魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)ボードレール「無題」二篇

無題:夜の穹窿同様に…(Je t'adore à l'égal de la voûte nocturne…)*1

ランス大聖堂のヴォールト。ウィキメディア・コモンズより。

夜の穹窿ヴォールト同様に 俺はお前が大好きだ
悲しみの器よ 物言わぬ偉大な像よ
わが両腕を 蒼穹と海から分離するごとく
わがなの装飾よろこびよ お前が俺を避けるから
からかうように距離を置き さらに置くかに見えるから
さらにお前に心惹かれる

死体に蛆が湧くごとく
お前めざして突き進み お前めがけてよじ登る
おお心ないけだものよ 俺はお前の
薄情だって大好きだ それがお前を美化するからだ

無題:老幼男女 誰とでも…(Tu mettrais l'univers entier dans ta ruelle…)*2

エドゥアール・マネ「ナナ」。ウィキメディア・コモンズより。

老幼男女ろうようなんにょ 誰とでもベッドを共にしかねない
淫乱女よ 退屈アンニュイが君の心を鬼にする
奇異な遊びを遊ぶため 磨きをかけた君の歯は
日に一つずつ むしゃむしゃと心臓を喰う要がある
きらきら光る君の目は 店びらきした店のよう
または祝祭日の夜 ともるランプの列のよう
みずからの美の権限をわきまえず
暴君なみにちぐはぐな殺傷力をふりまわす

非道において多産なる 世にも非情な処刑具マシーン
万人の生き血をすする 衛生器具よ
どうして君は恥ずかしくないのか うに色あせた
君の色香を ありとある鏡の前に見ないのか
情事のプロとうぬぼれる自分自身の悪行あくぎょう
その由々しさに愕然と ひるんだことはなかったか
人知の遠く及ばない秘策において 偉大なる
自然は君を利用して 女よ 無知な動物よ
愚劣な君を利用して 天才を叩き上げるのだ

反吐へどが出そうな栄光よ 赫々かっかくたる赤っ恥よ

*1:悪の華』初版22。原文はこちら

*2:悪の華』初版23。原文はこちら