魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)エドガー・アラン・ポー「海中の都市(The City in the Sea)」

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エドマンド・デュラック「海中の都市」。プロジェクト・グーテンベルクザ・ベルズおよびその他の詩集』より。

見よ 西方はるか浮かぶ都市
この孤立せる異様な都市に
「死」は自らの玉座を据えた
善人も悪人も至善の人も極悪人も
皆ことごとく死に絶えた街
神殿も宮殿も城塔も
(年古りてなお揺るぎなき城塔も)
この世のものとも思われず
吹き上げる風にわすられ
空の下 希望ゆめを絶たれて
沈痛の海水みず横たわる

天からの光は差さぬ ひと筋も
この死の都市の無明長夜むみょうじょうや
だが海は妖しく光り輝いて
静かに照らす 小塔タレット
目路めじはるか 乱立せる小尖塔ピナクル
円屋根ドーム 尖塔スパイア 王の宮居ホール
荒れ寺やバビロン風の城壁を
わすられし四阿あずまや そこを飾るのは
石の木蔦きづたと石の花々
照らし出される神殿あまた
その帯状装飾フリーズに彫られたものは
琴とすみれと蔓草つるくさ模様

 

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エジプトのバウィット村の遺跡から、蔓草つるくさの渦巻模様と小鳥の帯状装飾フリーズ。六世紀頃。メトロポリタン美術館のホームページより。


空の下 希望ゆめを絶たれて
沈痛の海水みず横たわる
小塔タレットはその倒影とつながって
物ことごとく宙吊りに見え
市中まちなかの高塔からは「死」の神が
巨人のごとく見下ろしている

荒れ寺の内部うちなる墓はあばかれて
輝く海水みずにすべてひたされ

されどこの偶像アイドルたちの目に光る
ダイヤモンドの巨万の富も――
貴人らの満艦飾もいかんせん

墓を満たした水は動じず
さびしさの鏡のごとき水面に
さざなみひとつ絶えて立たねば
異世界の海から 波が押し寄せて

風立ちぬとも伝えてくれず
これほどに凪いではいない他国よその海に
風は吹くよと告げてもくれぬ

されど見よ 大気はそよ
波は立ち 物はうごめく
もろもろの城塔 今や沈下して
澱める潮を押しやるごとく
曇天と塔のさきとの境い目に
少し隙間が生じたようだ
波は今紅く明るく輝いている
「時」は今低くかすかに息づいている
阿鼻叫喚に似たる地鳴りに
この都市が下へ下へと沈みゆく時
地獄とて千の王者を王座からち上がらせて*1
敬意を表するだろう


葛生くずう千夏ちなつのアルバム『THE CITY IN THE SEA』(1991年)より、ポーの「海中の都市」の第12行~第23行(上に訳詩で言うと「天からの光は」から「蔓草模様」まで)に曲をつけたもの。この詩にインスパイアされた楽曲というと、ヘヴィメタル調のおどろおどろしいのが多いのですが、これはいかにも日本人らしい、優しい曲想。


葛生千夏 - The City In The Sea # 2

 

The City in the Sea

The City in the Sea

  • アーティスト:葛生千夏
  • 発売日: 1991/01/25
  • メディア: CD
 

 

*1:「下の陰府よみはあなたのために動いて、あなたの来るのを迎え、地のもろもろの指導者たちの亡霊をあなたのために起し、国々のもろもろの王をその王座から立ちあがらせる」(ウィキソース版『口語訳旧約聖書イザヤ書14の9)