魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

リェーナ・カーチナ vs. t.A.T.u.「Mステドタキャン」篇

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好評を博したMTVムービー・アワード2003(2003年5月31日開催)でのパフォーマンス。eng.tatysite.netより。

初来日当時の回想

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2020年4月、自宅内の「日本コーナー」でMTVロシアのインタビューを受けるリェーナ・カーチナ。「18歳の時、私は初めて日本を訪れました。日本は雰囲気も文化も全く違う国で、私は大きなショックを受けました。私は日本が大好きです」。mtv.ruより。

t.A.T.u.が初めて日本にやってきたのは2003年6月25日(水)。主たる目的はこちらの記事でご紹介したシングル「ショウ・ミー・ラヴ」のプロモーションビデオ(の続き)の撮影です。
今あらためてt.A.T.u.の初来日の頃のことを振り返ってみますと、やはりインターネットの普及による時代環境の変化について思わざるを得ません。
たとえばクイーンの初来日の頃(1975年4月)だと、若い読者には信じられないかも知れませんが、CDなんてものがまずなかったし、情報収集の手段としてはラジオやテレビの他には新聞雑誌の紙媒体だけ、それも生情報(英文記事)となるとお金をかけて取り寄せなければならず、当時十代だった我々にはとても大変だったように記憶します。しかし2003年には英文記事なんかタダでいくらでも読めた上に、YouTubeはなかったものの、音声ファイルや動画データも簡単に手に入り、情報収集は本当に楽になっておりました。
こちらの記事で触れた日本の女子高生たちによるファンサイトなど、ロシア語のサイトから直接情報を仕入れておりましたから、ことt.A.T.u.に関しては日本最強、大人たちが運営するどんなメディアにも負けないものでしたね。
そんならt.A.T.u.に関する正確な情報は、来日前からわれわれ日本人の間でしっかりと共有されていたのかと言えば、とんでもない話で、多くのファンは本当のt.A.T.u.については何も知らないまま、ただメディアが作り上げた虚像に対して熱を上げているという状態でした。

「Mステドタキャン事件」と「謎の銀座パレード現象」

「Mステドタキャン事件」そのものについては、多くのブロガーさんたちが既に書いておられますので詳しくは触れませんが、一応まとめておきますと、2003年6月27日(金)の夜20時から全国ネットで放送されたテレビ朝日の歌番組「ミュージック・ステーション」の冒頭に「パンツが見えそうなチェックのミニスカートと、胸が大きく開いた丈の短い白シャツのヘソ出しルック」で登場したt.A.T.u.は、愛想よく笑顔をふりまき、客席に向かって手を振ったりしておりました。司会のタモリ氏がスカートの丈について「短いですね!」と驚いたように言うと、リェーナ・カーチナは満面の笑顔で「もっと短い方がいいですか?」と答えた。そこまでは和やかな雰囲気だったのですが…

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番組冒頭の様子。tanteifile.comより。

下の引用は翌朝の『スポーツニッポン』紙の記事からの抜粋。

生放送中の午後8時半ごろ、楽屋は修羅場と化していた。招へい側の日本人スタッフが「待って」「帰らないで」と体を張って引き留めてもタトゥーサイドは「帰る!」の一点張り。とくにジュリア・ヴォルコバ(18)の表情が険しく、すがるスタッフを「行くわ!」と突き放した。
関係者によると、その直後に控室に戻ると、ジュリアはすぐさま私服に着替え、相棒のレナ・カティーナ(18)が「私は歌いたい」と訴えても聞く耳をもたなかったという。
怒りの理由は不明だが、プロデューサーのイヴァン・ショボヴァロフ氏(37)がスタジオから離れたホテルでテレビを見ていた際、登場場面について突然怒り、メンバーたちに「もう出演しなくていい」などと強く指示したという情報も。生放送中に出演者が帰ったのは番組開始から17年で初のトラブル。同局は「リハーサルも行って本番を迎えたのですが、放送が始まってからタトゥー本人とマネジャーが“出たくない”と言い出した。スタッフが説得したが、このような結果となり大変残念です」と困惑。番組スタッフによると、リハーサル段階から「世界のどこでもやったことがないから」との理由で通しリハを拒否したという。

タモリ氏が20時44分ごろ、かの有名なt.A.T.u.が出たくねぇということで…」というセリフを口にし、武内絵美アナウンサーがかたわらで「控室から出ていらっしゃらない…」と事情を説明していた頃には、二人はとうの昔に宿泊先のホテルへと逃げ帰った後で、控室はもぬけの殻でした。

