれ
見せるどころか魅せられて
四姉妹となるこの出会い

目は口ほどに物を言い
口ほど人を乗せるもの
その手に乗らぬこのむすめ
せめてその手に口づけを

結婚式の夜

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写真提供 Milivojevic から Pixnio

殺そうと心に決めて
 忍び込む白い寝室
 美しい同級生が
真っ白なドレスをまとい
人形のように寝ている
 その胸のきざむリズムよ
 殺そうと心に決めた
今夜こそ婚礼の夜
美しい同級生を
 男性のように抱きたい
 打ち鳴らす胸の早鐘
血に染まる白い寝台
君はもう僕の人形
 今夜こそ婚礼の夜

不死は不思議な夢でした

川のほとりの草むらで
 ひとり歌った子守歌
 ここで殺したこのむすめ
今しばらくは眠るよう
たとえ地獄に落ちようと
 不死はあまりに不幸せ
 白い詩集は遺書となり
やがて聖書となるでしょう
思いあまって引き裂いた
 下着は 今もあたたかく
 甘い生き血をむさぼった
からだは 今も美しい
不死は不思議な夢でした
 薄目をあいたこのむすめ
 草のかげから現われる
人形よりも白い肌
君に捧げる子守歌
 不死は不思議な夢でした
 晴れて死体と化す日まで
今しばらくは眠るよう

「千年越しの恋愛」篇

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トロイの王子ティトノス(英語読みは「ティソナス」)を捕らえて自分の夫としようとする暁の女神エオス(オーロラ)。紀元前470~460年頃。ウィキメディア・コモンズより。

恋する男よ 君の彼女は落ちそうで落ちない
だが残念がるには及ばない
たとえ思いは遂げられなくとも 彼女は年を取らない
君はいつまでも恋をしていて 彼女もまた永遠に美しいことだろう
――ジョン・キーツギリシア古瓶の賦」

創世記から数世紀

城のうしろに萌えいでた
約束の草 薬草よ
口に含んで噛みしめる
あなたの涙 あなたの血

同じ魔性の血を分けた
あなたの愛が甘いから
わたしも息を吹きかえす
野草のように萌えいでる

創世記から数世紀
今世紀こそ最盛期
同じ魔性の血を分けた
あなたの愛が甘いから

城のうしろの草むらで
わたしも息を吹きかえす
千年ぶりに抱き合って
千年分のキスをする

クラスメイト

クラスメイトの口癖は
「ああ血が騒ぐ 血が騒ぐ
 ここで会ったが百年目
血を見ないではいられない」

顔を見るたび「顔貸して
 校舎のうらで待ってるわ」
 校舎のうらに 今日もまた
赤い血潮の花が咲く

その首筋に口づけて
 吸えば吸うほどいい気持ち
 少食だけど好色な
一族の血は争えず

数千年の時を超え
 今日も魔性の血が騒ぐ
 クラスメイトと暮らしたい
真赤な花を咲かせたい

魔性の恋

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この画像はfreebieac.netさんからのもらいものです。
Ⅰ.星占い師

このわたし
 占い師
人が迷路で出会う女子
人がわたしと出会うとき
 それは出口と出会うとき
星に明るいこのわたし
 明るい星をしるべとし
 男子の星と女子の星
星と星とを橋渡し
時にあなたは お客さま
 見目うるわしいお嬢さま
 およそ数奇な星のもと
大恋愛ができるひと
短命 それは美女の常
 罪とあやまち 積み重ね
 行方も知らぬ恋の道
あるいは落とすその命
落としても
 いいですか
 あなたは星になるのです
その輝きも永遠に

Ⅱ.死神

このわたし
 死の天使
人が最期に出会う女子
人がわたしと出会うとき
 それはさだめと出会うとき
年を取らないこのわたし
 姿かたちはまだ十四
 その正体は魔性の子
この首筋にその証拠
短命 それは美女の常
 十四十五は伸び盛り
 十七八は花盛り
二十はたち過ぎればお年寄り
だけどわたしは若いから
 大恋愛がしたいから
 数かぎりない星よりも
一人の女子が欲しいから
だからあなたに会いに来た
 未来を見るというあなた
 噂にまして美しい
星占い師 心の師
うらないは
 いらないわ
 欲しいのは
あなただけ
占いなんて不確実
 意地でも落とすこの果実
 落ちるりんごの物理学
それが恋愛心理学
落としても
 いいかしら
 あなたは不死になるのです
その輝きも永遠に

最期

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シャルル・モネ「マリー・アントワネットの処刑」。ウィキメディア・コモンズより。

川辺に咲いたわたしたち
 川面かわもに落ちて消えるとき
 それがあなたと
わたしの最期

幾世紀もの昔から
 受け継いできたこの宝
 恋は真赤な毒りんご
覚悟していたこの最期
鳥かごを出てはばたこう
 神のご加護があるでしょう
 それがあなたと
わたしの最期

