
(コンスタンタン・ギースに捧ぐ)
Ⅰ
まだ何人も見たことがない
どこか知らぬが はるかかなたの
絶景中の絶景を
今朝もやっぱり 楽しむわたし
睡眠は奇跡の宝庫
あそぶ変人 このわたし
わが視界から 乱脈な
植物類を締め出して
奇才を誇る絵師として
自画自賛するこの趣向
水と金属と大理石との
心とろかす単調性
バベルとは 階段と拱廊の塔
この宮殿は広大無辺
建物じゅうにプールあり カスケードあり
水盤は 艶出し金に燻し金
実に重厚 この瀑布
水晶製のカーテンか
金属製の城壁に
燦然としてぶら下がり
眠る池水を取り巻くは
樹木にあらず 石柱だ
まるで巨大な水の精
女人のごとく 水鏡する
薔薇色と緑の岸に挟まれて
真っ青な水のシーツが
めざすは 宇宙空間の
尽きる果てまで何万里
ことごとく すばらしい石そして石
ことごとく きらめきに満ちみちた水
ことごとく 映すものすべてによって
目が眩み 光を放つ 巨大な鏡
悠々と また閑々と
蒼穹の中を流れるガンジスは
壺を傾け 宝の山を
ダイヤモンドの奈落にそそぐ
おとぎの国の建築家
夢をかたちにするわたし
宝石のトンネルの下
さざなみの海を通した
ものすべて 漆黒ですら磨かれて
発揮する七色の光沢
液体は 結晶化した光線に
その栄光をちりばめた
陽ざしも星も 下界なる
光源もなく 一切は
個々の 内なる火によって
輝いているだけだった
移ろいやまぬこれらの驚異
すべては(何と新奇な趣向
目に映っても 耳に響かず)
永遠の沈黙に包まれていた
Ⅱ
火に満ちた目をふたたび開き
わが陋屋の惨状を見た
われに返れば ぐさりと刺した
生きるつらさの切っ先だった
柱時計は 葬儀の鐘を
したたか打って 正午を告げた
真昼の空は 病める世界に
真っ暗闇をぶっかけていた
*『悪の華』第二版102。原文はこちら。