魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

BAND-MAIDの「I'll」(続き)

BAND-MAIDの最新映像作品の外箱のデザイン。蝶結び(花結び)ののし紙風で、「日本産」をアピールする狙いがあると見られる。なお二枚組ブルーレイに付属の100ページにおよぶフォトブックは、すべて昨年のUSツアー中のスナップショット(ステージ&オフステージ)によって構成されてゐる。amazon.co.jpより。

「あざとい」の意味

英語を学び続けて半世紀、未だにさっぱりわからない。のみならず、私はネイティブの日本語話者であるにもかかわらず、近頃はもはや日本語すらわからないと感じることが多くなりました。新しい言葉や言い回しが次から次へと現れるのに加えて、古くからある日本語も、どんどん意味が変わってゆくからです。
前に触れたBAND-MAIDの「I'll」という曲は、

約束した未来なんてない
あざとくなんかできやしない

という歌い出しで始まる。例によってきつい歌詞だと思いますが、この「あざとい」という言葉の意味がよくわからない。今の時代、わからないことはすべてインターネットで調べる習わしですので、私も人並みに検索して、あちこちのサイトを回り、ざっと300年前から用例が確認できる、由緒ある日本語だということはわかりましたが、今日使われる意味合いはというと、どこのサイトの解説(日本語の)を読んでも、実にややこしく、わかりにくい。もう少し明快な日本語で書けないかと言わざるを得ない。
とにかく手に入れた知識をもとに、上の

あざとくなんかできやしない

を平易な日本語に直してみると、

どんな風に猫をかぶって、どんな風にわざとらしく嬌声を上げ、しなを作れば、男たちに持てはやされ、ちやほやされるのか。そのすべは心得ているつもりだが、根が正直なもので、自分に嘘もつけないし、何よりプライドが傷つくし、恥ずかしいし、馬鹿馬鹿しくもあるから、私にはできない。

といった感じになるかと思われる。たった一詩行ラインにこれだけの内容があるのだから、日本語を知らない海外のリスナーは大変でしょうね。

日本語だからダメ

先日(2023年4月22日)公開されたBAND-MAIDの「NO GOD」という曲のライブ映像について、「Tazzz N Philly」とおっしゃる二人組のユーチューバーさんが否定的なリアクション動画を投稿された。彼らの主張は明快で、「英語で歌わないから駄目」というものです。「そもそもバンド名も曲名も英語なのに、どうして歌詞だけが日本語なのか?」と言う。
ごもっともとしか答えようがありません。ちなみにこのユーチューバーさんの他のリアクション動画を確認したところ、LOVEBITES(日本)やThe Warning(メキシコ)には高評価を与えていらっしゃる。前にも書いた通り、私はLOVEBITESの曲は(歌詞が英語だから)全然ピンと来ませんが、The Warningの曲は(歌詞が英語であるにもかかわらず)胸に来るものが多々あります。なおThe Warningの曲には歌詞が100%スペイン語のものもある。
下は先日(2023年4月24日)のライブにて初披露されたThe Warningの未配信の新曲「MORE」。


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現代の「常識」と永遠の「真理」

英語で歌わないと駄目。これはきわめて常識的な反応であると言えよう。ABBAt.A.T.u.BTSも、英語で歌ったからこそ世界を制覇できたのだ。日本語で世界征服?笑わせるぜ。世界中の誰もがそう思っていると言っても過言ではあるまい。実際、BAND-MAIDは一貫して日本語で歌っているのに、どうして海外であれほどのファンを獲得できたのか、これはBAND-MAIDをめぐる大きな謎の一つです。こちらの記事で指摘したような「メイド服の神通力」だけではとても説明できません。
言うまでもなく、現代は英語の時代です。確かに今は英語が世界を支配しており、ネイティブの英語話者たちは、あたかも英語にあらずんば言語にあらずとでも思っているかに見える。英語圏以外の国々に暮らす人々にとって、今は暗黒時代なのです。インターネットの普及、特にSNSの普及は、この傾向に拍車をかけたようで、いつだったかテレビを見ていると、フランスでは自国語を保護することがすでに困難になっているとか。英語の圧倒的な浸透力の前に、フランス語ですら存亡の危機に立たされていると言うのです。

toyokeizai.net

とはいえその時代だけで通用する「常識」とは別に、時代を経ても変わらない「真理」というものがある。それは諸行無常の法則であり、盛者必衰ことわりであります。この英語の天下も、いつかは春の夜の夢のごとく終わりを告げる日が来る。その暁に生き残るべき古典的名曲の歌詞は、必ずしも英語で書かれている必要はないのではないでしょうか。
BAND-MAIDが100%英語の歌詞を採用したとしましょう。BAND-MAIDのヴォーカルが、あの声で、あの姿で、上の「I'll」のような刺さる日本語の歌詞ではなくて、欧米のヒットソングをぎしたような下らないラブソングなどを英語で歌っているところを想像してごらんなさい。欧米人はよろこぶかも知れない。ビルボードのヒットチャートを席巻するかも知れません。だがそれは結局K-POP同様、英語圏の文化的消費構造に取り込まれるだけのことです。これが真の世界征服と言えるでしょうか。
この言語の問題については、BAND-MAIDのメンバーの間においても、またマネージメントサイドとの間においても、何度か話し合いが持たれたはずで、ひょっとすると今なお検討中だったりするのかも知れませんが、これについて今の路線を貫く――すなわちカタコトの英語混じりの日本語で行くと決断した小鳩ミクの真意については、正直言って、私もよくわかりません。個人的には彼女が書く日本語の歌詞が好きなので、これからもこのスタイルを継続されるよう希望しますが、ただこれは他の問題、たとえばコスチュームとか、例の「おまじないタイム」を含むライブの進め方とかいった問題と同様、基本的にBAND-MAID自分たちで決めて、やりたいようにやるべき事柄です。彼女たちはPerfumeやBABYMETALのような操り人形ではないのですから。

You can't controll me !
(あなたたちの言いなりにはならない)*1

ちなみに下はYouTubeの公式チャンネルで公開されたヴァージョンだが、ブルーレイには収録されている長くて重要なイントロが、なぜかカットされてゐる。


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*1:BAND-MAIDの楽曲「Warning!」(アルバム『Unseen World』所収)の歌詞からの引用。