魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)エドガー・アラン・ポー「レノア(Lenore)」

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カナダのイラストレーター、ヘンリー・サンダム(Henry Sandham, 1842 – 1910)による挿絵入りの『レノア』(1886年刊)の扉絵。ウィキメディア・コモンズより。

 

「万歳の曲(A Pean)」(1831年刊『エドガー・A・ポー詩集』より)

こんなにも若くして逝ってしまった
こんなにも綺麗なひとに
いかにして鎮魂の祈りを捧げ
鎮魂の歌を歌おう

彼女の友人たちは彼女を見つめ
豪華な棺台ひつぎだいに目を丸くする
そして泣く 死せる佳人を
涙でけがそうとして

お金持ちだからとて彼女を愛し
思い上がっているとて彼女を憎み
ひとたび彼女が病魔に屈するや
彼女の薄命に大喜びだ

「いかにも値の張りそうな
派手な棺布ポール」についてしゃべりながら
奴らは声をひそめよと この俺に言う
わが歌が息絶えるまで

さもなくば わが歌声を
しめやかな調べに合わせ
亡きひとを慰めるべく
悲しげに歌えよなどと

だが彼女は死んだ
若き日の希望とともに
そして俺は故人を思い
わが花嫁を思って 気が確かではない

故人は横たわっている
全身を花で飾られ
見れば「死」は彼女のまなこに宿り
髪の毛はなお生きている

このひつぎを乱打する俺
その音が おびただしい部屋の扉を
通して返す 微かな木霊
わが歌の伴奏にふさわしい

人生の初夏に逝った君の
死に様は綺麗ではなかった
君の死は速やかでなく
安らかな死でもなかった

この世の鬼畜以下の奴らから
君の命と愛とは解き放たれ
天界の玉座以上の
完璧な歓喜に迎えられる

さればこそ 今宵の俺は
レクイエムなどは歌わず
いにしえの異教徒たちの
万歳の曲ピーアンもて 君を送ろう

 

「レノア(Lenore)」(1845年刊『大鴉およびその他の詩集』より)

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「ああ黄金の酒杯は砕け 美酒は永遠に失われた」


ああ黄金の酒杯は砕け 美酒は永遠に失われた
弔いの鐘を鳴らせ 気高き処女のたましいは 今スチュクスの川を漂う
そうしてギイ・デ・ヴィアよ 涙は無いか 今泣かずしていつ涙する
見よ 彼方なる堅く侘しい棺台ひつぎだいの上に 君の恋人レノアは横たわる
さあ 鎮魂の祈りをともに捧げ 鎮魂の歌をともに歌おう
こんなにも若くして亡くなった絶世の美少女を悼む歌を
その若さゆえ 二重に痛ましい この佳人の死を悼む歌を

 

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「鐘を打ち鳴らせ 気高き処女のたましいは 今スチュクスの川を漂う」

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「そうしてギイ・デ・ヴィアよ 涙は無いか 今泣かずしていつ涙する」

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「見よ 彼方なる堅く侘しい棺台の上 君の恋人レノアは横たわる」


下衆げすどもよ 富ゆえに彼女を愛し おごりゆえ彼女を憎み
ひとたび彼女が病魔に屈するや 彼女の薄命を誉めそやした
お前たちのその白眼により またその毒舌により
いかにして鎮魂の祈りが読まれ 鎮魂の歌が歌われようぞ
この無邪気な少女を こんなにも若くして 非業の死へと追いやりながら』

 

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「下衆どもよ 富ゆえに彼女を愛し 奢りゆえ彼女を憎み」

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「お前たちのその白眼により またその毒舌により」


悪かった だがそう荒れ狂うな 今はただ安息日サバトの歌を
故人がつつがなく旅立てるよう しめやかに歌おうではないか
麗しのレノアは「先立った」のだ 若き日の希望とともに
それで婚約者をうしなった君が 悲嘆のあまり 発狂したとて無理もない
繚乱と花咲いていたご令嬢 今ははかなき身と横たわる
金髪は今なお輝いている しかし目に輝きはなく
毛髪は今なお生きているのに 目が死んでいるのだ

 

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「麗しのレノアは『先立った』のだ 若き日の希望とともに」

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「それで婚約者を喪った君が 悲嘆のあまり 発狂したとて無理もない」


退しりぞけ 今宵わが心は軽い 俺は挽歌ダージを歌うどころか
古代異教徒たちの万歳の曲ピーアンうたって この天使を飛翔させよう
鐘は鳴らすな 昇天のよろこびに酔い痴れる彼女の霊が 
呪われし地上より浮かびただよう乱声らんじょうにとらわれぬよう
下界の鬼畜どもより 天上の同胞らへと 怒れる霊は解き放たれる
この地獄より はるかなる天上界のやんごとなき地位をめざして
悲嘆と呻吟とから 主のかたわらなる黄金の玉座めざして』

 

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「悲嘆と呻吟とから 主のかたわらなる黄金の玉座めざして」以上、挿絵はすべてヘンリー・サンダムによるもの。ウィキメディア・コモンズより。


アニメーション付きの朗読。よく出来ていると思います。2021年8月公開。


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