
物憂げなわが恋人よ どんなにか
僕のこの目は見るのが好きか
美しい君のからだがひるがえす
絹で織られた肌の光を
豊かなる髪の深みは底知れず
心狂わす匂いを放ち
この薫る 流浪の海に立つものは
水色の波 褐色の波
さわやかに流れる朝の風により
目を覚まされた船さながらに
幸せを夢みる僕の魂は
異国の空をさして旅立つ
一切の好悪の念を秘めたまま
あらわにしない君のひとみは
冷ややかな双の宝石 したたかな
鉄と 貴い黄金の合金
みずからを見せびらかして遊ぶ君
リズムに乗って歩む足取り
目に見れば 心に浮かぶ 魔術師の
杖のまにまに舞い踊る蛇
けだるさの重荷に耐えず 絶え間なく
右へ左へ ゆれる童顔
うららかな日々を ひたすら戯れて
過ごす仔象の頭部のようだ
荒波のかげに 帆桁をくぐらせて
激しくゆれる小舟のごとく
しなやかな君のからだは伸びちぢみ
縦になったり 横になったり
轟音とともに融解する氷河
どっとあふれる河水のごとく
その唇の水が ふたたび歯ならびの
最前列へ 押し寄せるとき
わが舌にしたたる 苦いこの美酒は
天下無敵のボヘミア・ワイン
わが夢に 星をばらまく 液体の
夜空を飲むと 僕は信ずる
*『悪の華』第二版28。原文はこちら。