魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

リェーナ・カーチナ vs. t.A.T.u.「なんちゃって女子高生大行進」篇

t.A.T.u. vs. スコットランドヤード

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2003年5月6日、ロンドンのHMVオックスフォード・サーカス店にて。eng.tatysite.netより。

スケジュール管理能力がないと言うよりも「スケジュールを管理しなければならない」という基本的観念が欠落しているイワン・シャポヴァロフは、2003年5月の訪英の際、前回お話したとおり、予定されていた全公演が中止になったことで「余った」時間を有効に活用しようと試みますが、もちろん彼の場合、それはアーティスティックな意味ではなくて、もっぱら広告宣伝に関する「有効活用」です。私の記憶では、この時も彼が最初に言い出したのは「t.A.T.u.はロンドン橋を女性ファンたちとともに全裸行進する」というような話で、このアイディア(だかジョークだか何だか知りませんが)に対してユーリャ・ヴォルコヴァは大いに乗り気だったが、リェーナ・カーチナが頑として応じなかったため、実現しなかったと伝えられました。そこでシャポヴァロフはもう少しだけ常識的な案に切り替えます。
2003年5月6日、t.A.T.u.はロンドンのCDショップ、HMVオックスフォード・サーカス店にてミニライブを行ない、詰めかけた女性ファン(約350人と伝えられた)に向かって「新しいプロモーション・ビデオの撮影にぜひ参加してください。16歳以上の女の子は、私たちのビデオに出てくるような学生服を着て、明朝9時にウェストミンスター橋の南端に集まって」と呼びかけた。翌5月7日の朝、集合場所には多くの女性ファンが集まったが、そこが国会議事堂のすぐ近くだったため、会期中にこのように大勢の人が集まると、国会の運営に支障を来たす恐れがあるとして、撮影場所の移動を命じられました。
ロンドン警視庁の女性広報担当官の言い分。「昨日、ファクスで通知が来ましたが、そこには100名のエキストラの他に、マスコミ関係者も集まると書いてありました。もしマスコミが動いていたら、もっと大騒ぎになっていたことでしょう。われわれは何もビデオ撮影を禁止するために来たのではなく、ただ24時間前の通知が必要という規則に違反しているため、認められないという旨を伝えに来たのです」結局ビデオ撮影は日が傾いてから、ミレニアム歩道橋へと移動して行なわれましたが、「話題作りに利用されただけ」と思い込んだファンの多くはそれまでに姿を消してしまっていたということです。
南ヨークシャーから来たという20歳の「なんちゃって女子高生」は、記者の質問に答えてこう嘆いた。「コンサートを中止された上に、今度はこの有様。もう冗談の域を超えている。泣きっ面に蜂だわ」
しかし辛抱強く待ち続けた1ダースほどのファンは、憧れのアイドルと夢の共演を果たしました。彼女たちは警察から16歳未満でない由、チェックを受けた上、約50名のエキストラ(シャポヴァロフがかき集めた現地の女優やモデル)と合流し、t.A.T.u.を先頭にミレニアム歩道橋上を行進した。橋は撮影の間じゅう、一般に開放され、数人の仕事帰りの労働者たちがこの行列に随行する栄誉に浴しました。何だかんだと言いながらも、スコットランドヤードt.A.T.u に対して寛大だったんですね。

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ロンドンでの撮影風景。向こうにセントポール大聖堂が見える。eng.tatysite.netより。

なお撮影はこれ以外の場所でも行われ、雇われて参加した24歳の女優さんは「詳細は明かせませんが、今日はバスに乗ってレスタースクエアやハイドパークなど、ロンドンのあらゆる名所を回りましたよ」と語ったということです。

t.A.T.u. vs. クレムリン

ロンドンでの撮影の成功(?)に気をよくしたシャポヴァロフは、今度はモスクワに帰ってからこの続きを撮影しようとしましたが、当局からなかなか許可が下りなかったため、無許可で撮影を強行しようとしたところ、警察に逮捕されてしまいました。下は2003年5月16日付の『ザ・ザン』紙の記事。


ゲスなt.A.T.u.のボス、レズビアンの宣伝で逮捕さる

小児性愛ポップデュオ」t.A.T.u.を背後で操っている男が昨日逮捕され、未成年の少女たちのモラルを堕落させようとした罪に問われた。
イワン・シャポヴァロフ(36)は、モスクワの赤の広場で、300人以上の少女たちをレズビアン・デュオの新しいビデオに出演させる手配をした後に捕えられた。
少女たちは全員、丈の短いスカートが特徴の「t.A.T.u.ユニフォーム」を着ていたが、そのうちの多くは七歳程度の幼女だった。
驚愕したt.A.T.u.のシンガー、ユーリャ・ヴォルコヴァとリェーナ・カーチナ(ともに18)は、彼女たちのマネージャーが連行されるのを絶句して見守った。
警官の一人が言った。「彼は10ルーブル(20ポンド)の謝礼と引き換えにポーズを取るよう求めることで、少女たちのモラルを脅かした。われわれは彼が少女たちを搾取するのを止めたかった。彼が彼女たちと何をしようとしていたのかは知らない」
その後、シャポヴァロフは裁判官から訓戒を受けた。シャポヴァロフは法廷で、赤の広場でビデオを撮りたいという彼の要望はクレムリンによって二度却下されたと述べた。
t.A.T.u.がロシア代表として出場するユーロヴィジョン・ソング・コンテストにおいて上映される予定だったビデオの撮影は、このようにして昨日頓挫した。(以下略)


