魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

ザ・ウォーニングの「ナルシシスタ」

ザ・ウォーニングの魅力は「ギャップ」

周知の通り、メキシコの三人組ガールズバンド「ザ・ウォーニング(The Warning)」は今年(2024年)6月、初めてのアジアツアーの途中に日本にも立ち寄ることが決まって、われらがBAND-MAIDとの共演も予定されている。ちょうどこれに合わせる形で彼女たちの通算4枚目のアルバム『キープ・ミー・フェッド(Keep Me Fed)』が6月28日にリリースされるのですが、これは「リパブリック・レコード」という、前作3枚目の「ラヴァ・レコード」の上位レーベルから発売されるので、これまで日本では入手困難とされてきた彼女たちのCD(物理メディア)も、これによって初めてアマゾンなどで容易に入手できるようになるらしい。これで彼女たちは日本でも「売れる」お膳立てができたわけです。
下はそのニューアルバムのトラックリスト。

1. シックス・フィート・ディープ
2. シック
3. アポロジャイズ
4. クエ・マス・キエールズ
5. モア
6. エスケイピズム
7. サティスファイド
8. バーンアウト
9. シャークス
10. ヘル・ユー・コール・ア・ドリーム
11. コンシューム
12. オートマティック・サン

ザ・ウォーニングの演奏力についてはもう何も申し上げますまい。音を聴けば誰にでもわかることですから。ここで再度注意したいのは、彼女たちの曲の歌詞です。彼女たちの痛烈な歌詞の世界は、一部のヘビメタファンを除いて、日本人には免疫がないのではないかと思われる。このブログでは既に彼女たちの曲をいくつかご紹介してきましたが、たとえばこちらの記事こちらの記事でご紹介した「チョーク(Choke)」という曲の歌詞、はたまたこちらの記事の「エヴォルヴ(Evolve)」という曲の歌詞は、すでに指摘したように、自殺願望を表現している。それも半端なものではありません。

私が作り物のキャラクター以上の
何者かになるのを手伝って!
死の苦痛は生き残るための
進化するための代償!
(「エヴォルヴ」のリフレイン)

下は彼女たちのニューアルバムから先行配信されている曲のうちの一曲、「オートマティック・サン(Automatic Sun)」。


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これは恋愛中毒の歌ですね。恋人のアメとムチとによって支配され、身も心もボロボロにされてしまった女の子の歌です。

もしあなたが帰ってきてくれたとしたら
鏡のように 私の想いを映してくれるかしら
ああ あなたは私の手の届かないところにいる

もっともっといじめてちょうだい
この依存症は治療困難
すべて欲しいなら すべて奪って
だって私はあなたのものだから あなたのものだから!

(コーラス)
非情の太陽を燃やして
壊れてゆく私を見て
心をむしばむ愛をちょうだい
狂ってゆく私を見て

ザ・ウォーニングのビデオ、特にライブ映像を見ていていつも思うことは、彼女たちのステージの華やかさと、歌詞の内容の絶望的な悲惨さとの間の凄まじいギャップです。このギャップが彼女たちの音楽に、他の追随を許さない魅力を与えていることに疑いの余地はありません。他にも、上のトラックリスト中の「ヘル・ユー・コール・ア・ドリーム(Hell You Call a Dream)」という曲は、実際にスターの座をつかんだ者の苦悩を歌ったもので、「みんながあこがれているものは、実は地獄に過ぎない」と訴える。聴く方はギョッとさせられます。

「ナルシシスタ」の歌詞

ちなみにザ・ウォーニングのメンバーは自分たちの曲作りに非常に強いこだわりを持っており、十代の早い時期から注目を集めていたにもかかわらず、メジャーデビューが遅れた(ザ・ウォーニングは去年結成10周年を迎えた)のは、彼女たちをコントロールしようとするプロデューサーたちと、書きたい曲を書いて、りたいようにりたいとする彼女たちとの間でなかなか折り合いがつかなかったからだそうです。最後に現れたのが上の「ラヴァ・レコード」のプロデューサーで、彼女たちの「表現の自由」を最大限保証してくれたとか。
それはともかく、今日は下の「ナルシシスタ(Narcisista)」という曲の話をしたかったのです。ちなみにこのビデオでは、いつもはドラムを叩いている女の子がメインヴォーカルを務めている。


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この曲の歌詞はスペイン語で書かれている。ザ・ウォーニングにはこのようにスペイン語の歌もあるが、英語の歌の方が多い。それで私がいつも感心するのは、彼女たちは日常会話ではスペイン語を使っているらしいにもかかわらず、英語で上手に詩を書くという点です。上にも例を挙げた通り、ザ・ウォーニングの歌詞は結構センシティヴで、英語表現の機微に通じていないと書けません。ただ何度も言うように、日本人はこの真似をしない方がよい。日本人は日本語で歌えばよろしい。
この「ナルシシスタ」の歌詞はこんな感じ(英訳からの重訳)。

どうすればいいのか知らない
猫をかぶる意味もない
もう頑張らない
私は知っているから
皆が陰口をたたいていることを
あんたたちは顔に好意を浮かべて現れる
私がだまされると思わないで

あんたたちは何もわかっていない
あんたたちは言いふらす 決して黙らない
私は耳をふさいで こう言うだけ

(コーラス)
ナ・ナ・ナ
私をリストに入れるな
私は狂人ではない マリンチスタでもない
ナ・ナ・ナ
彼らは私をうぬぼれていると言う
私をナルシスト呼ばわりする

メンバー自身のコメントによれば、この歌は「英語で歌うメキシコ人」というメキシコ国内のリスナーたちからの批判に応えて書かれた。この歌詞のキーワードは「マリンチスタ」という言葉で、これはメキシコ建国史に登場するある人物に由来する言葉で、平たく言うと売国奴というニュアンスの言葉らしい。ただ英語で歌っているというだけで「売国奴」呼ばわりされるには深いわけがある。
英語版ウィキペディア「マリンチズム(malinchism)」の項によると、メキシコは隣国アメリカの強い影響下にあるが故に、自国の文化、思想、行動、ライフスタイルについて深い劣等感に悩まされており、特に上流階級人ほど国産のものよりもアメリカ産のものを好む傾向があるという。こうした傾向に対する民族主義的な反発が、この「マリンチスタ」という言葉にこめられているらしい。ちなみにメキシコではほとんどの地方で英語が第一外国語として教育されているにもかかわらず、英語に堪能な人は全人口の5パーセント程度にとどまるという。この5パーセントという数字は、しかし、日本に比べればはるかに多いと感じますね。
どこの国でもいろいろ問題があるんだナーと、考えさせられます。もしこの5パーセントの英語のできる人たちが特権階級に限られるとすれば、一般国民の不満の矛先は、無論、この人たちに向かうでしょう。ザ・ウォーニングはこれに対して「私たちは生粋のメキシコ人だ」と反論しているわけです。
これを日本に置き換えるとどうなるか。日本人のアメリカに対する劣等感も相当なものですからねえ。いわゆるグローバリゼーションの波の中で、日本も英語を公用語に採用すべきだと考えている日本人は、おそらく相当な割合にのぼるのではないでしょうか。「私は日本人だ」と胸を張って言い切れる日本人は、もはや少数派なのかも知れませんね。

*上の文中、ザ・ウォーニングのメンバーのコメント等のソースはskyp2tさんのブログに拠っております。ご参照ください。

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