翌28日の昼ごろ、ユーリャとリェーナが銀座をぶらついていると、おそらくt.A.T.u.のファンでも何でもないただの通行人たちがぞろぞろと二人の後をついて歩き出し、今もって不可解な一種のパレード状態が出来上がって、混乱を恐れた警察が出動する事態となりました。二人はやがて数名の芸能記者とカラオケ店に入り、「オール・ザ・シングス・シー・セッド」をノーギャラで披露。同店の女子従業員に対して失敬な態度を取った一人の記者をユーリャが一喝するという「武勇伝」のオマケまで付きました。

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謎の銀座パレード現象。eng.tatysite.netより。

日本人にとって侮辱的だったt.A.T.u.の「開き直り記者会見」

「Mステドタキャン」で一番被害をこうむったのは、私見では、視聴者からの抗議や問い合わせが殺到したというテレビ朝日ではなく、テレビ朝日が一方的に責任を押しつけたユニバーサル・ミュージック・ジャパンです。自分たちが招聘したアーティストが前代未聞の不祥事を仕出かしたということで、彼らがどんな苦境に立たされたかは、同じ日本人として察するに余りあります。
2003年6月27日(金)深夜、ユニバーサル・ミュージック・ジャパンが出した声明。

6/27(金)TV朝日系「ミュージック ステーション」
t.A.T.u. 生出演キャンセルについてのお詫び
 
 本日6/27(金)にTV朝日系「ミュージック ステーション」のオープニングに生出演をしておりましたt.A.T.u.(タトゥー)は番組の途中で急遽出演をキャンセルしました。
 本番中にマネージャーのイワン・シャポハロフよりメンバーに連絡が入り、マネージャーがアーティストを番組に出演させることを拒否。また、その意向を受けたアーティストも出演することを拒否しました。
 このため、スタッフは懸命な説得を行ないましたが、本番中にも関わらず、メンバーは現場から立ち去ってしまいました。
 今回の突然の現場におけるキャンセルにつきましては、テレビ朝日、および系列局の関係者の皆様、また番組の視聴者の皆様に多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。

ユニバーサルはこのようにテレビ局とその視聴者に対して平謝りに謝る一方、イワン・シャポヴァロフに対して早急に記者会見を開き、日本のファンに対して謝罪するよう、強く求めた。シャポヴァロフは表向きは承知しましたが、腹の中では更なる悪事を企んでおりました。
t.A.T.u.の「謝罪記者会見」(ネット上では「吊し上げ記者会見」とも呼ばれた)が行なわれたのは2003年6月29日(日)の夜のことです。

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東京での記者会見。eng.tatysite.netより。

会場に現れた二人は「♪♪♪ゴーーメナサ~~イ♪♪♪」*1な~んてしおらしく謝罪するどころか、「私たちは何も悪いことはしていない」「謝らなければならないいわれはない」などと高飛車な態度で開き直るばかり。席上、ユーリャはこれ見よがしに大あくびをし、またリェーナは片膝を立て、さも退屈そうに足をポリポリ掻いて見せました。この映像はテレビを通じて日本全国に配信されたのですが、これを見た善良な日本国民の皆さんは「行儀の悪い連中だ」と眉をひそめるといったレベルではもはやなくて、「日本そのものが侮辱されている」といった印象を持たれたことと思われます。翌朝、日本の各大衆紙「ふざけるな!!」「蛙のツラに✖✖」といった刺激的な見出しのもとに、大きな紙面を割いてt.A.T.u.を叩きましたが、それより前にネット上では「Mステドタキャン」直後よりもはるかに激しい「荒らし」の嵐が吹き荒れ、そのころ幾つかあった日本のファンサイトはみな滅茶滅茶になってしまいました。

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帰国の途に就くt.A.T.u.。eng.tatysite.netより。

2003年6月30日(月)、t.A.T.u.は成田空港から帰国の途に就きました。来日時は約300人のファンに出迎えられた二人でしたが、見送りに現れたファンは数十人程度。わたくし思うに、この数十人のファンというのは、そのころ「巨大掲示板」にt.A.T.u.に生卵をぶつけよう!!」などという不穏な書き込みが見られたところから、万が一の場合には身を挺してでも彼女たちを守るつもりで駆けつけられた方々ではなかったかと推察します。寂しいお別れとなりましたが、二人はむしろ来日時より上機嫌で、女子高生ファンたちにハグやらキスやらの大サービス!!「きっとまた来るわ!!」と言い残して意気揚々と日本を後にしました。

次第に上がったリェーナ・カーチナの評価

巨大掲示板」の過去ログ倉庫をあさっていて、こんな書き込みを見つけました。

379 :文責・名無しさん:03/06/30 14:21
恥をかかされたのはテロ朝
オイシイ思いをしたのはプロデューサーの
独占密着取材をしてたフジテレビ
これはフジが仕掛けたテロ朝潰しだよ