しかし他紙の報道によれば、シャポヴァロフはその後釈放され、赤の広場での撮影はこれまた日が傾いてから行われました。t.A.T.u.の女性マネージャーが報道陣を前に「当局はユーロヴィジョンの勝利の行方に関心がないのか?」「ポール・マッカートニーには許可を出すのに、なぜt.A.T.u.には許可を出さない?」などと愚痴ったのが功を奏したのかも知れません(ポール・マッカートニー赤の広場でのギグは5月24日に予定されておりました)。シャポヴァロフが出演料を支払った少女たちというのはさる芸能事務所に所属するプロの女優さんたちであったようです。

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モスクワでの撮影風景。eng.tatysite.netより。

それにしても、ロシアの女の子というのは、何でみんなこんなに可愛いのでしょうか?日本の女の子には劣りますが。

日本の警察の対応に逆ギレしたイワン・シャポヴァロフ

少し先回りしてお話しする形になりますが、イワン・シャポヴァロフはこのビデオの続きを日本でも撮影するつもりで、2003年6月の来日前から参加者を募集しておりました。下のページはその歴史的資料となります。

www.barks.jp

以下は2003年6月22日付の「サンケイスポーツ」紙の記事からの引用(英訳からの重訳)。


t.A.T.u.のビデオ撮影に35,389人が応募

6月25日に来日するロシアの女子高生デュオ t.A.T.u.のプロモーション・ビデオへの出演希望者が35,389人に達したことが21日、わかった。応募者にはテレビ番組のパーソナリティやテレビ局の女子アナウンサーが含まれ、t.A.T.u.の人気がますます過熱していることを示している。
デビューアルバムを100万枚以上売り上げたことで、t.A.T.u.の日本国内での人気はすでに実証済みだが、初来日を数日後に控え、t.A.T.u.フィーバーのさらなる盛り上がりを見せつけた格好だ。
シングルカット曲「ショウ・ミー・ラブ」のために、今月29日、東京のさまざまな場所で行われる予定のビデオ撮影は、今回の来日のメイン・イベントだ。t.A.T.u.のプロデューサー、イワン・シャポヴァロフ(37)の求めに応じて、ユニバーサル・インターナショナルがビデオへの出演希望者を募集したところ、20日の締め切りまでに、35,389人の女性が応募した。
応募者の内訳を見ると、圧倒的な数の女子高生のほかに、テレビ局の女子アナウンサーや、芸能界の女性タレントからも応募があったことに驚いている、とユニバーサルは言う。
ユニバーサルは25日までに、出演者を300人に絞り込むことにしている。シャポヴァロフは今日(22日)、t.A.T.u.の二人よりもひと足早く日本に到着し、撮影場所の選定を行なうほか、出演者の選抜にも加わる可能性がある。
t.A.T.u.は世界各国でさまざまな騒動を引き起こしており、5月のモスクワの赤の広場では、当局に無許可で撮影を強行したため、二人は警察に連行された。彼女たちは東京ではどんな騒ぎを巻き起こすのだろうか?二人の動向から目が離せない。


あたかも赤の広場で拘束されたのはリェーナとユーリャであったかのごとく(故意に?)誤報しているあたり、なかなか興味深いものがあります。
しかしながらこのビデオの日本での撮影は実現しませんでした。日本の警察がt.A.T.u.のビデオ撮影を禁じたというニュースは、時事通信を通じて全世界に配信されました。それによりますと、シャポヴァロフは銀座と秋葉原の「歩行者天国」、および壇上寺での撮影を希望しており、日本の警察は混乱を恐れて許可しなかったと伝えられましたが、警視庁はこれについて正式なコメントを出さなかった。要するに日本の警察はt.A.T.u.をハナから相手にしなかったのです。イワン・シャポヴァロフはこの時の日本の警察の対応を根に持っており、彼のこれに対する報復が例の「Mステドタキャン事件」だったという説があります。

