魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

加藤廣『家康に訊け』


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表題の作品につきまして、一天一笑さんから紹介記事をいただきましたので掲載します。一天一笑さん、いつもありがとうございます。

加藤廣について

加藤廣『家康に訊け』(新潮社)を読了して。
75歳で作家デビューを果たし、『信長の棺』『秀吉の枷』『明智左馬之助の恋』の所謂“本能寺三部作”その他『空白の桶狭間』等で活躍した加藤廣の歴史エッセイと、「宇都宮城血風録」を収録した遺作集です。なお、2018年4月7日に急逝されました。
特に『信長の棺』は、2005年当時小泉純一郎氏の絶賛を浴びベストセラーになりました。
また、加藤廣の職歴(経営コンサルタント等)を活かした、数字を活用した仮説を楽しむこともできます。
表題作の「家康に訊け」は戦国時代の三傑、織田信長豊臣秀吉徳川家康を天下人の持つ三要素、天の時・地の利・人の和を基礎データとして比較して、誰に現代日本の舵取りを任せたらよいかとの解をアプローチしています。徳川家康についた”運“という抽象的な概念にも触れています。

地政学な意味での三河松平氏領国)の位置と「地の利」

東海地方出身の筆者は、幼少時から徳川家康に親近感をいだいていたのですが、恥ずかしながら従来どおりに、三河は東を今川氏、西を織田氏に囲まれて更には東北に武田氏がいる状況では松平氏は独立独歩などできるはずもなく、今川か織田の庇護が必要な家康は苦難の人質生活を耐え忍んだという程度の認識でした。
この三河の位置を日本に置き換えて、加藤廣の地球儀規模の視点、グローバルな視点から見ると、東はアメリカ、西は中国、北はロシアの超大国に囲まれている。更に鉱物資源は常に欠乏している。これはピタリと今の日本に当てはまります。家康は天下人になるべくしてなったのです。第一部「家康を解剖する」、第二部「天下取りへの階段」と構成されています。
また余談ですが、筆者の明治生まれの父方の祖父が徳川家康を神様のように尊敬していた影響か、小学生の頃は1573年三方ヶ原の戦い(現在の浜松市北区三方ヶ原町での武田軍と織田・徳川連合軍の戦)で敗走して命からがら浜松城に帰着した家康は、空城の計を用いて武田軍に対抗したとの伝説を信じていました。即ち浜松城の門を全部開けさせ、「ここが切所だぞ!油を惜しまず篝火をたけ、誰か湯漬けをもて」と下知をし、腹一杯になった家康はぐっすり眠り、その豪胆さに武田軍が逃げていったとの伝説です。今考えれば、眉唾ものですね。祖父も家康の愛飲していた養命酒を飲んでいました。史実は、武田軍は浜松城を素通りして西(京都?)に進軍したのです。

天下取りレ-スに乗り遅れた家康が何故天下人になれたのか?

先ずは天運と健康に恵まれたこと。実母の水野氏・伝通院も長命でした。
10年以上に及ぶ人質時代に、今川義元の軍師太源雪斎など、師匠や烏帽子親に恵まれた事。家康は今川嫡子氏真の学友扱いなので、雪斎から四書五経論語・中庸・大学・他)を読み込む素養等を身に着けられたこと。氏真は飛鳥井家から蹴鞠を学びましたが、家康は兵法書漢籍を学びました。又実母の水野氏は久松俊勝に再稼して他家の人です。なので、自己愛や支配欲が強く、子供に手取り足取りで接して、子供の通る道を掃き清めるような母親のような存在はいません。勿論も傅役はいますが(石川数正等)自分で生き残る方法・戦術を学びとり実践していかなければなりません。まさに常在戦場の人生です。後年の家康=狸爺さん説と生まれ持った強運説が家康を天下人に押し上げたのでしょうか?その強運と引き換えのように、祖父松平清康・父松平広忠も年若く無念の死を遂げています(臣下に斬殺されています)。生前家康と係ることのなかった彼らは、あの世で家康の反面教師の役割を果たした訳です。

大まかに紹介しましたが、戦国時代の武器の中で、鉄砲より硝石の価値が高く入手困難な事情は、筆者の大学時代の恩師の講義と同じ内容で、些か懐かしくなりました。

宇都宮城血風録

1619年秀忠の治世(関ケ原合戦約20年後)、江戸追放の身になった賤ケ岳一番槍福島正則およびこれに仕える忍者集団と、徳川方の忍者集団の死闘を描いた傑作です。
家康の用いた権謀術数の副産物ともいえる歴史小説です。『神君家康の密書』の続編です。
忍者には忍者の生き方がある。勿論伊達家の黒脛巾組も出てきます。鉄砲撃ちの雑賀衆も活躍します。徳川方では服部半蔵が出てきます。正則側は謀反に見えない秀忠暗殺を企画します。そうです、宇都宮釣り天井事件です。この試みは果たして成功するか?
柳生十兵衛は、誰にやられて片目を失ったのか?等読みどころ満載です。
正史には登場しない暗闘をお楽しみくださいね!

長い文を読んで下さりありがとうございました。
徳川家康に興味のある方、晩年の豊臣秀吉に興味のある方、織田信長の姪・淀殿、甲斐武田家に興味のある方などにお薦めします。
天一

家康に訊け

家康に訊け