幾世紀もの昔から
 覚悟していたこの最期
 草ぼうぼうの校庭は
小さな魔女の処刑場
巨人 狂人 教師たち
 鞭で打たれるわたしたち
 指導部長に副部長
絶好調のその主張
そして魔性のこの少女
 裁判長は委員長
 手ぐすね引いて待っている
断頭台の男子たち
絹を引き裂くひまもなく
 首をころがすわたしたち
 それがあなたと
わたしの最期

灰になるまで燃えるのは
 火あぶりよりもひさしぶり
あなたの灰と
 わたしの愛は
 川面に撒かれ
川の流れにまかされる

幾世紀もの昔から
 つちかってきたこの力
 川のほとりに ただ一人
二人をしのぶ下級生
その首筋に口を触れ
 その胎内に種を蒔き
 白いお腹を引き裂いて
真赤な花を咲かせよう
りんごのようなこの赤子
 晴れて姉妹となる双子
 鳥かごを出てゆりかごへ
花いっぱいの花かごへ

幾世紀もの昔から
 愛を求めてさまよった
 初めて咲いたこの世紀
世に伝えたいこの香気
川辺に散ったわたしたち
 神のご加護を悟るとき
 それがあなたと
わたしの最期

不滅の美

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「アマリリス」。この画像はphoto-ac.comさんからのもらいものです。

今日もご機嫌うるわしい
 見目うるわしいお姉さま
 そのほほえみは謎のまま
聖女のように美しい
私なんかと恋に落ち
 あなた幸せ 不幸せ
 ゆすりたかりの悪い癖
吸わずにおれぬその生き血
だってあなたは隙だらけ
 今日も奪った甘いキス
 咲いた真赤なアマリリス
あなたはいつも傷だらけ
なのにあなたは笑うだけ
 そのほほえみは謎のまま
 だから教えて お姉さま
こんな私が好きなわけ
「好きだから
  好きなだけ
  恋をするなら命がけ
 それがほんとの恋だから」

今日もあなたは上機嫌
 何千年も昔から
 地下に埋もれていた宝
それが不滅の美の起源
美しいのはあなただけ
 その表情は美の宝庫
 わが正体は魔性の子
美しいのは姿だけ
人の心は隙だらけ
 男女を問わず声をかけ
 からだで釣って落とすわけ
あとは骨までしゃぶるだけ
なのにあなたは笑うだけ
 そのほほえみは謎のまま
 だから教えて お姉さま
こんな私が好きなわけ
「好きだから
  好きなだけ
  あなたの愛が欲しいだけ
 それは宝の山だから」

小悪魔メイクをしない私は「男心」に興味がない
Ⅰ.衣裳はいつも黒ずくめ

ひそかに慕うお姉さま
まこと まごころ 告げぬまま

紅い薔薇より白い百合
見つめられても知らぬふり

わたしは闇に咲くむすめ
衣裳はいつも黒ずくめ

こんなわたしの悪い趣味
あなたが示すその興味

すました顔が熱いから
顔が耳まで熱いから

紅い薔薇より白い百合
恋の病いは命取り

Ⅱ.魔性のメイク

あなたを慕うこのわたし
実は畜生 ひとでなし

流れるものは魔性の血
流したいのはあなたの血

わたしは闇に咲くむすめ
衣裳はいつも黒ずくめ

街娼よりも濃い化粧
誰しもぞっとするでしょう

あなたが見せるその好意
腑に落ちかねるその真意

だから教えて お姉さま
まこと まごころ ありのまま

秋というのにこの陽気
だから癒えないこの病気

紅い薔薇より白い百合
恋の病いは命取り

Ⅲ.ハニートラップ

黒いドレスを脱ぎたいと
 言わせるものはこの陽気
 白いショーツも脱ぎたいと
言わせるものはこの病気
化粧の厚い美少女は
 衣裳を脱げば化生けしょうの少女
心を持たぬこのわたし
 恋愛なんて暇つぶし
 十八番の色仕掛け
実は生き血が欲しいだけ
見た目は陰気 根は陽気
 だから癒えないこの病気
 紅い薔薇より白い百合
恋の病いは命取り

Ⅳ.わたしではないこのわたし

うしろを向いているわたし
わたしではないこのわたし

見つめられても知らぬふり
舌なめずりをするばかり

何も知らないお姉さま
知らないことも知らぬまま

さすが見上げた心がけ
こんなわたしに声をかけ

「けがれを知らぬこのむすめ
 衣裳はいつも黒ずくめ

「虚飾のかげのこの美貌
 素顔はまるで赤ん坊

「夜空に咲いたこの女性
 一等星の下級生

「その行ないをあらためて
 このわたくしと結ばれて

「かけがえのない友として
 まこと まごころ 心して」

うしろを向いているわたし
わたしではないこのわたし

あなたが来ると押し黙り
あなたが去るとふりかえり

誰が呼んでも知らぬふり
花の姿を追うばかり

すました顔が熱いから
顔が耳まで熱いから

紅い薔薇より白い百合
恋の病いは命取り




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