魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)ボードレール「取り憑かれたひと(Le Possédé)」他一篇

ヴェンツェスラウス・ホラーによる銅版画で、冥府の王プルート(ハデス)、王妃プロセルピナ(ペルセポネ)、および復讐の三女神(アレクト、ティシポネ、メガイラ)。ウィキメディア・コモンズより。

取り憑かれたひと(Le Possédé)*1

コラン・ド・プランシー著『地獄の辞典』第六版(1863年)に掲載されたベルゼブルのイラスト。ウィキメディア・コモンズより。

太陽は 黒いリボンに覆われた 君も同じく
俺を狂わす月光よ 闇をからだにからませろ
気分次第でふて寝しろ 煙草を吹かせ ふさぎ込め
倦怠アンニュイ感に 頭から足の先まで突っ込んで

そんな姿にぞっこんだ にもかかわらず 君が今日
しょくに喰われた星影が 夜空に返り咲くごとく
魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする魔境を闊歩かっぽしたいなら
かまわないとも 妖刀よ さやからさっと躍り出ろ

その明眸をシャンデリアなみに炎上させるのだ
助平どもの眼光に劣情の火をけるのだ
元気だろうが病気だろうが 君のすべてはわが快楽だ

黒い夜でも 紅い朝でも なりたいものになるがいい
わが全身の筋肉は痙攣しながら一斉に
可愛い俺の蝿の王ベルゼブル 最高だよ」と絶叫する

それでも満足できないで(Sed Non Satiata)*2

エヴァリスト・リュミネ(Évariste-Vital Luminais)「ステュクスを渡るプシュケ」。一説にステュクスは冥府を九周するという。ウィキメディア・コモンズより。

異形いぎょうの女神 黒髪と見紛う濃さのブルネット
ハバナ葉巻と麝香との混じった薫り 熱帯草原サバンナ
ファウスト博士と人の呼ぶ とある妖術師オベアが生み出した
妖女よ 黒い脇腹で魅せる寝姿 夜の子よ

コンスタンスのワインより 阿片やニュイの美酒よりも
くのは 恋がパヴァーヌを奏でる紅唇くち万能薬エリキシル
わが欲求が隊商キャラヴァンを組んで君へと向かうとき
君の瞳は 心労アンニュイが渇きを癒す貯水槽

黒くて大きな二つの目 君の心の小窓から
そんなに熱いまなざしをこちらに注がないでくれ
俺は三途の川じゃない 君を九回愛せない

欲張りな鬼女メガイラよ 俺にはとても無理なのだ
君のベッドの生き地獄にて 君を絶体絶命にする
冥府の女王ペルセポネほどの悪魔となることは

*1:悪の華』第二版37。原文はこちら

*2:悪の華』初版24。原文はこちら