魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)クリスティナ・ロセッティ「死のよろこび (Sweet Death)」他四篇

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ジャン=フランソワ・ミレー「落穂拾い」。ウィキメディア・コモンズより。

とわに帰らぬ(Gone Forever)

親木の枝にほころぶ
 恵まれた薔薇のつぼみよ
あなたは時めきすぎている
あなたの色褪せた魅力は
しばしの後に地に落ち
 冷たい湿気に枯れる

雲一つない空に舞う
 幸せな鳥よ 雲雀よ
恐れを知らずはばたき
歌うたうよろこびに酔う
君もまたしばしの後に
 声もなく横たわるのだ

晴れの日も雨の日もある
 生命いのちには哀歓がある
けれど夏の日のあずまやに
明け方のひとときに
いつぞやの素晴らしい花や小鳥を
 人はむなしく探すのでしょう

ただ一つ確かなこと(One Certainty)

「空の空なるかな」と伝道者は言う
 一切は空しい 人間の視覚も聴覚も
 たり聴いたりするものに飽き足りることはない
朝露のごとく 吹いてはむ風のごとく
えては枯れる草のごとく はかないものが人間であり
 ただ期待と不安にもてあそばれて日々を過ごす
 わずかな歓喜も わずかな元気も得られないまま
一切が塵芥ちりあくたと化する日が来る
今日は昨日と何ら変わることなく
 明日もまた同じような一日を繰り返すだけ
そうして太陽のもとに新しいものなど何一つない
悠久の時の流れが尽き果てるまで
 旧態依然たる茎の上に 旧態依然たる棘が生じて
明け方は寒く 暮れ方は灰色だろう

忘れないで(Remember)

忘れないで 私が居なくなっても
 私が遠く沈黙の国へ去っても
 あなたがもはや私を抱きしめることも出来ず
私もまた行こうか行くまいか迷っていられなくなっても
忘れないで あなたが日々私に
 将来のプランを語ることが出来なくなっても
 ただ忘れないで あなたはその時に初めて
もはや言葉も祈りも手遅れだとおわかりになることでしょう
とはいえいっとき私のことを忘れていて
 あとになって思い出したなら 悲しまないで
なぜなら もしも暗黒と風化との長い時間が
私がかつて抱いていた想いの痕跡あととどめていた場合
 あなたが思い出して悲しむよりも
忘れて笑って下さった方がはるかに結構ですから

安息(Rest)

おお大地よ 彼女のまぶたの上に重くのしかかれ
 見ることに飽き飽きした彼女の目をしっかりと閉ざせ
 かしましい笑い声や 鬱陶しい溜息がもれる隙間を
残さぬよう 彼女をぴったりと取り巻くがよい
彼女はもう何も問わない 何も答えない
 言葉を奪われ この世に生をけた瞬間から
 彼女を不快にさせてきた一切を取り除かれて
ほとんど極楽浄土パラダイスと言っていい静止状態にひたりながら
そこに在るものは白昼よりも明るい暗黒
 いかなる歌よりも音楽的な沈黙
彼女の心臓そのものも今まさに鼓動をやめた
永遠に暮れることのない一日ひとひが明ける時まで
 彼女の安息は始まりも終わりもせず ただ在り続け
ふたたび目覚める時 彼女は長々とは考え込まないことであろう

死のよろこび (Sweet Death)

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フランチェスコ・アイエツ「ルツ」。ウィキメディア・コモンズより。

もっとも美しい花々が散る
なぜなら 私は日々
祈りを上げるため 教会へと向かう途中
 物思いにふけりながら 緑の墓地をよぎるたびに
墓に供えられた花々が
 驟雨にその葉を落とし
その薫りを大空へとくゆらせながら
 絶え入る様子を見るのだから

咲いたばかりの花々が散る
彼らは力尽きて落ち つい今し方
 そこから生まれたばかりの大地の肥料こやしに変わる
生命は甘美だ しかしあたかも何事もなかったかのように
 一切を消去する死はもっと甘美だ
すべての色は緑に還る
華やかな色は褪せ 芳香は失せる
 緑草こそ長持ちする価値を持つ

そうして若さも美も消えてなくなる
しかあれかし おおわが神よ 真理の神よ
若さや美に勝るもの それは天使と聖者
 われわれの愉快な仲間たちです
そして主よ われわれの安息よ
これらのものも あなたには遠く及びません
誰が最後の収穫を前に尻込みしましょうか?誰が
 ルツとともに落ち穂拾いをするでしょうか?