魔性の血

拙訳『吸血鬼カーミラ』は公開を終了しました。

(日本語訳)ボードレール「美(La Beauté)」他一篇

美(La Beauté)*1

ジャン=レオン・ジェロームスフィンクス前のボナパルト」。ウィキメディア・コモンズより。

人間たちよ わたくしは石の夢ほど美しい
見るも触れるもことごとく 無事で済まないわが胸は
形而下に在る物質のごとく 不変で物言わぬ
愛を詩人の魂に 呼び覚まさんと作られた

蒼天の玉座に就いた さながら謎のスフィンクス
雪の心は 白鳥の色と一つに結ばれる
すっきりとした線が好き ぶれやずれなど大嫌い
決して笑うことがなく 涙を流すこともない

あたかも世界最大の記念物から盗ったかと
見紛うごとき わたくしの威容を前に 詩人らは
奥義を遂に窮めんと 時を費やすことだろう

それはわたくし 想い人たちを夢中にさせるため
一切を美化してみせる澄んだ鏡を持っているから
それは決して曇らない わが双眼だ 双の巨眼だ

狂気(Obsession)*2

ヤン・トーロップ「オルガン」。ウィキメディア・コモンズより。

お前が怖い 森林よ 寺院のように恐ろしい
オルガンみたいにお前が鳴ると 夢も希望もない胸が
陳腐な涙声がする永遠のお通夜の部屋が
深淵より」の大合唱に 山彦を返すからだ

海よ お前は大嫌い お前の乱舞乱調を
わが精神に見る私 人生に敗れた者の
屈辱と涙に満ちた凄まじいげらげら笑い
私はそれを壮大な海の笑いに聞くからだ

だから私は夜がいい 星の光もない夜が
星の光は耳慣れた言語で語りかけるから
それは私は暗黒が 無が むきだしがいいからだ 

にもかかわらず暗闇も それ自体 画面であって
わが眼差しが照らし出すその先々に 幾千の
亡き人々が生きており 懐かしそうにこっちを見ている

 

 

*1:悪の華』初版17。

*2:悪の華』第二版79。