虚無の味(Le Goût du néant)*1
闘志満々だったのに 今は覇気無き精神よ
希望は君にまたがって 拍車をかけていたけれど
今の君には騎手がない 恥を忘れて横たわれ
ほんの小さな石ころにも 足を取られる老いぼれ馬よ
もうあきらめろ わが心 獣の眠りを眠れ
くたびれ切った負け犬よ 老盗賊の君にとっては
セックスももう味気なく 痴話喧嘩とてうんざりだ
いざさらば ラッパの歌よ フルートの溜息よ
歓楽よ 誘惑するな むっつりと拗ねた心を
愛すべき春の花びらは その芳香を失った
そして時間は かちかちになった死体を 大量の
雪の流れが飲むごとく 僕を飲むのだ 刻々と
――僕は地球の全体を はるか上から眺めるが
もうささやかな隠れ家の一つも見ない 見たくない
雪崩よ 君の崩落に 僕を巻き込み去ってくれ
音楽(La Musique)*2
(ベートーベン)
音楽はしばしば海のように私を運ぶ
わが蒼き星をめざして
霧深き天井の下 また広き気海の中を
私は船出する
胸を張り 肺臓を膨らますこと
帆布のごとく
夜の闇に打ち寄せる波 また寄せる大波の背を
私はよじのぼる
行き悩む船のあらゆる激情が 私の中で
ぶるぶる震え
順風や 逆風や 妄なる風が私を
深淵の上にゆさぶる
また時に大凪が来て 波のない海に広がる
わが絶望の大鏡面よ