「ヤー・トヴァヤー・ニェ・ピェールヴァヤ(Ya Tvoya Ne Pervaya)」の歌詞和訳

下はこのビデオの完成形のうちのひとつ(ロシア語とスペイン語の字幕入り)で、t.A.T.u.のデビューアルバムからのシングルカット第三弾となるはずだった「ショウ・ミー・ラブ(ロシア語のタイトルは『ヤー・トヴァヤー・ニェ・ピェールヴァヤ(あなたが初めて愛したのは私ではない)』)」という曲のプロモーション・ビデオです。2003年12月1日の東京ドーム公演の際に初めて公開されたということですが、正式にリリースされた記録はなく、現在は幾つかのヴァージョンがネット上をさまよっているという状態です。


t.A.T.u - Я Твоя Не Первая/ya tvoya ne pervaya (pokashi) show me love (RU) - subtítulos en español

「もしもし」
「もしもし」
「嵐が来そうよ」
「それで?」
「窓の外を見て」
「それで?」
「昨日までは晴れていたのに…」
「それで?」
「あなた、どうして同じことしか言わないの」
「私は自動応答機」(電話を切る音)

乱れた心を鎮めなさい
沈黙は金
不眠症の電波
さよならの駅
誰が誰を抱くの
硬貨の雨を降らせながら
誰が誰を捨てるの
心をすさませ 薬に溺れさせて
夜の窓辺
その向こう側で
彼女は泣き叫ぶ 恋に敗れて
それは何でもないこと よくある話
彼女は不実で誠実で 無口で悲しそう
あなたが初めて愛したのは私ではなく
私はあなたを偶然選んだだけ

(コーラス)
見せてよ あなたの愛を
教えてよ 私たちが今一緒にいるわけを

出会わない方が楽
かも知れない そんな気もする
乱れた心を鎮めたい
誰がそう願わないかしら
女の子は女の子らしく
夢を見ながら夜をさまよう
番号と矢印
板チョコ そしてキャンディーの包み紙
彼女は身を隠す
彼女は泣き叫ぶ
彼女は言葉をしゃべり 恐怖に震え上がる
それは何でもないこと よくある話
彼女は不実で誠実で 無口で悲しそう
あなたが初めて愛したのは私ではなく
私はあなたを偶然選んだだけ

(コーラス くりかえし)

以上は「ヤー・トヴァヤー・ニェ・ピェールヴァヤ(Ya Tvoya Ne Pervaya)」の歌詞の和訳(英訳からの重訳)となります。
ちなみに上のビデオを初めてご覧になる方は、日本で撮影されたシーンが多いことにおそらく一驚されるでしょう。私に判別できるだけでも、当時日本のプライム・ミニスターを務めていた小泉純一郎氏や民主党代表だった菅直人氏、それにニュースキャスターの福澤朗氏といった有名人の顔が見えます。これはなぜかというと、また後でも触れますが、「Mステドタキャン」直後、日本のテレビ局はこぞってt.A.T.u.に関する特番を組んだため、t.A.T.u.の二人はある意味でひっぱりだこ状態だったからです。シャポヴァロフは正式なビデオ撮影には失敗しましたが、その代わりになる宣伝用の映像をちゃっかり手に入れていたというわけです。

蛇足:ユーリャの「浮気」の件

2003年5月の訪英の際の出来事で、もうひとつ忘れられないことがあります。
ユーリャは夜遊びが好きで、ロンドンに滞在中(どこに滞在しても同じでしたが)、スタッフらとともに夜ごと夜の街へと繰り出していた。リェーナはそれには付き合わず、自室で本を読んでいるのが常でした。

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2003年5月、ロンドンのナイトクラブにて。eng.tatysite.netより。

上の写真は、そんなある夜、ユーリャがロンドンのとある有名なナイトクラブを訪れた時のものです。ユーリャのうしろに写っている金髪巻き毛(?)の可愛らしいお嬢さんにご注目ください。
問題は下の写真です。

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eng.tatysite.netより。

少し見にくいですが、二人は車の後部座席に座って話をしているようです。互いに手を握っています。
当時私が入りびたっていたアメリカのファンサイトでは、この写真が投稿されるや否や、「ユーリャが浮気してる!!」「リェーナがかわいそう!!」といった感情的なコメントが殺到し、ハチの巣をつついたような騒ぎというよりも、ほとんど阿鼻叫喚地獄的な混乱状態が出現しました。
もちろん、くだんの美少女がどこの何者なのかは未だにわかりませんし、二人がどういう関係だったのか、いや、そもそも二人の間に何か関係があったのかどうかさえ、今もってさっぱりわからんのです。仮に二人の間に何かあったとしても、リェーナとユーリャはガチのカップルではなく、ビジネスパートナーに過ぎなかったわけですから、ユーリャの側からすれば、これを「浮気」呼ばわりされるのは心外でしょう。
にもかかわらず、こうした混乱状態は、これからも出現すると思われます。とにかくt.A.T.u.のファンというのは、単純で、短絡的で、思い込みの激しい人が多いのです。私も人のことは言えませんが。