「お嬢さん、実のところ、あなたは僕をつくづく疲れさせる。あなたの溜息のつき方ときたら、まるで60歳の落穂拾いのお婆さんか、酒場の出入口で残飯をあさっている年老いた女乞食よりも深刻な悩みを抱えているかのようだ。
「もしその溜息が深い改悛の情から来ているのなら、あなたはそれで名を上げるかも知れない。だがあなたの場合、それはただ満ち足りた暮らしと閑暇の過剰とを示しているに過ぎない。のみならず、あなたは無意味なセリフを絶えずペラペラとまくし立てる。『私を愛して。私には愛が必要なの。優しく口説いて。強く抱きしめて』待った。僕はあなたを癒して差し上げたい。遠出せずとも、市の立つ日に、2スーも支払えば、手立てが見つかるだろう。
「ほら、あの頑丈な鉄製の檻をごらんなさい。あの中でいきり立って、地獄の亡者のごとく吠え、密林を追われて憤慨しているオランウータンみたいに鉄格子を揺さぶっている、毛髪に覆われた一匹の怪物。時には虎そっくりに円を描き、時には白熊みたいによたよたしながら歩いているが、その姿は何となくあなたに似ていなくもない。
「この怪物こそ通常『可愛いお前』と呼ばれているところの動物、すなわち妻だ。棍棒を手に、声を限りに叫んでいるもう一匹の怪物、あれが夫だ。彼はその正統なる配偶者を野獣のごとく鎖につなぎ、市日の郊外で見世物にするのだが、当局の許可を得ていることは言うまでもない。
「よく見て。夫が投げ与える生きた兎や泣き叫ぶ家禽の類を、妻がどんなにガツガツとむさぼり食うか(おそらく演技ではない)。夫は『全部食うな、明日の分がなくなる』と言う。このように賢明なるお言葉とともに、彼は冷酷にもエサを取り上げるのだが、そのエサのだらりと垂れた腸は、なお一瞬、猛獣の、すなわち妻の、歯にぶら下がったままだ。
「そら、妻を大人しくさせるための夫の棍棒の一撃だ。なぜなら、妻は取り上げられたエサを、なおも未練たらしく睨みつけていたからだ。うーん、驚いたことに、あの棍棒はコメディの棍棒ではない。人工毛髪の上からにもかかわらず、肉の鳴る音がしたよね。彼女は目をむき、より気取らない叫びを上げる。怒りに燃える彼女は、打たれた鉄のごとく、全身から火花を散らす。
「これぞ神の手に成る二作品、アダムとイヴとの末裔による結婚生活なるものの常態だ。あの女は人妻たる甘酸っぱいよろこびを知らぬわけではないとしても、不幸には違いない。もっと報われない、悲惨な不幸というものも存在する。だが彼女には、みずからが投げ込まれたこの世界において、女性が他の運命に値するとはどうしても信じられなかった。
「さて、お嬢さん、僕ら二人についてだが、このようにありふれた地獄を見物した後で、ご自分の柔肌と同じほど柔らかい布団の上でしか眠らないあなた、火の通った肉しか食べない、それも腕のいい使用人が心して小分けにした肉しか食べないあなたは、あなたのその優しい地獄について、僕にどう考えろというのだろう。
「そうして頑健なるコケットよ、そのかぐわしい胸をふくらますもろもろの溜息や、本で覚えたもろもろの思わせぶりや、見る者の心に同情とは正反対の感情を呼びさますその不屈不撓のうつ症状が、僕にとって何の意味があるというのか。実際、僕は時として、あなたに真の不幸というものを思い知らせてやりたくなるのだ。
「あなたがこのように、繊細なる美少女よ、足をぬかるみに突っ込んだまま、あたかも王子様を探しているかのごとく、ぼんやりと空を見上げている姿を目にしたら、人はおそらく非現実を追い求める幼い蛙と呼ぶことだろう。もし根太(僕)を馬鹿にして恥じないなら、あなたを欲しいままに噛み砕き、呑み下し、亡き者とするあの鶴に用心なさい。*1
「僕は詩人だが、あなたが思っているほどボンクラではない。もしあなたがそのもったいないお涙で僕をあまりにもしばしば疲弊させるなら、僕はあなたをあのけだもの女なみに扱おう。さもなくば、気の抜けた香水瓶のように、窓から捨ててしまおう」
*『小散文詩集(パリの憂鬱)』11。原文はこちら。