魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

「岬」ほか四篇

夫婦

花のように咲いた夫婦 咲いた不思議な夫婦
少女と少女の夫婦 処女と処女の夫婦
泉の中の夫婦 湖のほとりの夫婦
白いお城のうしろに咲き乱れた夫婦 夫婦 夫婦

水星

私には
星が見えます
星が見えます
私にはひがしの空に住んでいる星が見えます
明け方の静かな空に住んでいる星が見えます
ひるがえるぴあののひびき
船出するふらんすの船

その星は
水があります
水があります
その星は淫らなものに満ちている水があります
磨かれたからだの影に満ちている水があります
ひるがえるぴあののひびき
船出するふらんすの船

耳もとに
水がひろがる
水はさざなみ
そして今鳥が飛び立つ
数知れぬ鳥が飛び立つ
ときはなたれてゆくはばたきの
おびただしさよ

耳もとに
水がひろがる
水はさざなみ
さざなみは水のささやき
生いしげる白いかがやき

そして今
空のかなたへ
空のかなたへ
そして今数かぎりない風が住む空のかなたへ
数知れぬ涼しい風が住んでいる空のかなたへ
その星は消えてゆきます
その星は消えてゆきます

私には夕陽が見えた

私には夕陽が見えた
 夕陽しか見えなかった
 それで船は進み続けた
船はみなみに進み続けた
おびただしい飢えを忍び
 おびただしい渇きに耐えて
 それで私には見えなかった
夕陽しか見えなかった

あなたは風を呼び集めた
 風を夜空に呼び集めた
 それで船は向きを変えた
少しひがしに向きを変えた
あなたは風をはびこらせた
 風をまだらにはびこらせた
 それで波がならびはじめた
波がななめにならびはじめた

数が数えきれない
 風の数が数えきれない
 それで船はきしみ続けた
船はしきりにきしみ続けた
風のひびきがひしめいた
 数かぎりない風のひびきが
 それで水が入り込んだ
水がみだりに入り込んだ

私には夕陽が見えた
 夕陽しか見えなかった
 それで船は進み続けた
船はみなみに進み続けた
おびただしい飢えを忍び
 おびただしい渇きに耐えて
 それで次第に近づいてきた
島がしずかに近づいてきた

海に生まれたむすめ

海に生まれたむすめ
青い海に生まれた優しいむすめ
あなたは私の人魚
あなたはもう
私だけの人形

心にかかる火曜日
吸い寄せられる水曜
金曜は禁じられても
土曜日は抱擁に酔う
優しい指に
ふたたび触れるうれしさ
海のほとりで触れ合うよろこびの日々
優しい朝の光が
今日も海に生まれる

とても愛とは言えない
私の飢えは癒えない
青い海のかなたに白い詩のような船が咲いても
抱きしめて抱きしめて抱きしめて
夕陽のように燃えていたい
あけぼのの口づけで
息を吹きかえすまで

ある岬のあけぼのが
いま目の前によみがえる
はばたいて鳥が飛び立つ
さようなら さようなら さようなら
ちぎれるほど手をふっている子どもたち
ひきちぎるほど 力いっぱい吹きつける風
そうして船は海を越え 愛の世界へ
そんなある岬のあけぼのが 今よみがえる よみがえる