物憂げなわが恋人よ 時として俺は見るのだ
満場に反響を生む楽団の演奏につれ
ゆるやかなリズムとともに踏んでいたステップをやめ
倦怠の遠い目をして 行き過ぎる君の姿を
時として俺は見るのだ ガス灯の青い光が
青ざめた君の額を 病的な魅力によって
飾るとき 夜の灯りが蒼雲を照らす風情を
また俺は絵画のような君の目をじっと見ながら
独り言う「何たる女だ 美人だが 妙に悲しい
壮麗で重い記憶は 王宮の塔さながらに
この女の頭上を飾り 傷ついた桃の心は
肉体とともに 巧者な恋により 色づいている」
恋人よ 君は甘くて毒のある秋の木の実か
心ある者の涙を待ち受ける水瓶ですか
他界なるかの楽園を思わせる香水ですか
ご遺体を寝かす枕か 棺を満たす花々か
知っている 実は大した秘密など何もないのに
この胸が抉られるほど悲しげな目があることを
空っぽの宝石箱よ 銘のないメダリオンよ
おお天よ 御身にまして何もなく 深い空間
だがおよそ真実などに興味ない者にとっては
対象は上っ面さえ美麗ならそれでよろしい
本質が馬鹿で勝手で無情でも問題はない
仮面でも虚飾でもいい 君は綺麗だ だから好きだ
*『悪の華』第二版98.原文はこちら。