魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

黒川博之『後妻業』

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表題の作品につきまして、一天一笑さんから紹介記事をいただきましたので掲載します。一天一笑さん、いつもありがとうございます。


黒川博之『後妻業』(文藝春秋社)を読了して
この作品は、皆様ご存知でしょうが、関西テレビ系で放送中のテレビドラマの原作です。
後妻業、読んで地の如くですね。昔から存在していかもしれませんが、それは個人の家の中の話でした。黒幕っぽい人は、いたかもしれませんが。
それを生業として、専門職・士業とチ-ムを組み、左程罪悪感を持たず、謂わば土足で他人様の家に入り込み、財産をそっくり譲り受け、それを分配する人達の小説です。
ですから、違法行為すれすれの事も、躊躇いもなく実行します。

さて登場人物ですが、テレビドラマとは、年齢設定が大幅に違います。原作ではヒロインの武内小夜子は、69歳です。被害者中瀬耕三に至っては、91歳です(死亡年齢に不足無しです。立派な葬式を出す意義があるのでしょうか?)。次女中瀬朋美も50代に入っているので、妊娠可能かどうかで悩むことはないでしょう。現代日本の置かれている状況、明るく言えば人生100年時代、暗く言えば果てしない介護問題、孤独死の問題、社会保障費の増大等をそのまま写しとったような家庭の年齢設定です。親世代の長寿の歪に後妻業の女が、住民票を移し被害者の家に家具(ドレッサー・ベッド・タンス)と一緒に入り込みます。そして、法律的には婚姻届ではなく公正証書をもって法定相続人の資格を得ます。
この公正証書は、費用と手間と時間はかかりますが、相続が発生した場合(死者が出た場合)はかなりの確率で有効な武器となります。これには胡散臭い司法書士が活躍します。
後妻業の女を送り込むのは、結婚相談所「ブライダル微祥」の柏木です。この柏木もまた賭けマージャン大好き、薬物使用ありの、極道の見本のような奴です。大学中退で人生の裏街道まっしぐらの人生です。おまけに柏木の父親は、落魄した元ヤクザで、しかも入れ墨が原因で肝炎に苦しんで死亡しています。柏木の周辺には真っ当な人間は一人としていません。

結局中瀬耕三の遺産は、分割協議書を作成する間もなく、小夜子が手に入れるのですが(勿論中瀬朋美側からの遺留分減殺請求は理論上可能ですが)、それからはツキが落ちたように、男の結婚詐欺師に騙されます。後妻業の女が詐欺師に騙されるようではヤキがまわっていますね。後妻業以外の賑やかな犯歴も明らかにされます。

テレビドラマのネタバレになりますが、小夜子は中途半端なチンピラの肉親に殺されます。
お金が原因です。金しか信じない人が金トラブルにより殺されてしまう。何とも言えない結末ですね。

全編を通して、人間の本質はそう簡単には変わらない。人生の駆け出しの頃を、まともに、真っ当に、当たり前に生きられなかった人は、社会からドロップアウトして、裏街道を生きていかざるを得なくなるペーソスを感じさせられる作品です。
しかし、人間70歳代になろうと、色と欲を剥き出しにして生きていく姿勢には、ある意味で感服されられました。

テレビドラマが気になる方、遺産相続に興味のある方などにお薦めします。
天一

後妻業 (文春文庫)

後妻業 (文春文庫)