これは何のことかと申しますと、2003年6月27日の夜、テレビ朝日が「ミュージック・ステーション」を放送していたちょうどその頃、フジテレビはシャポヴァロフに「独占密着取材」をしておりまして、シャポヴァロフがt.A.T.u.にドタキャンの指示を出してから、二人が宿泊先のホテルに逃げ帰ってくるまでの一部始終をカメラに収めていたのです。この「衝撃映像」が公開されたのは、私の記憶に間違いがなければ、確か2003年6月29日(日)の夜、上の「開き直り記者会見」や日本テレビの「バンキシャ!」のインタビュー映像が流れた後だったかと思います。そこで今なお私の心の中でモヤモヤしているのは、ひょっとするとシャポヴァロフはテレビの生放送中、t.A.T.u.に何かハプニングを起こさせるという情報を、あらかじめ他局に漏らしていたのではないか、という疑惑です。
ホテルの一室で、シャポヴァロフがテレビを見ている。テレビでは「ミュージック・ステーション」が放送中です。そこへユーリャが息を切らして帰ってくる。いかにも「してやったり!」と言いたげな、達成感あふれる喜びの表情。そして二人は日本の悪口(特にシャポヴァロフが希望していた場所でのPV撮影を許可しなかった日本の警察と、この交渉について無策だったユニバーサル・ミュージック・ジャパンの悪口)を言い合って、大いに盛り上がった。
ところがその頃リェーナは、何故かホテル前の暗い路上に、可愛らしいステージ衣装のまま、ひとりポツンと立っていた。見れば「いまだに何か起こったのか理解できない」という顔をしている。その心情を察した若い日本人女性レポーターが優しく、
「歌いたかった?」
と尋ねると、リェーナはこう答えた。
「はい…でもこうなってしまった以上、もう取り返しがつきませんよね…」

これは私が会員登録していたアメリカのファンサイトでの話ですが、時が経つにつれ、派手な言動で目立つユーリャ・ヴォルコヴァから、大人しくて目立たないリェーナ・カーチナの方へと、人気が移っていく傾向が見られたのです。
リェーナについて一番に高く評価されたのは、その美貌と歌唱力もさることながら、その語学力でした。英語圏のサイトでは(いつも横に「引き立て役」がくっついていたせいかも知れませんが)「リェーナの英語は完璧!」と絶賛する声が多かった。事実、彼女の語学の才は天賦のもののようで、彼女は日本語の読み書きができますし、また一枚目のソロアルバムでは英語版の他にスペイン語版をもリリースしたことはこちらの記事でも触れた通りです。同じ音楽作品を二ヶ国語で製作するということが決して生易しい作業でないことは言うまでもありません。
そしてもう一つ高く評価された点が、このリェーナ・カーチナという少女が、若いに似ず、常識を重んじる子だという点でした。そもそもこのt.A.T.u.劇場」という奴は、しばらく見ていれば、どこまでがシャポヴァロフに言わされているセリフで、どこからが彼女たちの本音なのか、容易に見破ることができるようになるものなので、いつもシャポヴァロフと結託して騒ぎを起こしているように見えるユーリャよりも、他の二人とは和して同ぜずという態度を貫いているように見えるリェーナの方が、多くのコアなファンにとって魅力的に映るようになってきたのはある意味で当然でした。「Mステドタキャン」とその後の「開き直り記者会見」のニュースは海外のファンサイトでも大きく取り上げられ、これはひどい。日本人が怒るのも無理はない」との声が多く聞かれましたけれども、それでもなお皆がt.A.T.u.を見捨てなかったのは、リェーナ・カーチナの節度ある行動に一縷の希望を繋いでいたからなのでした。

過去ログ倉庫で見つけた書き込みをもう一件貼っておきます。事件の真相がコンパクトにまとめられています。

415 :TATUの2人は素直:03/07/01 00:38
私はあの2人の女の子は素直でよい子だと思うよ。
全ての元凶はプロデューサー。
M捨てだって、彼女たちがへそ曲げたわけでなく、上の作戦。
彼女たちは素直にプロデューサーを信じ、役を演じているだけ。

私がそう思ったのは、例の銀座散歩の時。
レナ(茶髪の子は確かこの名前だったよな?)がファンの差し出すメモ帳にサインしまくって歩きが遅くなった。
すかさずジュリアが戻ってきて言ったのが、
「ちゃんとペース守って歩けって言われてるじゃない!ほらいくよ!」
そのままジュリアがレナをつれて小走りでスタッフたちのいる先頭へ。
(上記の光景を朝のワイドショーで見た。)

これでわかったのは、もともと不良ぽさは彼女たちの地でないということ。
全て振付けている奴がいるということ。
だから、今回の件で彼女たちを責めるのは筋違い。

*1:「GOMENASAI」はt.A.T.u.の英語版のセカンド・アルバム『デンジャラス・アンド・ムーヴィング』(2005年)に収められた楽曲。リチャード・カーペンターのアレンジで話題を呼んだ。
t.A.T.u. - Gomenasai