魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

悲劇役者としての遠乃歌波

昨年(2022年)のAFTERSHOCK FESTIVALにおける勇姿。アメリカのファンの方がredditに投稿した画像を拝借しました。お許しを。

「from now on」の悲劇性

BAND-MAIDの謎の一つは、ファンの意見にまとまりがないことです。
たとえばファンが推すメンバーは皆それぞれ違う。「ギターが凄い」「ベースが凄い」「ドラムが凄い」と、みんな違うことを言う。ヴォーカルの彩姫さんについては「彼女をナマで見て、初めて凄いシンガーだとわかった」などと言う。
ファンが好きなナンバーとなると、もっとヴァラエティに富んでいます。最近ある人がredditに「BAND-MAIDの『グレーテスト・ヒッツ』なるアルバムはないのか?」という質問を投稿したところ、複数の人が「それは100曲入りのCDボックスになるだろう」と回答した。確かにBAND-MAIDの楽曲は粒ぞろいで、取捨選択は難しい。ただやはり10年ものキャリアがあり、しかも演奏スタイルが年々変化しているので、ファンになった時期によって「お気に入り」の曲はバラバラみたいです。今BAND-MAIDを支持しているファンの多くはコロナ禍前からのファンで、アルバム『WORLD DOMINATION』(2018年)や『CONQUEROR』(2019年)あたりを好むらしく、最新ブルーレイのセットリストが新曲中心であることに不平を鳴らしているが、今年(2023年)の国内ツアーのセットリストは『Just Bring It』(2017年)からの曲が多く採られ、あたかももっと古くからのファンに敬意を表しているかのごとくである。アレンジは変わっているのでしょうが。
私は「新米」ですので、好きなのは比較的新しい曲、それもインストゥルメンタル曲ですね。『Unseen World』(2021年)のおしまいに入っている「without holding back」という曲もいい曲だと思いますが、何よりも魅力的なのはやはりあの『Unleash』(2022年)の冒頭を飾る「from now on」の悲劇的な曲調です。ヴォーカルが凄いとか、歌詞が素晴らしいとかは、後からだんだんわかってきたことで、少なくとも「Choose me」や「Domination」程度では、ここまでBAND-MAIDにのめり込むことはなかった。これは確かです。
下は「without holding back」の日米のミュージシャン(のたまご)によるカバー。


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The Warningの「Evolve」

メキシコの三人組ガールズバンド、The Warningの今年(2023年)のUSツアーは、BAND-MAIDよりも一足早く始まっている。下のファンカムは4月30日、サン・ディエゴのHouse of Bluesにて撮影されたもの。曲は「Evolve(進化)」。


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ドラムの女の子の「ギャー!!」という叫び声が何とも恐ろしい。まさにホラーですね。歌詞はこんな感じ。

このままでは事態は悪くなるだけ
一瞬で解決しましょう
 私は危険ではない
 私が危険そのもの
人の値打ちはお金では測れない
これは死ではなく再生
 私は危険ではない
 私が危険そのもの
変わるとは何か
教えて

(コーラス)
偽装された人格以上の
何かになるのを手伝って
痛みは生き残るための
進化するための代償

私の涙を拭いて
私は凶器
凶器は泣いたりしない
 私は危険ではない
 私が危険そのもの
タイマーを入れて
時を刻ませて
遅くならないように
 私は危険ではない
 私が危険そのもの
変わるとはどんなことか
あなたに教えてあげる

(コーラス くりかえし)

結局のところ、このThe Warningの魅力とは、若くて可愛らしい女の子たちが、このように悪夢のごとくネガティブな音楽をやるところから生ずるギャップにあり、そこにBAND-MAIDの魅力と相通じるものがある、と一応は言えるのですが、注意しなければならないのは、これは決してお嬢ちゃんたちがヘビメタの真似事をやっている、といったレベルのものではなく、また可愛らしいマリオネットとヘビーな音楽とを組み合わせることでユニークな魅力を生み出そうとするBABYMETALのアプローチとも全く異なる、という点です。The Warningはヘビーメタルに新しい生命を吹き込むすべを知っていて、この陳腐な音楽形式を確かに次の段階へと「進化」させようとしているかに見える。彼女たちは一流の悲劇役者なのだ。そこがBAND-MAIDの悲劇性とリンクするのです。

涙の「証拠映像」

わたくし思うに、「悲劇役者」と「悲劇の人」とは違う。一流の「悲劇役者」であるために、「悲劇の人」である必要はない。たとえば恋愛経験などまったくない小学生の女の子で、特に指導を受けなくても、感動的なラブソングを切々と歌える子がいます。このようなことはすべて先天的な素質によるものです。優れた悲劇役者は、悲劇的な生涯を送ってはいけない。その才能の価値にふさわしい、栄光に包まれた人生を歩まなければなりません。
上記の通り、The WarningのUSツアーはすでに始まっているのですが、その日程たるや、BAND-MAIDに輪をかけてハードで、しかもすでに書いた通り、六月は他のバンド(MUSEなど)のサポートとしてヨーロッパを回る予定になっている。ちなみに昨年のツアーはもっと過酷だったそうで、ほとんど年がら年中世界を飛び回っており、skyp2tさんのこちらの記事によれば、途中でベースの女の子がダウンして、椅子に座って演奏する場面もあったとのこと。
BAND-MAIDも去年のツアーではリードギターの遠乃歌波さんがダウンした。これについてはこちらの記事でも触れましたが、先日発売されたブルーレイに付属のドキュメンタリーには、その「証拠映像エビデンス」が収録されておりましたね。あるアメリカのファンはあれを見て泣いたと書いておられたが、ファンはみな同様の思いを抱いたことでしょう。
あのドキュメンタリーを見ていてもう一つ引っかかったのが「ケンカしたかった」という歌波さんの言葉です。まあツアー中にメンバー同士で大げんかして、誰かが病院に担ぎ込まれでもしたら、スケジュールに支障が出て大変でしょうが、たとえばたまにプライベートで彼氏と大げんかして、わんわん泣いたりすると、よいストレス解消になるかも知れません。彩姫さんなどは始終やってそうに見えますが(単なる臆測です。すいません)。それほど歌波さんは自分に厳しく、ストレスを溜め込みやすいタイプに見えるのです。
あのドキュメンタリーには歌波さんが彩姫さんに未完成の「Memorable」を歌って聞かせるシーンが出てくる。あれは本当に貴重な映像です。そもそもよほどきれいな心の持ち主でない限り、あのメロディは書けません。繰り返しになりますが、美しい悲劇を書いたり演じたりできる人は、悲劇的な生涯を送ってはいけない。栄光に包まれた、幸せな人生を歩まなければなりません。
下は世界数ヶ国のファンによる「Memorable」のカバー。


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