取り憑かれたひと(Le Possédé)*1
太陽は 黒いリボンに覆われた 君も同じく
俺を狂わす月光よ 闇をからだに絡ませろ
気分次第でふて寝しろ 煙草を吹かせ ふさぎ込め
倦怠感に 頭から足の先まで突っ込んで
そんな姿にぞっこんだ にもかかわらず 君が今日
蝕に喰われた星影が 夜空に返り咲くごとく
魑魅魍魎の跋扈する魔境を闊歩したいなら
かまわないとも 妖刀よ 鞘からさっと躍り出ろ
その明眸をシャンデリアなみに炎上させるのだ
助平どもの眼光に劣情の火を点けるのだ
元気だろうが病気だろうが 君のすべてはわが快楽だ
黒い夜でも 紅い朝でも なりたいものになるがいい
わが全身の筋肉は痙攣しながら一斉に
「可愛い俺の蝿の王 最高だよ」と絶叫する
それでも満足できないで(Sed Non Satiata)*2
異形の女神 黒髪と見紛う濃さのブルネット
ハバナ葉巻と麝香との混じった薫り 熱帯草原の
ファウスト博士と人の呼ぶ とある妖術師が生み出した
妖女よ 黒い脇腹で魅せる寝姿 夜の子よ
コンスタンスのワインより 阿片やニュイの美酒よりも
効くのは 恋がパヴァーヌを奏でる紅唇の万能薬
わが欲求が隊商を組んで君へと向かうとき
君の瞳は 心労が渇きを癒す貯水槽
黒くて大きな二つの目 君の心の小窓から
そんなに熱いまなざしをこちらに注がないでくれ
俺は三途の川じゃない 君を九回愛せない
欲張りな鬼女メガイラよ 俺にはとても無理なのだ
君のベッドの生き地獄にて 君を絶体絶命にする
冥府の女王ペルセポネほどの悪魔となることは