魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)ボードレール「どうにもならないもの(L'Irrémédiable)」

アーサー・ラッカム「メイルシュトロームへの降下」。ウィキメディア・コモンズより。

たとえば青い空を離れてちた
一つの観念イデー 一つの形態フォルム 一つの存在エートル
今はもう天界の目の届かない
三途の川ステュクスのぬかるみの中

たとえば魔性の恋人に誘惑された
一人の天使 一人の無茶な旅人
巨大な悪夢の底に沈んで
泳ぎ手のごとく 身をもがきながら

一つの大渦潮おおうずしおにあらがっている
死に物狂いで抵抗している
狂人の声で歌をうたう
闇の中の高速自転ピルエットと戦っている

たとえば一人の取り憑かれた困窮者
むなしく手探りをしている
蛇だらけの場所から逃れ出ようと
光と鍵を探して

たとえば一人の呪われびと ランプも持たず
穴のほとりを降りてゆく その穴の匂いは
手すりのない永遠の階段の
じめじめした行く先を暴露する

そこではぬるぬるした怪物たちが目を光らせ
燐光を発するその巨眼は
真っ暗闇をより暗くするから
そのほかは何も見えない

たとえば水晶のわなのごとき
極海きょっかいに監禁された船
いかなる恐怖の海峡によって
この牢獄におちいったのかを探っている

ことごとく どうにもならない運命の
きれいな象徴エンブレム すばらしい絵画タブロー
八方塞がり だからとまどうばかり
悪魔の仕事はいつも完璧

一点の曇りもない対面会話
鏡と化した心に向き合う心
暗くても見通しのいい真理の井戸
ゆれるかすかな星の光は

皮肉にかがやく地獄のかがり火
堕天使の恩寵おんちょうに満ちた松明たいまつ
たった一つの栄誉 たった一つの慰め
それは悪に染まっているという自覚だ!

*『悪の華』第二版84。原文はこちら